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第31話 「正式サービス開始」

2020/4/1

タイトル改訂。





 ついに正式サービス開始の日がやってきた。


 ウェインはこの日有給を取得した。

 休み直前の日だったため、またこれから3連休に入る。

 ウェインはオープンβテストからプレイしているため、スタートダッシュということもないが、正式サービスからゲームを始めたプレイヤーなどはこの3日、あるいは明日からの2日がそうなるだろう。


「ウェイン、待たせたかい?」


「いや、いま来たところだよ、レア」


 サービス開始の今日、2日前に知り合ったプレイヤーのレアと森の探索をする約束をしていた。

 とはいえレアの防具はまだ初期装備であり、まずは装備を整えなければ森に入るのは危険だ。

 幸いウェインはナタや外套を購入できる程度の金額はなんとか稼げていたし、レアもウサギ狩りで防具と外套くらいは購入できるようだった。ウサギの革が値下がっているおかげである。ウサギは肉も売れるため、革が市場で多少ダブついて値が下がっても、買取額はそれほどには下がらないのも初心者に嬉しい仕様だ。


 ナタはウェインの一振りしかないが、森に2人で入るならウェインが先頭を行けば一振りでも大丈夫だろう。先輩として後輩にいいところを見せたいという部分もある。


 レアはせっかくのゲームだからということで、ロールプレイを楽しみたいらしい。

 そのため自分たちがプレイヤーだということはあまり意識せず、「いかにもな」口調で話したり、NPCとも住人として接したりしたいそうだ。このゲームのNPC、いやこの世界の住人にならば、ウェインもそうするのに抵抗はない。


 どうも、レアはウェイン以外にもフレンドが居るらしく、時折フレンドチャットをしているような素振りをしている。

 なぜそのフレンドと一緒にやらなかったのか聞いてみたが、フレンド同士はキャラクタークリエイト以前に予めアカウントでフレンド登録しておけば、同じ位置に初期スポーンできるという仕様を知らなかったようだ。そのフレンドとチャットで話しながらであろうが、大層驚いていた。

 実に初々しいことだ。


 ウェインはレアとフレンド登録をしたいと思ったが、まだレアが自分を信頼してくれているという自信がなかったため、言い出せずにいた。


 こんな時代である。VRゲーム内と言えど、信頼できる人間以外とシステムによって紐付けされるのは危険だ。現実社会ではようやくストーカー規制法の効果が強力に発揮され始めているが、VR社会での被害を立件できるまでには至っていない。

 フレンド登録をしてしまえばストーカーに大義名分を与えてしまうことにもなりかねない。もちろん、ウェインはストーキングなどするつもりはないが。


 それにウェインには、キャラクタークリエイト時に外見を「美形」になるまでいじっているという負い目もあった。

 レアの顔立ちはとても自然に見える。かといって、自身をフルスキャンしないで作成するデフォルトの顔立ちにも見えない。

 わざわざ自分の顔を変更するくらいなら、ほとんどのプレイヤーは「美形」に変更するだろうし、そうではないということも考えると、おそらくフルスキャンそのままのアバターなのだろう。

 変えていると言えば髪色くらいだろうか。赤茶けた鮮やかな髪は、リアルではそう見かけない。しかし積極的にこういう色に髪を染めるタイプにも見えない。これはウェインの願望かもしれないが。


 別に悪いことをしているわけではないのだが、ウェインは自分のキャラクタークリエイトを少しだけ後悔していた。

 自分も堂々とリアルアバターでゲームを開始すればよかった。そうすれば、レアにも堂々とフレンド申請をすることが出来たかもしれない。


 フレンドチャットの件はまたおいおい考えればいい。

 それより今は冒険の準備だ。

 外套や革鎧などは革細工の店に売っている。ウェインは自分がラビットレザーの鎧を購入した店にレアを案内した。


 店には新たにゲームを始めたのであろうプレイヤーが数人いた。

 公式でアナウンスのあった、初期スポーン位置の調整のおかげだろう。

 ウェインはすでにレアと知り合っていたためこうして行動を共に出来ているが、それがなければ先々辛いことになっていただろう。

 

 何しろ、このゲームの世界は広すぎて、別の街に仲間を探しに行くというだけでもゲーム内時間で数日かかってしまう。そうなればリアル時間でも1日でたどり着けるか微妙なところだ。とても気楽には行なえない。


 いずれにしても、ゲーム内でプレイヤーが活発に行動するのはウェインにとっても喜ばしいことだ。これならば、大規模クエストが公示されてもやっていけるだろう。


「そういえば、レア。公式の発表にあった大規模イベントのことは知っているかい?」


「ああ、ええと……。うん、そういえばそんな告知もあったね」


 すこし考えるような素振りをして、レアが答えた。

 実は告知など見ていなくて、フレンドにチャットで確認をとったのかもしれない。一瞬だけそのフレンドにモヤモヤとした嫉妬心がわくが、取り繕ってさも知っていたかのように振る舞う様子は可愛げがあり、モヤモヤもすぐに霧散する。どうやらフレンドというのは女性だということであるし。


「どんなイベントなんだろうね? 大陸中に散らばるプレイヤーを同時にイベントに参加させるというのはかなり難しいと思うんだけど、いったい運営はどうするつもりなんだろう。

