第27話 「プレイヤーキラー」
2020/4/1
タイトル改訂。
初日と合わせて丸3日はウサギ狩りに費やした。
その甲斐あってか、ようやくウェインは全身初期装備から脱することが出来た。
防具はさんざん売ったウサギの死体のおかげか、ウサギの革が値下がりしてきたので、ラビットレザーの革鎧一式だ。
ショートソードは初期装備のものは材質不明の低品質品だったが、より攻撃力の高い鉄製の剣に買い替えた。鋳造品でこちらも低品質だが、鉄の値段は上昇傾向にあったので少し妥協した。
どうやら近くの採掘所が魔物の領域に飲み込まれ、モンスターが出るようになったらしい。鉄が高騰しているのはそのせいだ。
戦闘力の向上に資金を優先させたため、森を探索するためのナタや外套などのアイテムを用意することはできなかったのは痛いが、仕方ない。
鉄さえ値上がりしなければ、3日前の値段のままならギリギリ揃えられたのだが。
おそらく、序盤の街で高品質の武具を生産させないための調整だろう。NPCは高度なAIを搭載しているため運営の思惑とは関係なく、材料さえ潤沢なら勝手に成長していずれ高品質のアイテムを販売してしまう。
それを阻止するために運営が鉱石の供給をストップさせたに違いない。
であれば、そのうちに採掘所奪還のクエストが貼り出されるかもしれない。それだけ大掛かりなら、公式サイトなどでもイベント告知があるかもしれない。チェックは怠れない。
今のところこの町ではウェイン以外のプレイヤーを見かけていないが、実は居るが時間帯などが合わずに気づいていないだけという可能性もなくはない。
ただヒルスは初期プレイヤーの多い国であるため、もしかしたらオープンβから初期スポーンの街が大幅に増やされた可能性もある。
クローズドテストの時はひとつの街にプレイヤーは10人程度だった。
初期スポーン位置が大量に増やされていれば、あるいは1人しか居ない街があってもおかしくはないかもしれない。
それに今ウェインがいるこの街も、クローズドテストのときに見た街よりはだいぶ小さい。
街の規模によって初期ランダムスポーンの抽選テーブルにある程度の偏りが設定されているとしても不思議はない。
もしこの街で大掛かりなクエストが発注されるとしたら、今のままでは難しい。
ソロでできることなどたかが知れている。
こんなことなら友人を誘って一緒に始めればよかったが、この連休はいいとしても、ウェインが普段の平日に一般的なVRリーマンの友人と時間を合わせるのは困難だ。
この街のNPCの傭兵とまだまともに会話したことはないが、NPCと協力してクエストに当たることも考えたほうがいいだろう。NPCならこの世界に根付いて生活しているため、傭兵といえど街に住んでいるのなら滅多なことでは犯罪行為や詐欺などは行わないはずだ。
ならば見ず知らずのプレイヤーよりは信用できる。
同じ人間であるプレイヤーよりもAIの方が信用できるとは皮肉な話だ。
ウェインはクローズドテストの時、あるPKに襲われたことがある。
そのPKは最初、NPCを装っていた。
みすぼらしい格好をした少女のアバターで、路地裏でうずくまっていたのだ。
ウェインは困窮しているそのNPCに手を差し伸べようと、事情を聞いてみることにした。するとここでは話せないと言われ、手を引かれるままに街を歩いた。路地裏から路地裏へと進み、人気のない場所まで連れて行かれ、そこで突然キルされ、身ぐるみを剥がされた。
インベントリの中のものは誰にも奪えないが、逆に言えばインベントリに入っていないものは剥ぎ取りが可能だ。
もちろんすぐにリスポーンをすれば装備していた品物もプレイヤーと共にその場から消えてなくなるのだが、動揺するウェインはシステムの《リスポーンしますか?》という言葉にすぐにうなずく事ができなかった。
それを見越してか、PKは金額の高い武器などの装備から順に奪っていったようだ。
ようやくリスポーンしたウェインがまとっていたのは、肌着などの安い装備品だけだった。
PKに奪われたのは装備品だけだが、この時ウェインが失ったのはプレイヤーへの信頼と経験値もだった。
あの日からウェインはプレイヤーとNPCを見分けることに腐心した。
その時以来、幸か不幸かNPCを装うようなプレイヤーには会っていないが、会話などをせずともプレイヤーだと看破するポイントは分かった。
それはインベントリだ。
プレイヤーはなんの気無しにインベントリを使用する。はじめから使えるシステムのひとつなのだから当然だ。
しかしNPCは絶対に使わない。使えないのだから当然だ。
それからウェインはインベントリを試金石にしてプレイヤーとNPCを見分けてきた。
もっともNPCを装うプレイヤーはあれ以来見ていないので、見分けたからと言って役に立ったことなどないが。
