第178話 「スケリェットギドラ」
2020/4/3
タイトル改訂。
「呼ぶのはいいけど、防衛に穴ができないようにね」
念のためディアスとクイーンビートルに注意するよう指示しておく。
そして広場に赤いスケルトンが30体召喚された。
とげとげしい竜の牙の3体も一緒だ。この3体はもう余計な事はする必要がないように思えるが、レアがとやかく言うことでもない。
ジークのスケルトンナイトたちが気圧されるように一歩下がっている。スケルトンナイトよりスパルトイの方が格上らしい。
「よっしゃ、じゃあやってみよ! ほらほら早く卵生んでよ!」
「ブランちゃん言い方!」
「……まあいいけど。『哲学者の卵』」
大きな水晶の卵が現れるや否や、ブランがスパルトイ達に指示する。
「よっしゃみんなつっこめー!」
「え、みんな?」
ブランの指示に忠実に従い、30体近いスパルトイ達が哲学者の卵へ群がっていく。
卵は次々と赤い骨を飲み込んでいき、卵の中では先ほど同様脱力したスパルトイたちが浮かんでいる。
「……レアちゃんレミングっていうネズミ知ってる?」
「……今同じこと考えてたよ。
ていうか、止まらないな? もうとっくに10体超えてると思うんだけど。やはり種族によってレシピが違うのか」
すべてのスパルトイを飲み込んだ水晶の卵は、先ほどのスケルトン達の時とは比べ物にならないほど大きく膨らんでいる。
もしかしたらウルルに匹敵するかもしれない大きさだ。
「ん? すべての……? ねえブラン、竜の牙は?」
「え? あれ? どっか行っちゃった?」
「どっか行っちゃったとしたら行先はひとつしかないよね」
スパルトイたちと共に卵の中だ。
「いいの? まあ、入れたってことは融合するには問題ないってことなんだろうけど」
余計な分は入れないだろうことはスケルトンの一件でわかっている。
「できそうってことは、やれってことだよ多分! このままやっちゃって!」
ブランはテンションが振りきれて、冷静な判断力を失っている。
しかしレアとしても正直なところ興味があるし、今止めれば『哲学者の卵』分のMPはまるっと無駄になってしまう。消費MPが卵のサイズに依存するのか、融合素材の数に依存するのか不明だが、今の時点で武者髑髏の時よりだいぶ多い。
「んじゃあ賢者の石を」
「あ! そこはわたしの血を使ってよ!」
ブランが指を噛み切り、そして傷つけた指先を卵に近づけた。
「ぉぉおおおおお? 吸われる吸われる吸われる!」
小さな傷とは思えないほどブランの指から血が流れ出し、そのすべてが卵に吸い取られていく。
それに伴って『真眼』で見えるブランの光がどんどん薄くなっていった。
「あこれヤバいやつだ! 『中回復』!」
「追いついてなくない!? 『大回復』!」
ライラとふたりで覚えている限りの『回復魔法』を放ち、それでも足りずに最後は交互に『治療』を使って何とか失血死だけは免れた。ブランの素のLPなら5回は死亡していただろう。
へたり込むブランにポーションを渡し、卵を見てみる。
卵の中は赤黒く染まり、どうなっているのかまったくわからない。
「……これ続けてもいいのかな。絶対ヤバいよね」
「ここでやめたらいろいろ無駄になっちゃうけど。回復に使った私のMPとか」
「……や、やってください!」
「まあ、ブランがいいなら。『アタノール』」
金色のランプに炙られ、赤黒い何かも鮮やかな虹色に光り始めた。
「あ、よかった。ここからはいつも通りみたいだ。『大いなる業』」
《『大いなる業』は実行できません。対象の竜の牙、スパルトイは別のキャラクターにテイムされています》
