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第19話 「最強のモンスター、アリ」

2020/4/1

タイトル改訂。




 

 ブランは洞窟を再び進み始める前に、もう一度魔法の使い方を確認した。先ほども魔法さえ使えていれば対処できていたはずだ。

 いつでも魔法を放てるよう心の準備をし、今度は慎重に歩き始める。ただし、先ほどとは逆方向にである。


 見ていても違いがわからないほど似通った壁が続く。ブランは先ほどとは逆に進んできたつもりだが、リスポーン時に向いていた方向からそうだと判断しただけであり、実際に逆方向かは実はわかっていない。


 先ほどよりも随分と時間をかけて、ゆっくりと進む。やがて分かれ道が──


「さっきの穴やんけー……。あ、いや、さっきの穴は左側だったけど今度のは右側だな……」


 仮に間違えて同じ方向に歩いていたとしたら、同じ向きの位置に穴があるはずである。逆方向に歩いてきて、先ほどと逆の向きの位置にそっくりの穴があるということは、現在の進行方向から見て、洞窟の右手側に先ほどのアリたちの巣があるということになる。


「……なるべく左側に向かって進むことにしよう」


 極力横穴のほうを見ないようにして、分岐を左に進む。ちょうど横穴に差し掛かった時、ブランは右側から覚えのある刺激臭を感じた。


「え」


 刺激臭の元はアリの出す酸だった。

 横手から酸を浴びせかけられ、全身から力が抜け、立っていられずにかしゃりと座り込む。そこへ頭の上から追加の酸が降り注ぎ、ブランの視界はブラックアウトした。


《1時間以内なら蘇生を受け付けられますが、ただちにリスポーンしますか?》


「まじかー……」


 アリの巣を避ける方向で方針を立てていたとはいえ、もし仮にアリに遭遇したら、即座に魔法が撃てるように覚悟をしていたつもりだった。まさか奇襲を受けてそのまま死んでしまうとは思ってもいなかった。


「殺意高いな……。アリ……」


 こうなっては、横穴に積極的に押し入り、やつらを皆殺しにするしか生き残る術はない。

 ブランは覚悟を決め、闘志をみなぎらせてシステムによるリスポーンを受諾した。


「っは?」


 目の前にアリがいた。

 初期のリスポーンポイントにいきなり魔物がいる。そんなこともありうるのか。


「アリだけに……っと! 『フレアアロー』!」


 しかしブランはもう動揺に飲まれたりはしない。即座に切り替え、初の魔法を発動する。

 発動キーとなる言葉の直後、ブランの目の前に炎の矢が現れると、まっすぐに対象のアリへと襲いかかった。炎はアリの頭部へ突き刺さり、そのまま炎上して燃え尽きた。あとにはアリの腹の部分だけが残っている。


「す……っごいな魔法……。あの最強のアリが一撃で消し炭だぜ……」


 焼け跡から若干どこかで嗅いだような匂いがするが、ブランはとりあえず焼け跡に近づき、アリの残骸を見つめる。


「でもドロップアイテム?っていうか魔物の素材的な何かを手に入れようと思ったら、魔法はちょっとやりすぎ感あるな……。ていうかこの匂い思い出した。スルメ焼いたときのやつだ。いや痛みとかはシャットアウトしてくれるのかもしれないけどほんとこのゲームトラウマ製造機だな……」


 とりあえず焼け残ったアリの腹をインベントリに回収する。ブランを二度も溶かしたあの酸が取れるとしたら、おそらくこの部分だろう。拾っておけばいずれ何かの役に立つかもしれない。


 ともあれ、アリに対して有効な戦闘方法は確立した。例の酸の射程外から『フレアアロー』だ。MPがもつかぎりはこれでやっていける。やられる前にやれ、の精神である。


 さしあたってはどちらに向かうべきだろうか。どちらに向かってもアリの巣に通じるであろう穴はある。どうせアリを全滅させるつもりなら、どっちでも同じだ。ブランは深く考えるのをやめて適当に歩き出した。


 程なく、左手に横穴が見えた。慎重に近づく。恐る恐る覗き込むが、アリの姿はない。

 ブランは迷った。今ならば無かったことにして、この先へ進める。しかしブランを二度も殺した敵だ。このまま許してもいいものか。実際二度目のリスポーンのときは、横穴に入って積極的に潰していこうと考えていたのではなかったか。