何にしても、もう連休も終わってしまう。
平日になれば夜の間しかログインできなくなる。次の休みには正式サービスが開始されるし、そうなればもっとプレイヤーも増え、この街にもプレイヤーが現れるだろう。
大規模クエストが公開されるとしたら、おそらくその後だ。
*
平日の夜、ログインして傭兵組合へ顔を出す。
このゲームは普段は現実時間の1.5倍でゲーム内世界の時間が流れているため、この日の夜はゲーム内では朝だった。
現実時間の日程で2日後には正式サービスが開始されるため、明日は1日メンテナンスの予定だと告知されている。
故にオープンβテスト、いやアーリーアクセス期間としては今日が最後だ。
ウェインはなんとか昨日、魔法を取得することが出来た。
覚えた魔法は『火魔法』の『魔法適性:火』と『フレアアロー』だ。
序盤は特に火に弱いモンスターが多いからでもあるし、他の魔法に比べて攻撃力が高めなこともある。
対人戦などを考えれば速度の早い『雷魔法』のほうが有利だが、初撃を耐えられれば反撃の『火魔法』の方がダメージは高くなる。序盤は金属鎧を入手しているプレイヤーも少ないため、『雷魔法』の属性的な優位もない。
魔法も取得し、装備もある程度整えた。これならば、現地の傭兵たちにナメられることもないだろう。
リアルの生活があるため常に行動を共にするというのは難しいが、いざ大規模クエストが起きた時、全く知らない人間よりは多少でも知っている人間のほうが協力を得やすいだろう。
普段からある程度知己を得ておいたほうがいい。
しかし、どうやって、そして誰に声をかけたものだろうか。
少々日が高くなっている時間のためだろう、組合にまばらにしかいない傭兵たちを誰を見るでもなく眺めながら悩んでいると、受付のおやじがウェインに気づいた。
「ああ、あんた。見かけたら声をかけようと思ってたんだ」
「え? 俺に? 何か用だろうか」
これまでわざわざ向こうから声をかけてきたことなどなかった。
たとえ今のように傭兵が少ない時間帯だとしても、だからといって暇なわけではあるまい。何か特別な用事でもあるのだろうか。
「あんた、たしか保管庫持ってたろ。珍しいなと思ってたんだが、昨日、また別の保管庫持ちがいてな。それで知り合いじゃないかって思ってよ。なぜか知らねぇが、昔っから保管庫持ちは保管庫持ち同士でツルンでることが多いからよ」
――プレイヤーだ。間違いない。
この街にはプレイヤーはウェインだけだと思っていたが、そうではなかったようだ。
いや、受付のこの言い方だと、現れたのは昨日だ。ではリアルでは昨日か、あるいは今日からゲームを始めたプレイヤーということだろう。
普通に傭兵組合などを利用しているところを見るに、まっとうなプレイをするプレイヤーなのだろう。PKならば、こういったところに来ることはない。
殺すキャラクターがプレイヤーだろうがNPCだろうが、街の住人からしてみれば強盗殺人に変わりはない。故にPKが堂々と街の設備を利用するケースは少ない。
それ以前に、パッと見でプレイヤーとNPCを見分けることはできない。多くの場合、PKは結果的にPKになるのであって、目的はあくまで人間を殺す事だ。最初からNPCを経験値袋としか思っていないプレイングをする者たちなのだ。
そんな者が傭兵組合でまともに仕事をするとは思えない。
いや、プレイヤーだからといってすぐにPKに結びつけるのはよくないが。
「お、噂をすればってやつだ。あのねーちゃんだよ、保管庫持ちは」
ウェインが振り向くと、入り口からひとり、入ってくる人物がいた。
猫獣人の女性だ。明るめの赤茶色の髪をオールバックに撫でつけている。とりわけ器量がいいというわけではないが、どこか憎めないような、不思議な愛らしさがある。ウェインが猫好きだからだろうか。
猫獣人の女性はまっすぐに受付へ来ると、どこからともなくウサギの死体を取り出し、カウンター横の台車に載せた。いつかのウェインと全く同じ行動だ。
着ている装備品も初期装備のようだ。
腰に下げている剣だけは初期装備ではないようだが、稼いだ金をまず武器に投資したのだろう。ゲーマーらしい判断だ。死んだら終わりのNPCらしくない判断だ、という見方もできる。
彼女がプレイヤーであることはもはや疑いようがない。
受付のオヤジが、知り合いじゃないのか、というような視線を向けてくる。猫獣人の女性もその視線に気づいたようで、そこで初めてウェインを見た。
「君は……プレイヤーかい?
あ、すまない。俺はウェイン。プレイヤーだ」
すると女性は少し、面食らったような顔をした後、破顔して答えた。
「ああ、お察しの通り、あたしはあんたと同じプレイヤーさ。 レアって言うんだ。よろしく」