《処理を進めるにはテイムしているキャラクターの許可が必要です》
「あ」
「あ」
声が重なった。ブランの方にもメッセージが行っているようだ。
「許可しまーす! 支払いまーす!」
《処理を再開します》
「なるほどこうなるのか。まあ、特に他で活用できる情報でもないけど」
「え、何が?」
「解説はしません」
ライラを冷たくあしらった。
そして現在のレアをして、LPに食い込むほどのMPが消費された。
足りたから良かったが、危うくポカミスで死ぬところだった。これが終わったらMPポーションを飲む必要がある。
先ほど同様『真眼』による視界では、巨大なひとつのLPを持つ何者かが光の中でうごめいて外に出ようとしている。
しかしその姿は武者髑髏とは比べ物にならないほど大きく、また光の色からLPの最大値も相当多いだろう事がわかる。
レアよりも深い色をしている。
つまりこの魔物は、魔王であるレアを超えるLPを保有しているという事だ。
「大丈夫なのかこれ……」
レアのLPが通常のビルドより半減していることを差し引いても驚異的な数値だ。
ライラも同じものを見ているようで、先ほどよりさらに離れた所にいる。
やがて光の中から、何かが水晶を噛み砕きながら現れた。
赤黒い骨の身体を持つ、三つ首のドラゴンだ。
その体躯は、先程までの水晶の卵の大きさとほとんど変わっていない。
つまりウルル並の大きさだ。
そして周囲に淀んだ空気がたちこめてきた。
「!?」
「やば!?」
「すっ……っげー! かっこいー! 超ヤベーイ! 何これ! ドラゴンじゃん!」
三つ首の骨竜が現れてからこっち、どうやら何らかのダメージを受けている。
このじりじりとした減り方は直射日光を浴びた時に似ているが、傾いた太陽の光はトレントたちにさえぎられ、広場まで届いていない。
もっともこの程度のスリップダメージなら自然回復分で相殺できる。大した問題ではない。
自然回復量は最大値によって決まるため、現在のレアのLP自然回復量は落ちている。
しかし『魔の鎧』の効果によって、ダメージはMPにコンバートされている。故に減っているのはMPの方だ。そしてこちらの方が最大値が高いため、自然回復量も多い。以前の火傷によるスリップダメージは自然回復が追い付かないくらいの量だったが、今ならば火傷自体が治癒してしまうくらいには回復しそうだ。ただし、MPが回復することで火傷が癒やされるのかはわからないし、火傷のような状態異常によるダメージに『魔の鎧』が適用されるのかもわからない。
レアがダメージを受けているという事は、このスリップダメージは『魔の盾』をすり抜けたということだろうか。
見れば4枚の『魔の盾』のLPもじりじりと減ってきていた。こちらには自然回復がないため、減ったらそのままだ。また盾はLPを回復させてやることもできない。完全な状態の盾に戻したければ一度破壊するしかない。
通常の攻撃であれば『魔の盾』で防ぐことによってダメージを盾に肩代わりさせることができるが、このように空間全体に作用するタイプの範囲攻撃は『魔の盾』で防ぐことは出来ない。つまりこのスリップダメージは現在のレアにとって実に効果的な嫌がらせと言える。
早速実証できたのは幸運だったが、初めて作成した『魔の盾』が意味もなくキズものにされてしまったことには苛立ちを覚える。
見渡してみると、ブランやジーク、スケルトンたちは平気そうだが、ライラは苦しみながら遠ざかっていく。
「アンデッド組はノーダメージか」
間違いなくこの三つ首の骨竜の仕業だろう。
「『鑑定』。えっと、スケリェットギドラ……かな?
