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第36話 「下級じゃない吸血鬼の力」

2020/4/1

タイトル改訂。





 ブランはあれから、ゲーム時間が夜の間だけ古城の外の荒野に出て狩りなどをし、日が昇る前に古城へ戻り、昼の間は古城でログアウト――眠ったり、伯爵の話し相手になるなどして過ごしていた。

 1日ログインできない日があり、いつの間にか正式サービスが始まっていたが、利用料はアカウントを作成した際に紐付けした仮想通貨のウォレットから自動で引き落としになるので問題ない。利用規約もろくに見ずに承諾してある。


 あの時、転生はしたが『使役』は断るという初代マスクドバイク乗りバリのわがままムーブをぶちかましたブランだったが、ハビランド伯爵の心証はむしろよかった。

 彼は自力で下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)に至ったブランを高く評価し、自身の友人扱いとして城は自由に使って構わないとまで言ってくれたのだ。


「どのみち、自分の眷属として吸血鬼に至ったものならば支配できるが、自力で吸血鬼になってしまったものは簡単には支配できぬゆえな」


 城の客室のひとつをブラン専用の部屋として用意してくれ、システムメッセージによってその部屋がブランのパーソナルホームになったことがわかった。つまり、土地を買って自分の家を建てるのではなく、大家に部屋を借りる賃貸の状態である。


 とはいえ、せっかくなのだしいつかは一国一城の主になりたい。ブランは単に持ち家が欲しいという程度のことだったが、比喩としてそう言った言葉を伯爵は言葉通りに受け取り、笑いながら滅亡させるのに手ごろな国などを教えてくれた。もっと力をつけたら襲撃してみるがいい、と。


「でもその国、公式……ええと、前に聞いた話だと、豊かでもないが貧しくもなく安定した国力の国だとかなんとか……」


「ふん。安定しているとはよく言ったものだ。人でも国でも、定命のものにとっての安定など緩やかな衰退にすぎぬ」


「なるほど……。たしかにそういう話はどっかで聞いたことあるような」


「それにあの国はすでに長く停滞しすぎた。人材の流れが停滞した国はそこから腐ってゆくものよ。いずれ、分裂とまでいくかはわからぬが、国の中枢は割れるだろうよ。裏ではすでに熾烈な派閥争いなどしておるようだし、時間の問題よ」


「こんな古城に籠ってるのに、どうしてそんな情報がわかるんですか?」


「古城て……まぁよい。ネズミを潜り込ませておるのでな」


「スパイですか! かっこいい!」


「いや、文字通り「ネズミ」だ。『使役』したネズミを、こう色々な組織にな」


「えっ……。うーん……。ギリギリありで!」


「ふはは! そうか、ギリギリありか」


「でもそれいいですね。わたしもなんか使役してみたい」


「貴様ならできよう? ほれ、吸血鬼に転生したときに『調教』系統の『使役』が取得できるようになっておるはずだ。『調教』を取得してみよ」


 ブランは言われるままに『調教』を取得した。消費経験値は20だし、今ブランは経験値にかなり余裕がある。


「ほんとだ!『使役』出ました!」


「『使役』だけではよほどの実力差でもない限り、まず成功せぬ。『精神魔法』の『魅了』や『支配』などと組み合わせるとよかろう」


 なるほど、以前伯爵にかけられたあの一連の状態異常がそれだろう。

 『精神魔法』の『支配』まで取ると経験値をかなり消費してしまうが、今のところとりたいスキルもないことだし、取得してしまうことにした。


「『支配』まで取得しました! 先輩!」


「ふはは! 先輩か! それはいいな! さて、『支配』などの『精神魔法』に連なる魔法は基本的に精神力の強さが成功率を左右する。なるべく精神力を鍛えるがいい」


 伯爵の言う精神力とは、つまりMNDのことだろうか。たしか能力値の説明でそのような事が書いてあった気がする。

 ブランは伯爵を信じ、残っていた経験値を振れるだけMNDに振った。ここで、MNDの数値がINTと並んだ。


「よーし! じゃあ夜になったら外に出て、何か『使役』してきます!」


「うむ。行ってくるがいい。ある程度戦闘力のある魔物を『使役』できれば、訓練の効率も安定しよう」





 日が落ち、古城から出たブランは、何をテイムしようか考えた。

 普段、古城周辺で狩る魔物は主にゾンビやスケルトンである。このゾンビたちは伯爵の従者というわけではなく、野良のゾンビらしいが、野良のゾンビというのがちょっと意味がわからなかったのでブランは深く考えないことにした。


 せっかく吸血鬼の専用スキルらしき『使役』を覚えたのだし、どうせならかっこいい魔物をテイムしたい。ゾンビは伯爵と被るので避けたい。いや、別にゾンビが嫌いだとかそういうわけではないが。


 とりあえずいつも通りゾンビやスケルトンを倒しながら今日は少し遠出をしてみることにする。

 吸血鬼になったことでスケルトンの時より飛躍的にSTRやVITが上昇し、素手による攻撃でもスケルトン程度なら反撃を受ける間もなく砕くことができる。スケルトンの耐久力が低いことは、ブランは誰より知っている。


 そのことを喜んで伯爵に報告したら、憐れんだような目でステッキを与えられた。

 鉄か何かの金属でできたステッキで、素手で殴るよりも数段強い。また魔法を使用する際にも補助が入るようで、威力は変わらないようだがリキャストタイムが少し短縮されていた。

 ゾンビは近づきたくなかったため主に魔法で倒していたので、ステッキのこの効果はありがたかった。


 ステッキを賜るのと同時に、伯爵から服も与えられた。

 支配階級たる吸血鬼がみすぼらしい格好をしているのが我慢ならなかったらしい。みすぼらしい格好というのは初期装備のことだ。

 ブランが今装備している服は伯爵のお古で、いかにも吸血鬼が着ていそうな、活動的な貴族服だ。普通の貴族が狩りなどをする時に着たりするものだろう。

 伯爵のお古だけあって男物だが、キャラクタークリエイト時に自身をスキャンせず、造形の変更もせずに決定したブランの外見は中性的で、男物の服を着ていれば小柄な男性に見える。いつもと違う自分、という意味ではブランはそこも気に入っていた。性別を変えてしまうのは抵抗があるが、男性のように振舞うのは楽しそうだ。


 ともあれ、こうしていっぱしの吸血鬼然とした格好になったブランは、張り切って雑魚のゾンビやスケルトンを倒しながら北へ移動していた。方角は適当で、ブランはあまり深く考えていない。

 しかし経験値は気にしているようで、昨日倒した時よりかなり少なくなっている。スケルトンなど倒しても全く入っていない。


「あ、『使役』とか『精神魔法』とか取って強くなっちゃったからかな。なんかそんな説明どっかで聞いた気がする。その分戦闘も楽になってるんだろうけど、別にこいつら『支配』とかするまでもなく一撃だしなあ。タイミング悪かったかな」


 スキルを取得するならば、テイムしたい魔物を見つけてからでもよかったような気がする。

 しかし伯爵にアドバイスも貰えたことだし、大層喜んでいたようだったし、後悔はしていない。

 




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― 新着の感想 ―
[一言] イキリ散らかしてて笑えるw使役を持ってるのは君だけじゃないんやで
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