第145話 「女王のお仕置き」
名無しのエルフさん
その手が暖か
丈夫ではがれにくい
文中で個人名として認識しづらい三巨頭
2020/4/3
タイトル改訂。
『サイクロン』の後、立て続けに範囲魔法をばらまいて、まずは後方の数を減らすことを第一に考える。前方は前衛の3人が抑えているため、ひとまず任せておくしかない。そちらに魔法を撃ってしまえば巻き込んでしまう恐れもある。
クモたちは確かにこれまで戦った下級の種よりは耐久力があるようで、魔法によっては一撃で落ちない者もいた。
強力な魔法で攻撃してしまうと素材が傷ついてしまい、実入りとしては良くはない。しかしまずは生還することのほうが重要だ。この時点で全滅してしまえば、ホワイト氏たちよりこれまでの消費経験値量の多い名無しのエルフさんたちでは赤字になってしまう。
ばらまいた数発の範囲魔法で幸い上級のクモは倒すことができたようだ。これを倒したパーティは今のところあまり多くはないようだが、普通に戦うことができれば中堅パーティでも十分倒せるだろう。問題は奇襲による行動阻害や状態異常だ。それも情報を積み上げることでリスクを減らしていけるはずだ。
初見殺しは恐ろしいが、攻略ルーチンを確立できれば効率狩りに変えてしまうこともできる。
前衛の様子を見てみれば、こちらも順調に数を減らしているようだ。
この分ならしばらくはリキャストタイムの処理がてら休憩できるだろう。
「はっ!」
ハルカが糸を掻い潜り、クモの腹を斬りつける。一撃ではやはり倒せなかったようだが、その直後に放たれた毒毛針は盾を利用しつつうまく回避していた。
牙による攻撃は剣で弾きつつ、隙をみて盾で下から殴りつける。
上体が浮いたところで横から突き出された剣がクモの腹、それもハルカがつい先程攻撃した位置に突き刺さった。
隣で戦っていたくるみによる援護だ。そして倒れ伏したクモの頭胸部にハルカが剣を突き入れ、確実にトドメを刺した。
ハルカはすぐにらんぷが戦っていたクモを横から盾で殴り、体勢を崩させた。
この3人は息のあった連携で前衛を支えるのが仕事だ。単一のエネミーではなく、それぞれが別のエネミーを攻撃している際でもそれは変わらない。
そして3人の前衛が前線を支えている間に敵にトドメを刺すのが名無しのエルフさんの仕事だ。
「『ブレイズランス』!」
リキャストタイムがあらかた片付いたため、援護として単体用の魔法を撃つ。敵の増援を警戒し、今度はリキャストを残さないよう、連続して撃つようなことは避ける。ダメージをまだ受けていない敵を主に対象にし、範囲魔法より威力の高い単体魔法で確実に始末していく。
「……いまのが最後、かな?」
「みたい。ふーっ。なんとかなったね」
ホワイト氏たちを全滅せしめた上位種のクモの奇襲は乗り切った。
事前の情報があったおかげだ。
それがなかったら奇襲を受け、糸や毛針で出鼻を挫かれ、ペースを奪われていたはずだ。
だとしても全滅するとまでは思わないが、そこから畳み掛けるように後続が来ていたらどうなったかわからない。
「……増援を警戒しつつ、撤退を再開するわ」
インベントリから羅針盤を取り出し方角を確認する。これから進もうとしていた方角は、本来進むべき方角とは微妙にズレていた。
大したズレではない。そのまま進んでも脱出は可能だったろう。しかし脱出までに移動する事になる距離は確実に伸びていたはずだ。移動距離が伸びるという事は戦闘回数が増えるという事であり、生還率の低下につながる。
「なかなかやっかいねこれは……」
森の中で方向を知ることの難しさはよく分かっている。
ゆえに普段は目印などを付けることによって帰路を確保しているが、この森ではそれは通用しない。羅針盤がなければ正確な方角を知ることはできなかっただろう。
「一直線というわけにはいかないけど、最短距離で脱出するわよ」
羅針盤が重くかさばるが仕方がない。方角は逐一チェックする必要がある。
一行は時折立ち止まり、方角を修正しながら森を進む。密集する木々だけでなく、大きな瓦礫なども迂回する必要がある。もともとあったらしい大きな瓦礫の隙間を縫うように木が成長している場所などは、かなり大きく進路を変えなければならなかった。
往路ではそのようなことはなかったはずだ。
ということはダンジョン内部の構造が変化した結果、このようなルートになったということだろう。