 レアは参加するよね?」


「ううん……。ちょっと、当日になってみないとわからない、かな。途中参加はできないし、途中退場したらもう参加できないんだろう? 当日どういう感じなのかが……今はまだわからないから」


「そうか……。もし、良かったらだけど。その、イベントに一緒に参加しないか? もちろん、他の街にいる、フレンドと一緒に参加できそうなら、そこに混ぜてもらうような形でもいいから」


「ああ、もし参加できそうならお願いしてもいいかい? 私もフレンドに言っておくからさ」





 その後、革細工屋でウェインの外套と、レアのラビットレザーアーマーと外套を購入し、街を出た。

 ウェインとレアの装備がいっぱしの傭兵らしく見えるものだったからか、二人連れだったからか、今度は門番の衛兵に引き止められることはなかった。


 ウェインは以前入ろうとした辺りから森に入り、蔦や藪などを切り払いながらレアを先導して歩いた。

 森の中は昼間だと言うのに薄暗く、見通しが悪い。魔物の領域まではまだあるはずだが、具体的にどこが境界線なのかはウェインにはわからなかった。


「レアはこっちのほうには来たことがないだろう?」


「ああ、そう、だね。はじめてだよ」


 森が歩きにくいからか、多少つっかえながらレアが答える。


「この森なら、草原のウサギよりは効率よく経験値が稼げると思うんだ。それに、N……街の住人たちはこの森にはあまり立ち入らないようだから、ここで得た素材なんかも高く売れるかもしれない」


 レアの戦闘スタイルはまだ見ていないので不明だが、見るからに戦士系だろう。獣人という種族も戦士に向いている。獣人は敏捷性が高く、力も耐久力もヒューマンより高い。しかし代わりに魔法に関する適性が低い。

 ここはレアに前衛を担当させ、ウェインが魔法によるサポートを行うべきだろうか。

 戦わせてみた感じを見て、ウェインも前衛に参加したほうがよさそうならばそうすればいい。

 本来ウェインのような魔法戦士は器用貧乏になりがちだが、こういった味方や相手の状況次第で立ち回りを変えられるという汎用性は強みにもなる。


 森の中は時間の経過がわかりづらく、どのくらい歩いたかわからないが、システムによればすでに1時間ほどは歩いているようだ。

 想定通りに距離を稼げていればだが、そろそろ魔物の領域が近いはずだ。

 ここまでは魔物と遭遇するようなことはなかったが、ここから先はエンカウントの可能性も高い。


「そろそろ、魔物が出てくるかもしれない。警戒しよう」


「ああ、そうだね。そろそろか。わかったよ」


 それからは特に警戒を怠らないよう慎重に歩いた。

 ほどなく、自分たち以外の、何者かが茂みを揺らす様子を捉えた。


「止まって、何かいる」


 茂みから姿を表したのは、巨大なアリだった。巨大とは言っても、通常のアリと比べて、であり、ウェインの膝より低い程度のサイズではあるが。

 レアは巨大な昆虫というのは生理的に大丈夫だろうか、と考え一瞬そちらを振り返るが、レアは冷静な表情でアリを見つめていた。ウェインの言うことをよく聞き、警戒していたためだろう。他のゲームなどで巨大昆虫には慣れているのかもしれない。昆虫系のモンスターは数を出しやすいのでゲームでは雑魚モンスターとしてよく使われる。


「レア、攻撃できるかい? できそうなら、俺は魔法でサポートする!」


「ああ、大丈夫だよ!」


 言いながら、レアはショートソードを抜き放ち、アリに斬りかかる。その動作はどことなくぎこちない感じがしたが、獣人の能力値のためかそれなりの速度でアリに迫った。

 アリは回避しようとしたが間に合わず、脚を一本失うことになった。

 アリが体勢を崩す。


「よし、『フレアアロー』!」


 ウェインの放った攻撃魔法はアリに突き刺さり、そのままアリは消し炭になった。

 サポートと言いながらも実際にはほぼソロで倒してしまった形になるが、レアも一撃を入れていたため、経験値はレアにも多少入っただろう。

 ウェインに入った経験値を確認してみれば、ソロでウサギを狩るよりは多少はいいという程度だ。

 2人がかりでこれならば、アリはウサギよりもかなり格上の魔物らしい。


「……それが魔法かい? すごい威力だね」


「ああ。まあね。でも、これだとアリの素材を手に入れることが出来ないから、次からはなるべく剣だけで倒そうか」


「わかった」


 それから帰りの時間も考え、ギリギリまでアリを狩り続けた。街に戻ったのは日が落ちる直前だった。


 翌日はレアの予定がどうなるか不明だということで、傭兵組合で素材を売却して別れた。

 特に約束などはしていない。

 レアには他にフレンドがいることだし、束縛するようなことはしたくなかったからだ。もし会えれば行動を共にするだろうが。

 なのでゲーム内で朝、傭兵組合にレアが現れなければ、翌日はウェイン一人で行動することになる。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今登場しているレアはあの四天王のうちの一人だよね。(髪の色なんかで特定できるのだろうが確認はしてない) NPCがPCを装うというのはかなり綿密に計画立ててやらないと破綻しやすいだろうな…
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