スリップダメージはこのパッシブスキルの『死の芳香』とかいうやつのせいか。死ぬほど臭いってこと?」
「言いがかりはやめてよ! 全然臭わないし! こんなにかっこいいのに臭うわけないじゃん!」
ブランが何も感じないのは種族特性か、あるいは主君だからだろう。もっとも実際に何かが匂うわけではなく、言うなれば空気が死んでいるという感じだ。
スケリェットギドラのLPは驚くべきことにレアの4倍ほどあった。『技術は長く、人生は短い』を取得していなかったとしてもダブルスコアをつけられている。
それ以外の能力値に関してはまったく及ばないようだが、それでもレアの配下の者たちと比べてもかなり強いほうに入るだろう。総評すればウルル級だろうか。
ウルルは地上戦ならレアでも手こずりそうなレイドボスだったことを考えれば、このギドラの危険度もわかろうというものだ。しかもこのギドラは空を飛ぶらしい。上空からの一方的な攻撃は通用しない。
スキルも見たことのないものばかりで実に興味深い。もっとも大半が種族専用スキルのようで、別の種族で再現可能なものには大したものはない。『天駆』くらいだろうか。
この巨体で『天駆』が使えるというのは恐ろしい限りだが、それとは別に『飛翔』もある。翼は骨組しかないように見えるが、いつも通りのマジカルなアレだろう。
「この『死の芳香』ってスキルはオフに出来ないの? わたしのLPも減っているし、うちの世界樹にもダメージ入ってるし、オフにできるならオフにしてもらいたいんだけど」
「おっと、すんません。どうかな? ……できるみたい!」
ダメージを受け続ける不快な感覚が消え、こころなしかあたりの空気も澄んできたように思える。
ライラが走って戻ってきた。
「……はぁ、はぁ。やばい奴来たね。鑑定したけど種族名しか見えなかったよ。その時点でブランちゃんより格上なのは確実だけど、言うこと聞くの?」
「……はっ! そうだった! 言うこと聞かなかったらどうしよう!」
「いや、聞いてたじゃない。今」
これまでNPCの民間の噂でならばドラゴンの話も出ていたが、骨とはいえこの目で見られるとは感慨深い。
ぜひレアも手に入れたいが、アンデッド系の眷属はともかく、トレントや蟲たちとは相性が悪そうだ。
どうせなら新鮮と言うか、生きているドラゴンを飼ってみたい。
「もとはリザードマンスケルトンだっけ? じゃあ普通のリザードマンをたくさん捕まえて融合させたら生きたドラゴン出来るのかな?」
「蒔かれた者も竜の牙だか骨だかから作られてるって伝説だし、竜の牙なんてまんまだし、出来るとしても何回か転生させてドラゴンに近づけてやる必要がありそうだよね」
「ライラもやりたいの?」
「そりゃ、そうだよ。我が国には守護竜がついているのだ! とか超ハッタリ効きそうだし」
現実でもドラゴンの伝説をもとにした国旗が存在しているくらいだし、実に説得力がある。
レアもどうせやるのなら、魔王的な要素も付け加えてオンリーワンのペットを生みだしてみたいところだが、そんなバリエーションが用意されているのかわからないし、その前にリザードマンがいない。
「リザードマンでなくても、トカゲ系の魔物なら転生させまくれば近い事はできそうではあるよね。
じゃあこれからそれ系の魔物の生息地を見つけたら優先的に教え合うということで」
「そうしよう」
「いやー。でも王城でやんなくてよかったよ。もし中庭なんかでやってたら今頃大惨事だ」
王城は倒壊し、多くの死者を出す未曽有の大災害になったことだろう。
生き残った人々も『死の芳香』でじわじわと命を削られ、最終的にどれほどの被害が出ることになっていたか想像もつかない。
「これ、ブランが適当な街の上空でこの子を『召喚』して街に落としたら、それだけで壊滅するよね」
レアがウルルでそのうちやろうと考えていた戦術だ。ウルルであれば動かなければ魔物だとばれない隠密性があるが、ギドラはその代わりに広範囲スリップダメージがある。どちらの方が有効かは運用の仕方によるだろう。
「よし決めた! 君の名前はバーガンディだ!」
「あ、名前新しくつけるんだ。首3つあるし、てっきりさっきの竜の牙の子たちかと」
「え? そうなの?」
ブランの問いに、3つの首が頷いた。
どうやら真ん中の首がクリムゾン、右の首がスカーレット、左の首がヴァーミリオンという名前だったらしい。
結局ブランは首だけを呼ぶ時は以前の名で呼び、本体というか全体を呼ぶ時はバーガンディと呼ぶ事にしたようだ。
『鑑定』では名前はバーガンディと表示されており、首ごとにそれぞれ名前が付いていることも記載されている。
「さて、落ち着いたのなら次はゾンビかな。さくさくいこう」
わざわざロシア語にしたのは、ギドラって言いたかったからです。