この森には入っていくのは容易いが、出ていくのは難しい。
「アリ地獄みたいなダンジョンね……」
アリが運営するアリ地獄など笑えない。
「なっちゃんちょい待ち!」
「なっちゃん言う……な……」
失策だ。羅針盤に、方角に気を取られ過ぎていた。
立ち塞がる瓦礫や木を迂回し、回り込んだつもりだったが、その先は袋小路だった。
ただの袋小路ではない。ちょっとした広場ほどのスペースがある。この一角だけ不自然に木々が生えていない。
「いったんもどっ……」
振り返るが早いか、重たい音が響いた。どこからともなく落ちてきた瓦礫によって、今通ってきた獣道がふさがれている。
「いやマジでどっからこんなものが……」
見上げてみるが、上はただ木の枝が絡み合って空をふさいでいるだけだ。まさか瓦礫を押し上げて成長していた木があったとして、このタイミングで偶然その瓦礫が落ちてきたなど考えられない。
「何かしらのモンスターが私達をここに閉じ込めるために退路を塞いだ……って考えるべきかしら」
「さすがなっちゃん。正解っぽいよ。あれ見て」
もはや呼び名を訂正している場合でもない。
くるみの指す方向、つまり広場の中央付近へ振り返ると、そこには巨大なクモがいた。
「……ボス戦かー……」
「……そりゃ逃げらんないわけだわ。ボス戦ってそういうもんだし……」
他のダンジョンの攻略報告などからは、ボスとの戦闘から逃走が可能かどうかはわからない。
なにせ現時点ではボスらしきモンスターと遭遇したという報告自体がないからだ。
攻略を目的として難易度の低いダンジョンにアタックしているパーティもいるとは思うが、まだクリアはしていないのか、していても報告がないだけなのかは不明だが、とにかくまだ書き込みはない。
「うちらが一番乗りかなぁ」
「倒せれば、だけどね」
ハルカの皮肉はしかしもっともでもある。
バランス型のパーティではなく、バランス型の前衛を集めただけのパーティである名無しのエルフさんたちには、初見の強敵というのは分が悪い。
相手はこれまで戦った、上位のクモよりさらに大きい。脚は細長いように見えるが、単にサイズが大きいためにそう見えるだけのようだ。よく見れば太さはこれまでのクモよりも若干太いかもしれない。
脚の形も丸っこくずんぐりしていたこれまでとは違い、シャープで節々が棘のように伸びている。色もこれまでの暗い単色ではなく、黄色や赤などが入っており、本能的に危機感を掻き立てられる色合いだ。
これまで戦ったクモのさらに上位種というよりは、同じクモでも全くの別の種のように見える。
なによりその頭部のあるべき場所からは、代わりにヒト型の上半身が生えていた。
とは言っても人間の上半身がそのまま生えているというわけではない。クモのパーツを使用してヒト型に成型したという感じだ。
「クイーンなんとかって名前だよこれ絶対……」
一部のアリなどの魔物には下位種を統括する女王のような魔物が存在しているということは知識としては知っている。その多くは小さな町なら容易く滅ぼしてしまえるほどの力を持っているとのことだが、かと言っても別に生まれた瞬間から強大であるわけではない。
このクモのクイーンがボスであることはおそらく間違いがない。
しかしこのダンジョンが解放されたのは今日だ。もしかしたらまだそこまで成長してはいない可能性もある。
「いやー……。女王アリも弱いうちは弱いアリしか生み出せないって話だしぃ、さっきの少し強めのクモがいるって時点で手遅れ級じゃないかなぁーって」
「ですよねー……」
ざわざわという木々の音に紛れ、瓦礫や木の上から次々とクモたちが現れる。
さらに地面からはアリたちが這い出してきた。
「雑魚もいるのかよ!」
「これは詰んだかもね……。しょうがない、全滅するにしても、できるだけ倒して経験値を稼いでから死ぬわよ!」
先ほどの上位のクモとの戦闘で稼いだ分もある。おそらくここで死んでも経験値的にはトントンといったところだろう。
仮に経験値が多少の赤字だったとしても、これまで得られた素材を思えばまるっきり損をしたというほどでもない。
このダンジョンの傾向を実感として掴めたことを考えればプラスと言ってもいいだろう。
やはりこのダンジョンは、挑戦者の戦闘力によって難易度が変わると見て間違いない。
