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第20話 「教訓」

2020/4/1

タイトル改訂。





 つい先ほどまでは問題なくリスポーン出来ていたはずだ。もっともアリがひしめいていたので、完全に問題なくリスポーン出来た事例は稀だが。


「……なのに今は誰かの私有地だからできないってことは、SNS見てた数十分の間に誰かが……洞窟を含む土地でも買ったのかな? てか土地って買えるのかな。わたしも骨として自分に自信がついたら家とか買いたいな」


 しかしあの洞窟にはアリが大量にいたはずだ。アリがいても土地の所有権を主張できるのだろうか。

 もしそうならば、戦わずとも資金さえあればモンスターなど物の数ではない事になる。国家予算などを使えれば魔物の領域など地上げで消し飛ばせるはずだ。

 しかし現実には人類国家と魔物の領域は互いにしのぎを削りあっている。


「普通に考えて先住民がいるなら土地の所有って無理なんじゃないかな。だとしたら、わたしがいない数十分の間にあの洞窟のアリを全滅させた人がいるってこと?」


 そんなことが可能なのだろうか。仮にサービス開始と同時にゲームを始めたプレイヤーがいたとしても、現時点で半日程度しか経っていない。そんな短時間であの最強のアリを狩りつくすようなプレイヤーがいるとは思えない。


「あ、そっか。もともとあの世界に住んでる人たちならそういう強い人いるかもしれないのか。プレイヤーができることは大抵NPCもできるみたいなこと言ってたし。っていうかNPCができることはモンスターもできるはずだし、そもそもアリが制圧したのかも」


 アリというからには、女王アリのような存在がいてもおかしくはない。

 おそらくあの洞窟は、その女王アリの指示でアリたちが制圧している途中だったのだ。ブランはその中にたまたま現れた異物にすぎないのかもしれない。そしてたまたまブランが死亡中にブラン以外の敵対勢力がすべて一掃されたため、あの洞窟は晴れてアリの楽園となり、ブランがリスポーンできなくなった。


「それが一番アリそう。アリだけに。

 でも私が死んでて蘇生受付中ってことは、私の死体がそこにあったはずなんだけど、アリが制圧したあとに誰かが私を蘇生したらどうなってたんだろう……」


 ブランはヘルプを確認しようとしたが、そもそも何にかかわる事柄なのか絞り込めなかったため悩んだ。ヘルプとして想定される質問があまりにも多岐にわたるため、曖昧な検索単語では目的のヘルプにたどり着けることはない。


「とりあえず蘇生時の条件、と」


 蘇生時の条件は、蘇生対象のキャラクターが死亡してから1時間以内であること、蘇生対象が蘇生制限などをかけられていないこと、死体が5割以上残っていること、蘇生不可エリアでないこと、とあった。


「怪しいのは3番目と4番目かなぁ……」


 死体が5割以上残っていたかどうかはわからない。ブランの死亡を決定づけた攻撃がなんだったかは不明だが、即死に近い死に方だったため、噛みつき程度とは考えづらい。酸による攻撃ならば、それを行ったアリの数が多ければ数秒で5割以上溶けてしまったとしても不思議ではない。


 蘇生不可エリアについてはわからないが、洞窟を制圧したアリがそのように設定する可能性はある。ブランに少なくとも2匹は殺されているのだし、無限にリスポーンする敵など居ないに越したことはないだろう。

 しかしこれは蘇生に関する制限であり、リスポーンには関係がない。


 であればやはり、ブランの死体が5割以上損失し、システム的に「ブランの死体」から「ブランのドロップアイテム」に変化したためとみるべきだろう。システムメッセージでは「1時間以内なら蘇生を受け付けられますが」とあったが、実際に誰かに蘇生してもらおうとしてもおそらくエラーか何かが出たはずだ。蘇生の受付は可能だが蘇生できるとは言ってない。


 ともかく、結果的にブランがドロップアイテムを残して居なくなったため、周辺一帯はアリによる制圧条件を満たし、洞窟は晴れてアリの楽園になった。


「ということなのかなたぶん……。くそう、いつか強くなってあのアリの巣を攻略してやる」


 とはいえ、今いる洞窟からアリの巣までどれだけ離れているかもわからない。

 強くなる前に、まずは生活基盤を整えねばならないだろう。そうした土台がなかったことが、ブランがアリに負けた敗因のひとつともいえる。


 ブランの今の手札は魔法のみだ。アリ相手に『火魔法』でオーバーキルだったことを考えれば、序盤の敵なら弱点をつかなくても一撃で倒せるかもしれない。しかし油断は禁物だ。アリの教訓を忘れてはならない。


「慣れてるし、『フレアアロー』をすぐ撃てるように気持ちの準備をしておこう。さて、アリの次はなんだろ」


 気を引き締め直し、ブランは洞窟を警戒しながら進み始めた。

 洞窟はアリの巣よりは広いし明るい。例によって暗視が働いていることを考えると、本来は薄暗い程度だろう。


「わたしもここを制圧できればマイホームにできるのかな。ここ明るいしもしできたらいいな」


 ブランは当面の目標をこの洞窟の完全制覇に定めた。

 プレイヤーのライバルさえいなければ、決して不可能ではないはずだ。あと、敵がアリでなければ。


 洞窟を歩いていくと、ある場所を境に急に雰囲気が変わった。

 具体的には岩肌むき出しの壁から石を積んで建てたのであろう人工の壁になった。見た限りではその石壁はとても古く、岩と違って隙間が多い為か、ところどころ苔むしていた。


「遺跡……って雰囲気になったな。アリの巣じゃなくてよかったけど……遺跡に出現する野生動物ってなんだろ」


 序盤とはいえ、別に出現するであろうエネミーは野生動物に限らないのだが、このときブランは初対面のアリのインパクトが強すぎて無意識に現実の生き物モチーフの魔物しか想定していなかった。


 ゆえに動揺し、叫び声をあげ、対応が間に合わず、死ぬことになった。まるで成長していない。


「あ、何かいる……。えっうわ! 死体!? ゾンビだ!? ギャー! グロい! そういう方向のダメージ狙うのマジやめ」





《1時間以内なら蘇生を受け付けられますが、ただちにリスポーンしますか?》






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