第37話 「墓地から5分の好立地。ただし廃墟」
2020/4/1
タイトル改訂。
しばらく移動し、そろそろテイムの目処をつけなければ日が昇るまでに城に帰れなくなるくらいの距離を走った頃、ブランは打ち捨てられた墓地を見つけた。
もう少し先に町のようなものも見えたが、明かりが全く灯っていないため、あれらは廃墟なのだろう。
町ごとどこかへ引っ越したのだろうか。
「まぁこの辺ゾンビとか多いし住むのきついよね……」
墓地の中はどうせゾンビやスケルトンしか居ないだろうし、廃墟の中も同様だろう。ブランはもう引き返そうかと考えた。
「別に今日どうしてもほしいって言うわけじゃないしね……。最悪、スケルトンでもいいかなぁって思ったり」
伯爵と同じようにスケルトンを『使役』しようとした場合に、自分のときとどう違うのかは興味があった。
もし単に吸血鬼の従者になってしまうようならば、自分との違いはなんだろうか。
考えられるのは6属性も取得していた魔法スキルか、INTの高さである。どちらかが意志ある死者の条件で、どちらか、あるいは両方が下級吸血鬼の条件だったのだろう。
しかしテイムする前にINTを上げたり魔法を覚えさせたりは出来ないため、検証しようにも簡単には出来ない。
テイムした後に何かしらの手段で再度転生させてやる必要があるだろう。
「テイムした後吸血鬼になった場合はそのまま支配できるみたいなこと伯爵言ってたし、あとで聞いてみよう」
であれば、墓地の中も覗いてみることにする。
墓地の中は荒野と違い、アンデッド以外の生き物も少し居るように見えた。
たとえばたった今、襲いかかってきたコウモリなどである。
「うおあびっくりした!」
何匹ものコウモリがブランにまとわりつく。目的は不明だが、食事だろうか。仮に吸血コウモリか何かだった場合、吸血鬼であるブランから血は吸えるのだろうか。
「ええい! 『恐怖』だ! こらー! 恐れろ!」
するとバタバタとコウモリたちが落ちていく。
「ふー。効いてよかった……。あんま成功率高くないみたいなこと聞いたことあるよな気がするけど、わたし吸血鬼でこの子ら吸血コウモリ(暫定)だし、なんか特効でもあったのかな」
地面にうずくまり、震えるコウモリたち。それを見ていると、なんとなく悪いことをしたような気になってくる。
「ていうかわたし、ゲーム始めてからアリとアンデッドにしか会ってないな……。生きてる生物か……」
悪くないかもしれない。いかにも吸血鬼という感じだし、これだけ数がいれば多少弱くてもゾンビくらいならば倒せるだろう。
いざというときに目眩ましなどにも使えるかもしれないし、何より伯爵のようにスパイの真似事もできそうだ。
「コウモリってたしか天鼠とかって別名もあったし、ネズミ伯爵の後輩としてはいいかもしれない!」
ブランはあたりにうずくまるコウモリたちに、1匹1匹『使役』をかけて回った。
『支配』は省いたが、伯爵の言うように実力差が大きかったせいだろう。滞りなくすべてテイムに成功した。
「全部で9匹かー。種族は……デスモダス? 見た目の割にゴツい名前だ……」
コウモリたちは歩いてブランに寄ってくる。
「歩けるのかよコウモリ! しかも意外と速いな!」
このままでは連れて行くのは困難なので、とりあえず両手に抱えた。
「リアルだったら感染症とか気にするところだけど、まぁいいよね。仮に何かあってもわたし吸血鬼だしね」
ブランは目的を達したため、城に帰ることにした。
かっこいいわけでも、強いわけでもない眷属だが、そこは数でカバーだ。
「まぁ可愛いと言えなくもないし、いっか。さ、帰ろう」
帰りはやや急ぎ、なんとか日が昇る前に古城に帰り着くことが出来た。
「ただいまー!」
「うむ……。なんだそれは? コウモリか?」
「吸血鬼っぽくない? あとネズミの仲間だし」
「吸血鬼にふさわしいというのはわからぬでもないが、コウモリとネズミは別の種だぞ」
「えっ」
天鼠とはなんだったのか。
「ま、まぁいいや。そういえば先輩、使役した後吸血鬼になったならそのまま支配していられるみたいなこと言ってたけど、使役した魔物が吸血鬼に転生することってあるんですか?」
「うむ。特定の条件を満たしている場合などに、特別な血を飲ませることで転生させてやることが可能だ」
「特別な血」
「より高次の吸血鬼の血だな。たとえば条件を満たした意志ある死者に我の血を飲ませれば下級吸血鬼に転生できるやもしれぬ。試したことがないゆえわからぬが」
「それはわたしの血じゃだめなんです?」
「うーむ……。もう少し、格を上げねば無理だろうな。吸血鬼の従者を意志ある死者に転生させるくらいならば、出来るやもしれぬが……」
「格……」
「さほど、遠い先のことでもあるまい。ほれ、貴様はもう「下級」が取れておる」
ブランが言われて自分の能力を確認してみると、たしかに下級吸血鬼から吸血鬼に変わっていた。
「いつの間に……」
「『精神魔法』か『使役』を取得したときであろうな。あれらは相当の格を必要とする」
つまり、経験値を稼いで自分に投資しろということだ。
「でもこの辺りのゾンビたちじゃもうあんまり経験値稼げないんですよね……」
伯爵は少し考え、答えた。
「この城の地下から出られる地下水脈にな、確かリザードマンどもが巣食っていたはずだ。あやつらならゾンビどもよりは食いでがあろう」
「リザードマン! そんなの居たんですね! この城地下あったんですか?」
伯爵は呆れた。
「お前が来たのがその地下だ。まぁどうせどこぞより迷い込んで、帰れぬままここまで辿り着いてしまったのであろうが……。簡単な道順を描いてやるゆえ、行ってみるがいい。あそこならば陽の光は届かぬ。昼でも十分遊べよう」
「あざーす!」
「ふはは。それからそのコウモリたちだが、我らにゆかりのある種のようだな。もしかしたらなんらかの条件で、そやつらも転生させられるやもしれぬ。育ててやるがいい」
「おー! がんばります!」
最初見たときは、痛いお兄さんだなぁと思ったものだが、慣れてくるとなかなかどうして、この口調すら可愛らしく思えてくるから不思議なものだ。
「ほら、地図だ。簡易なものだが、城から出る程度ならば迷うまい。リザードマンどもならば『精神魔法』も使い放題であるし、さほど苦労はすまいから、やれそうならコウモリたちにも経験を積ませてやるといい」
「リザードマンなら『精神魔法』使い放題ってどういう意味ですか?」
「む? 説明しておらんかったか? 『精神魔法』はアンデッドには効かぬ。ゆえにこの城の外ではあまり使い道がないのだ」
「初耳っす! てか、伯爵初対面のときわたしに『魅了』とかかけまくりじゃなかったでしたっけ?」
「まあ抜け道があってな。それはまたおいおい教えてやる」
気にはなったが、いずれ教えてくれると言うのならとりあえずはよしとする。早く経験値稼ぎがしたい気持ちもあった。
「では行ってきます!」
「うむ。ではな」
ブランは早速地下へ降り、地下水脈へと向かった。ここでようやく初期スポーン位置を発見したが、その先はどうせ行き止まりであり、今行っても仕方がない。
コウモリたちはマントの中で、ブランにしがみつかせている。よほど無理な挙動をしなければ問題あるまい。