☆3というのはあくまで平均、目安に過ぎないと考えるべきだろう。
中堅くらいまでは経験値稼ぎができるかも、と考えていたが、もしかすればそれ以上の難易度にも対応している可能性がある。
それはこのボス部屋に湧いた雑魚を見て改めて気付いたことだ。
この部屋のボスが女王クモであることは間違いがないだろう。
では今這い出してきたアリは一体何者が生み出しているのか。
クモたちのボスとして女王クモがいた。
ならばアリたちのボスとして、女王アリが少なくともいるはずだ。
どこにいるのかは不明だが、アリをけしかけてきている時点でこちらの情報は持っているとみて間違いない。
ということは、もし仮に名無しのエルフさんたちのパーティがもっと強かった場合、ここに女王クモと女王アリが共に存在していたとしてもおかしくない。
このダンジョンの難易度調整は、まだ上方修正が可能だと言うことだ。
「……とりあえず、しばらくはこの付近でプレイできそうでよかったわ」
拠点を変えた甲斐があるというものだ。
「っ来る!」
女王が毒毛針を飛ばしてくる。
見た目ではそれほど体毛があるようには見えないが、腹側にはびっしり生えていたりするのだろうか。どこから飛ばしているのかもよくわからないが、とにかく対処するしかない。
「『サイクロン』!」
しかし吹き散らしてやるつもりで放った魔法では、軌道を逸らしてやることしかできなかった。
被害はゼロに抑えられたが、やはりこれまでのクモよりも厄介だ。
「悪いんだけど魔法でガードするのは厳しいかも!」
こうなれば飛来物のガードは前衛にまかせ、魔法は確実に敵を倒すために使った方がいい。
周囲の取り巻きのクモたちめがけ、『火魔法』の範囲魔法を放つ。
木々に燃え移ったりなどをして、こちらが煙にまかれたり火に囲まれたりしてしまえば自分たちの首を絞めることになりかねない。そのため森の中では『火魔法』は自重していたが、この広場ならば多少はいいだろう。
取り巻きたちから毛針や糸が飛んできたとしても空中で焼きつくせないかという狙いもある。
炎にあぶられたクモやアリたちはほとんどが即死し、無残な姿をさらしている。素材としての価値は絶望的だが、先ほど同様とにかく倒すことを優先に考えるしかない。
普段であれば前衛の3人がボスを抑えている間に名無しのエルフさんが雑魚を掃討し、雑魚が片付いたらボスと本格的に戦闘に入るという流れだ。ボスに剣と魔法でダメージを与え、ボスの攻撃は前衛の3人がターゲットをバラけさせながら受け流す。
そのつもりで攻撃を続けていたのだが、いつまでたっても取り巻きが減っていかない。倒せていないというわけではない。経験値はかなり入ってきている。
次から次へとどこかから湧いて出てきているのだ。
よく見れば上位のクモだけでなく、序盤に戦った下位のクモも混じっている。弱いクモに範囲魔法をぶつけるのはMPもリキャストタイムももったいないが、強い個体にだけ当てられるというわけでもないし仕方がない。
しかし本来魔法使いとは決戦兵器であり、こうした波状攻撃に対抗するのに向いていない。次第にリキャストタイムも重なり、取れる手段が少なくなってくる。
そろそろMPの回復とリキャストタイムの処理のための休憩時間が必要だ。
前衛のハルカたちは何とか女王を抑えてくれている。雑魚を始末しきれないのは面目が立たないが、強がっても意味はない。
名無しのエルフさんもVRゲームの経験はそれなりに長い。魔法特化ビルドと言っても、いざという時のための近接武器は持っているし、その扱いにも慣れている。スキルがなくとも剣は振れる。
STRは低いため、倒したり、効果的なダメージを与えたりといったことはできないが、攻撃をしのぐだけなら不可能ではない。
「雑魚の処理間に合わない! ごめん!」
「じゃあ諦めよう! せめてボスだけは倒そ!」
「わかった!」
「了解!」
「おっけぇー!」
リーダーは確かに名無しのエルフさんだが、咄嗟に次の方針を出さなければならない時などはこうして誰かが案を出し、他のメンバーがそれを追認することでパーティの行動が決まることがある。今回はハルカのこの発言に全員が乗ることにした。リーダーだ何だと言っても結局はただの仲良し4人組だ。実際のところは誰が音頭を取っても問題ないのだ。
範囲魔法はほとんどがリキャスト中だが、単体魔法は全く使っていない。ボスだけ倒すのなら、雑魚の攻撃をいなしつつ、ボスに魔法を撃てばいい。
