第40話 「錬金術の秘奥」
2020/4/1
タイトル改訂。
『眷属強化』や『空間魔法』などのために自身に経験値を大量に振ったレアは、もはや大森林周辺にいるどのエネミーと戦っても経験値を獲得できなくなっていた。
しかしながら無強化のアリの班や小隊などでゴブリンの集団を狩るなどすれば、間接的にレアに経験値が入る。大量というほどでもないが、現在のように牧場を運営し、定期的に計画的に行えば日当たりの収入としては悪くない稼ぎであった。
どのみち、この周辺で自分で戦うことなどもはやない。格の差による取得経験値の低下など気にする段階はとうに過ぎてしまっている。であれば、そろそろまた新たなスキルの開発などに投資してもいい頃合いではないだろうか。
レアはこうして思索にふけっている間にも自動的に増えていく経験値を見ながら、以前より気になっていたスキルを本格的に開発してみることにした。
それは『錬金』だ。
いわゆる錬金術に通じるスキルツリーだと思われるが、SNSなど見てみても、初期スキルの『錬成』と『調薬』からの『錬精』以外に見つかっていない。もちろんレアの『使役』などのように秘匿しているプレイヤーもいるのかもしれないが、つまり普通にやっていては見つけられない何かがあるのだろう。
レアが『錬金』に目をつけたのは、キャラクタークリエイトで選択できる種族「ホムンクルス」のためだ。
ホムンクルスといえば、錬金術によって生み出される人造の生命体として有名だ。関係あると考えるほうが自然である。
クローズドテストでは、ホムンクルスは一回り小さいヒューマンといった外見で、能力値はヒューマンと比べINTが高めに設定されていた。そのせいで総合力でヒューマンを上回るが、にもかかわらず経験値の追加消費はなかった。その理由として、普段人類種国家の街中で生活する分には問題ないが、一度その正体がホムンクルスと判明すれば、街のNPCに魔物扱いを受け、討伐か捕獲されてしまうというデメリットが上げられる。
このことからも「人造の生命体」という考えは間違っていないように思える。狂気の錬金術師が禁術によって生み出した魔物、というわけだ。
レアは『錬金』スキルを開放していくことでこのホムンクルスを製造出来ないかと考えていた。
とりあえずは『錬成』を取得してみる。
これで何もアンロックされない場合、『調薬』も取ってみるしかない。この際、経験値はどうせ余っているのだし、安く取得できる攻撃系でない魔法技能もいくつか取ってしまってもいい。『風魔法』の『乾燥』や『火魔法』の『加熱』など、『錬金』で必要になるとしてもおかしくはない。
『調薬』から始まり、『錬精』『乾燥』『加熱』『洗浄』『通電』『冷却』『粉砕』までを取った辺りで、『錬金』ツリーに『錬金』がアンロックされた。
『錬金』ツリーと名前がついているにも関わらず『錬金』がアンロックされる条件が厳しすぎる。
『錬金』を取得すると、すぐにその次に『哲学者の卵』、『アタノール』というスキルがアンロックされた。
問題なく出たというよりは、何らかの条件をレアがすでに満たしていたためだろう。それがどのスキルなのかは今更わからないが。しかし、これは。
「……これは……器具の名前では?」
ヘルプを見るとどちらのスキルにも「『大いなる業』の発動に必要。『錬金』スキルの判定にプラス補正」となっている。前提条件スキルだとしても、雑すぎる。
「まぁこのあたりは、あまりつっこむと面倒な団体が湧いてきたりするから……」
気を取り直して『哲学者の卵』と『アタノール』を取得する。
そして現れたスキルは。
「『大いなる業』……。まぁ、名前出てたしね」
しかし『大いなる業』が十全に扱えるとなれば、一般的に考えれば秘奥である賢者の石も作成できるということになる。そこまで可能かどうかは不明だし、必要経験値100と破格の数字だが、せっかくここまで来たのだし取得する。
「なるほど……。やはり環境や条件など外的要因に左右される部分はマジカルな何かで補完してくれるのか。必要なのは材料だけだな。それと『哲学者の卵』、『アタノール』、『大いなる業』と連続で使用できるだけの膨大なMPが必要なようだ。まぁ、今のわたしなら余裕だが」
必要な材料で本来のホムンクルスの材料を要求されたらどうしようかと思ったが、流石に材料はゲーム的な魔物素材や魔法金属などで構成されていた。ただし、いくつか不明な材料もある。
これはおそらく、ゲーム内でレアが目にしたことがあるかどうかが材料判明のキーになっているのだろう。ホムンクルスの材料で明確になっているのは「魔物の心臓」と「魂」だけだった。
アイテムとしての「魂」など見たことがないが、これはもしかして『魂縛』によって奪える死者の魂のことだろうか。
「もしそうだとしたら、人造の生命といってもまるっきりゼロから生み出すことは出来ないってことかな」
レアはせっかく取得したこのスキルを使ってみたい衝動に駆られた。
今作成できるのはひとつだけだ。尤も、ホムンクルスと違いこちらは名前の部分だけが不明になっている。
「何が出来るんだろうこれ。ホムンクルスとかと同じカテゴリーにあるってことは、人造生命系とかそういう冒涜的な何かだと思うのだけど。でも材料が金属とかばっかりなんだよね……。変わったものといえば、「騎士の怨念」とかいう……これ何だろう。見えてるってことはわたし見たことあるんだよなこれ」
騎士関連、あるいは怨念関連でレアに心当たりがあるとすれば、騎士団の墓地である。
「墓地に落ちてた何かなのかな。まいったな、あそこ色々あったけど、朽ちかけた鎧とか盾とか剣とか骨とかしか見てないぞ。そんな特殊なアイテムあったかな?」
〈とりあえず、一通り拾ってきたらいかがでしょう? どれかは当たるでしょうし、どれも駄目ならば、普通の鎧や骨などではないという立証にもなります〉
レアの独り言にスガルがフレンドチャットで答えてくる。これがあるせいで、最近のレアは独り言が増えていた。
「そうだね。そうしよう。悪いけど、哨戒中のアリたちに頼んでもらっていいかい?」
〈おまかせください〉
「あとは、金属だね。たんに「精錬された金属塊」としか書いてないし、何を使ったらいいのかもわからないけど……。とりあえずうちの鉱床から出る金属で、一番いいものを使ってみようか。スガル、これも誰かに言って持ってこさせて」
〈はい、ボス〉
この大森林の鉱床は元は街のNPCたちが掘っていたものだが、現在ではレアたちが制圧し、支配下に置いている。NPCたちは技術的な問題か、魔物の領域に深く入り込むことを恐れてかは不明だが、浅層で露天掘りなどのような事しか行なっていなかった。
しかし大森林そのものが拠点であり、アリという無限に湧き出る鉱夫のいるレアは、そのような遠慮をする必要がない。しかも工兵アリの酸は岩や鉱物を溶かすが、自分たちより高ランクの物は溶かせない。これを利用して坑道を広げさせてみたところ、掘らせた坑道に溶け残った鉄鉱石や銀鉱石、それからよくわからないマジカル金属などが散乱しているという超高効率の採掘作業が可能になっていた。
現在はレミーが監督となり、大森林の中心部でこれらの酸と、石炭から作り出したコークスを使って金属の精錬作業を行わせている。
「ああ、そういえばレミーにも覚えさせてない非戦闘魔法を覚えさせなくてはね。『錬金』だけでなく、『鍛冶』や『裁縫』や『革細工』なんかでもスキルがアンロックされるかもしれないし」
それからしばらくして、歩兵アリたちが指定のものを持ってきた。