 それに仮に無視してこの先へ進んだとして、もうアリの巣がないとは限らない。そのたびにビクビクしながら通るのか。


 ブランは横穴に入ることに決めた。

 最初のときと同様、しかし最初のときと違いはっきりと警戒しながら、横穴を這い進む。


 そろそろ、広間に出るはずだ。そうしたら魔法を、と考えていたその時、広間に通じる出口にアリが何匹も待機しているのが見えた。


「あっヤバ……」


 撤退するしかない。しかしこの狭い穴では方向転換も出来ない。

 ブランは前方のアリを見据えたまま、四つん這いでゆっくりと後ずさる。

 カツン、と骨の尻がなにか硬いものに当たった。

 恐る恐る、なんとか首だけを回して後ろを振り返る。

 尻が当たったのはアリの頭部だった。


「ですよね! 知ってた!」





《1時間以内なら蘇生を受け付けられますが、ただちにリスポーンしますか?》

《経験値の減少があります》

 

 待ち伏せ。そういうのもあるのか。


 たしかチュートリアルのAI子ちゃんはプレイヤーもNPCもモンスターもシステム的には同じとか、そういうことを言っていた。魔物のAIもおそらく学習して対応策を練ってきたりするのだろう。あまり同じところで何度も死ぬような真似をすれば、こちらの手口に対策されかねない。


 もう横穴にこだわるのはやめるべきだ。そもそも最初のリスポーンのとき、もっと強くなってから来るべき場所だと考えていたはずだ。ここは初心に帰って、アリには関わらない。もちろん出会ってしまえば別である。やられる前にやらなければ生き残れない。


 何度目かのリスポーン受諾を行う。目の前にはもちろんアリ。


「知ってた! 『フレアアロー』!」


 しかしその向こうにも何匹ものアリがいる。


「そうじゃないかと思ってた! 「フレアアロー」! あれ!? 出ない! なんで!? あ、リキャス」





《1時間以内なら蘇生を受け付けられますが、ただちにリスポーンしますか?》

《経験値の減少があります》


「えぇ……。これもう無理ゲーとかってやつじゃない……? どうすりゃいいのさ……」


 ブランはとりあえずすぐにリスポーンするのはやめ、魔法の連続使用について調べてみることにした。1時間は蘇生受付時間があるので、その間は調べ物をしていても問題ないだろう。


 公式の用意したログイン式のSNSを開く。最近ではあまり見かけなくなった掲示板というシステムのページだ。もともとどういう意味の言葉だったのかはわからない。板を掲示して何の意味があるのだろうか。


 その掲示板のスレッドというツリーの中で、魔法に関する書き込みを探す。そういった検証をしているプレイヤーがいるようで、スレッドは随分と盛り上がっていた。検索をかけ、連続使用に関連することを書き込んでいる人を探した。


 名無しのエルフさんという変わった名前のそのプレイヤーによれば、同じ魔法の連続使用は出来ないが、違う魔法ならば即座に使えるようだった。しかしその場合、最初に使った魔法のリキャストタイムの減少は、次に使った魔法のリキャストタイムが終了するまで停止する。

 つまり、『フレアアロー』『アイスバレット』と連続して撃った場合、両方のリキャストタイムがそれぞれ5秒だとするなら、『フレアアロー』が再び撃てるのは1回目の『フレアアロー』から10秒後ということらしい。ややこしい。


「まぁでも、そうか。わたしは魔法を6個とったから、最大で6回までは連続して魔法が使えるのか」


 取得している魔法の中には攻撃魔法ではないものも含まれているが、それでも5連打できる。

 これならば光明が見えた。リキャストタイムをうまく調整し、逃げながら戦えばアリの集団相手でもすぐに死ぬことはないだろう。仮に失敗するとしても、先程アリを倒して手に入れた経験値は今のデスペナルティですでに失ってしまっている。これ以上失うものはない。


「よっしゃー! やったるで! グォレンダァ!」


 興奮しつつも、頭の中では冷静に魔法の順番やタイミングを考えつつ、リスポーン受諾を行った。


《あなたのリスポーン地点は他のキャラクターのパーソナルエリアです。リスポーン出来ませんでした。他にあなたの既存のリスポーン地点がありません。初期スポーン地点にランダムにリスポーンします》


「は? え?」


 ブランはリスポーンという言葉がゲシュタルト崩壊しそうになった。

 しかし、状況は待ってはくれない。

 すでにリスポーンを受諾しており、さらに他に選択肢もないため、すぐに視界が歪みリスポーン処理が始まった。


 視界が回復し、ブランが辺りを見渡すと、見覚えのない場所だった。

 どこかの洞窟であろうことは間違いないが、先程まで何度も見たリスポーン地点の洞窟よりだいぶ広い。


「どこここ……」


 もともとの洞窟も別にどこかわかっていたわけではないが、少なくとも今いる場所は明らかに違う洞窟だ。岩肌の色や質感なども違う。


「ていうか、わたしのリスポーン地点が他の人のものってどういうことなの……?」






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