とは言うものの、かなり難易度は高い。
何とか雑魚の攻撃を見切りつつ、意識は女王に向け、魔法に集中して放つ。
「『ブレイズランス』!」
「──」
しかし女王の前方に突如同じく炎の槍が現れ、名無しのエルフさんに向かってくる。
「嘘! 魔法!?」
二つの炎は吸い込まれるように両者の中央付近で衝突し、爆発した。
周囲に『ブレイズランス』2発分のエネルギーがばらまかれ、取り巻きのクモたちが炎に焼かれる。
「くっ!」
「あづっ」
それはハルカたちも同様だ。女王の背後にまわっていたらんぷだけは無事だったが、それ以外のふたりは軽度の炎ダメージを受けている。もともとが単体用の魔法であるため、拡散したことでかなり弱体化しているが、それでも上位プレイヤー2人分に相当する魔法だ。無視するには少々痛いダメージだ。
ゴブリンやスケルトンなど、人型の魔物の中には少ないながら魔法を使うものもいるし、風虎のように属性が偏った魔物も属性攻撃をしてくることはある。
しかし虫系の魔物が魔法を使うなど聞いたことがない。別の国にいるとされる女王アリのモンスターも、主に物理攻撃しかしてこないという話だったはずだ。NPCの騎士が討伐した記録があるとかで、どこの国だったか定かではないが調べたプレイヤーがSNSに情報を上げていた。
「──」
しかし呆けている余裕はない。女王の前には次の魔法、おそらく『氷魔法』の単体魔法がスタンバイされている。
「ええとええと、『フレアアロー』!」
しかしこれでは弱い。完全な相殺までは持っていけないだろう。かといってこの短時間では『ブレイズランス』はまだリキャストタイムが終わっていない。近い属性の魔法ではまた相殺時に周囲に被害が出てしまうため、選択肢は事実上なかったと言っていい。
「ぅぐっ!」
案の定、やや小さくなりはしたが、氷の槍は炎の矢を突っ切り、名無しのエルフさんに直撃した。
魔法の撃ち合いはこちらの負けと言えるだろう。そもそも、相手は仲間の被害を全く気にしていないが、こちらはそういうわけにもいかない。最初からフェアな勝負ではないが。
「……っていうか、虫と魔法戦とか、そもそも想定外なんだけど……」
『治療』でダメージを回復しつつ、移動しながら次の手を考える。ほかのメンバーも回復してやりたいが、名無しのエルフさんは『回復魔法』までは取得していない。他の魔法とリキャストが被るのを嫌ったためだが、こんなことなら取っておけばよかった。
移動したのは魔法の衝突時の被害が味方に及ばないように位置取りをするためだったが、女王がこちらに合わせて向きを変えていくため、効果は薄かった。
雑魚の攻撃をかわしながら牽制し、じりじりと一周回ってしまったが、結局元の位置に戻ってくる。
「仕方ない! ちょっと大きいの撃つから避けて!」
「おっけ!」
返事を返したのはくるみだけだが、全員が頷いたのを確認し、魔法を放つ。
撃つのは『雷魔法』の『ライトニングシャワー』だ。範囲魔法であり、女王を発動起点にするため、仮に女王が相殺しようともその被害は女王自身が最も大きく受ける。
またこの魔法は範囲魔法の中でもその効果範囲は狭く、ハルカたちもすぐに移動すれば十分に範囲外へ離脱が可能なはずだ。
「『ライトニングシャワー』!」
「よし避けっ……!?」
「あだっ! 何ぃ!?」
「うそ!? 足が!」
ハルカたちはその場で転び、逃げようとしない。
しかし魔法はすでに発動してしまっている。
女王は倒れ込む3人を見下し、自身は大きく飛びのいた。本来『雷魔法』は発動が早いため、見てから避けるというのはほとんど無理なのだが、あらかじめ声をかけていたことと、ハルカたちが離脱しようと動きを見せたことで警戒させてしまったようだ。
「うぐっ」
「きゃあ!」
「しびびび」
結果、名無しのエルフさんの魔法は仲間にだけダメージを与え、何の成果も得られずに終わった。
「ごめんっ! 大丈夫!?」
しかし女王が飛びのいたのなら、仲間たちのもとへ近寄ることもできる。そうすれば『治療』でダメージを回復させてやれるだろう。
ポーションと併用すれば戦闘継続可能なLPまでなんとか持って行けるはずだ。
女王が魔法を使い始めてから取り巻きのクモやアリたちは女王の方へあまり近寄ろうとしていないし、今なら邪魔をされずに治癒できるだろう。
「『治療』……と、ポーション。あと念のため私もMPポーションを」
「ありがと……。でもこれ、もう詰んだかもよ」
「どういうこと?」
「私達がぁ、転んだ理由よぉ」
「足元、見えづらいけど、地面に固定されてんのよ。たぶん、女王の糸だと思う。戦いながらちょっとずつ出してたんじゃないかな」
「さっきぐるっと一周回ったじゃない? たぶんあの時のが仕上げだったんじゃないかと」
咄嗟に立ちあがろうとしたが、立ち膝でしゃがんでしまったため、接地した膝が上がらない。
地面は土なので、固定されたとしても土ごとはがれそうなものだが、そうはならない。
土に見えるが、これはすべて糸で固めてあるのだろう。そして戦いながらその上に粘着トラップ用の糸を敷き、名無しのエルフさんたちを罠にかけた。
このクラスのボスと戦うにあたっては、前衛の3人の仕事はヘイトコントロールと攻撃の受け流しだ。範囲攻撃でもなければ大きく回避することは無いし、攻撃にしてもターゲットを取ったキャラクターがちょこまかしていてはボスの攻撃の矛先がブレるため、可能な限り足を止めて行う。
つまりこちらがどのように動くかは、ボスの攻撃次第ということだ。そのためボスが狙って誘導しようと思ったとしたら、それも不可能ではない。
これがPvPならハルカたちも警戒していただろうが、相手は所詮虫系の魔物だ。彼らは総じて知能が低い。
「……魔法を使った時点で気付くべきだったわ。魔法に関する行動判定の多くはINTを参照する。ということは、魔法を使えると言う時点である程度のINTはあると考えて行動すべきだったのよ」
さらに言えば、名無しのエルフさんの『ブレイズランス』とほぼ同威力の魔法を撃ったということは、同程度のINTがあった可能性がある。モンスターのINTと思考能力に関連性があるのか不明だが、INTはインテリジェンスの略であり、普通に考えたら知性だ。STRを上げたら重いものが持てるようになることは証明されているため、INTが高ければ思考能力が上がっても不思議はない。
言われてみればクモの女王だと言うのにまったく糸を吐いて来なかった。他の取り巻きはチョロチョロ糸を出していたが、大抵魔法で吹き飛ばしていたために大して気にもしていなかった。
しかし違った。糸はきちんと出していた。ただ間抜けな名無しのエルフさんたちが気づかなかっただけだ。
こんなボスが、しかも複数で支配しているのなら、この森の生還率が低めなのも当然だ。
しかし魔物にしてみればプレイヤーを生きて帰すメリットはまったくない。プレイヤーが強かろうが弱かろうが常にこの女王たちが出張っていれば、生還率は低めどころかゼロだったはずだ。
そうではないということは、やはり普段はシステムか何かに行動が制限されているのだろう。一定以上の実力のプレイヤーが、おそらく一定数以上の魔物をキルした時だけこの悪夢たちが開放される。
そういうことなのだろう。
「ギリギリ効率的に狩りができそうなのが……。ある程度この森の情報を得た中堅くらいってことね。それで☆3難易度ってことか。よく出来てるわ」
事前に調査しなければホワイト氏たちのように死ぬだけであり、アタック前に情報を集めていたとしても数名は死に戻る。しかし総合的に見ればそれでもプラスであり、死にさえしなければ大幅に黒字だ。
しかもドヤ顔でアタックしてくる上位プレイヤーには女王のお仕置きが待っている。
もはや動けない名無しのエルフさんたちにわざわざ近寄って攻撃する気はないらしい。
飛びのいた先で女王クモが巨大な火球を生成しているのが見える。あのクラスの範囲魔法を立て続けに撃ちこまれれば、おそらくこのパーティでは耐えきれるものはいない。
「まあ、タネは割れたし。次……はまだわからないけど、そのうち攻略してやるわ」
炎が、氷が、雷が、風が。
名無しのエルフさんたちに襲いかかり、最後は岩塊に押しつぶされて、水に流された。
いつも誤字報告ありがとうございます。
女王級は配下の強化しないといけないところもあるので、一通り魔法は取らせてあったり。
INTが低いままだとギリギリ魔法は取得できても押し負けたり当てられなかったりしますが、主人公の方針により管理職の眷属のINTは高めに設定されております。
なおクイーンの戦い方が陰湿なのはINT関係なく全く別の理由




