第133話 「すみませんフレに呼ばれますね^^」
2020/4/3
タイトル改訂。
イベント中盤は合流するのに必死になっていたためろくに活動できていなかったが、終盤に入りようやく3人揃うことができ、ウェインもそれなりに経験値を稼ぐことができた。
明太リストの提案で資金よりも経験値を優先して稼ぐことにしていたため、ギルや明太リストに追いつくほどではないが、少なくとも肩を並べて戦える程度には成長したはずだ。
現在はギルや明太リストが拠点にしていたウェルスという国で稼いでいる。この国もヒルスと同じくヒューマンが多い国であるため、プレイヤーにしては珍しく3人ともヒューマンであるウェインたちのパーティは活動がしやすい。
今はカーネモンテという街の宿屋のラウンジで男3人でお茶をしている。
カーネモンテはウェルスでもかなり大きめの都市だが、魔物の領域が近くにあるため、プレイヤーとしても活動のしやすい街と言える。辺境にありながら拡大を続けてきた街らしく、外壁が何重にも存在しており、外壁と外壁の間にも街がある。ウェインたちがいるのはその最外殻の区にある宿屋である。
メンテナンスが明けたため、それぞれがログインして客室から出てきたところだ。
「つーか、ウェインの装備、そろそろヤバいだろ。それ、鉄と魔獣の皮かなんかだろ。逆によくそれで付いてきてたよな。スキルや能力値だけじゃなくてプレイヤースキルもだいぶ上がってるんじゃね?」
「そうだね。最近はほとんど被弾してないみたいだし。剣もナマクラだから与ダメは大したことないけど、攻撃は魔法でもカバーしてるから、剣さえもっといいものにできればDPSも安定するよ」
「いや、俺の装備がショボイのは明太が後にしろって言うからだろ。正直、この恰好じゃ他のパーティで活動してたらメンバーが次々にフレに呼ばれる案件になるレベルだぞ」
何度かそう文句を言ったのだが、明太リストはとにかく今は装備は後にしようと言うだけで取り合わなかった。
もっともその分戦闘時にもサポートは十分してもらっているし、パーティメンバーである明太リストとギルがいいと言うならウェインとしても強くは言えない。足を引っ張っているという自覚はあるし、その中で逆に引っ張り上げてもらっているという感覚もまたあるからだ。
「でも、マジでそろそろ何考えてんだか教えてくれよ。なんの理由もなくウェインにボロ着させてたってわけじゃないんだろ?」
ギルの言葉に、明太リストは飲んでいたカップを空にし、立ちあがった。
「そうだね。じゃあ、続きは僕の部屋へ行こう」
ウェインやギルの部屋からも椅子を持ち寄り、明太リストの部屋で小さなテーブルを囲む。
ウェインにしてみれば別に大部屋でもよかったのだが、ギルや明太リストは資金に困っていないため、個室でいいだろうということになっている。ウェインもなんとか支払いは出来ているが、そろそろ経験値より資金稼ぎの方にウェイトを傾けなければ生活水準の維持は厳しいだろう。
明太リストにはああ言ったが、正直なところ、現状のランクにあった装備を買う資金は心もとない。
「さて、ところで確認なんだけど。災厄とのレイド戦、あれのドロップアイテムの金属塊は回収し損ねた。それはすでに正直に参加メンバーには話してあり、そのうえで了解をもらって、全員報酬は無しで合意した。ってことでいいんだよね」
ウェインとしても、苦い記憶だ。災厄が再び現れる前の間に、あれだけでも回収しておけばよかった。ヒルス王都はすでに災厄の勢力下にあるため、あれらの金属塊もすでに災厄に回収されているだろう。
「その通りだね……。申し訳ないとは思っているけど」
「しょうがねえってか、あれは別にウェインだけの責任じゃないしな。ってかよ、明太、なんかいくつか拾っておいたとか言ってなかったか?」
「言ってたよ。今も持っている」
それならばみんなに、と一瞬考えたが、それはあくまで明太リストが個人的に王都内で回収してきたものであり、レイド戦のドロップとは意味が違う。苦労して拾ってきた明太リストが所有すべきものだ。
「抜け目ねえっつーか、さすがだよな。それで、その金属って結局なんだったんだ? 魔鉄とかか? もしかしてそれを使ってウェインの装備を作らせるつもりだったのか?」
「そんなところだけど、ひとつ訂正がある。この金属は魔鉄じゃない」
明太リストはインベントリから金属塊をひとつ取り出し、テーブルに置いた。
すでにインゴットに加工されており、どこかの鍛冶屋かなにかで鑑定や製錬を済ませてきたであろうことは明白だ。
「これはこの街の鍛冶屋でインゴット化してもらったものだ。これまで渡り歩いてきていた小さな街じゃ扱えないって言われててね。この街でも、中心部に近い老舗の鍛冶屋じゃないと見てもらえなかった」
「マジかよ、なんだったんだそれ」
「これはアダマスって金属らしい」
アダマス。ウェインも聞いたことがある。たしか元は古代ギリシャの、ヘシオドスの記した神統記に登場する単語で、文脈から鋼鉄かなにかを表すものだとされていたはずだ。語源は征服されないとかそういう意味で、とにかく硬いというイメージの単語だ。
「このゲームではどういう扱いなんだ? ギル、聞いたことあるか?」
「いや、ないな。いわゆるアダマンタイトとかアダマンチウムとかのことだろ多分。あったのか、そんなの」
「あったみたいだね。鍛冶屋の親方が言うには、通常金属の中では特に硬くて丈夫で、魔法金属と比べてもかなり上位の性能らしいよ。なんて言ったかな、オリハルコン……みたいな名前の素材と比べるとさすがに見劣りするらしいけど。ミスリルなんかは、ちょっと用途が違ってくることもあるから一概にどっちが上とかは言えないみたいだけど」
よくそこまで調べてきたものだ。
しかし、ということは相当な希少金属だということだ。
それが王都中に落ちていた。
「マジかよ……。ドロップやべえな災厄。これ公になったらヒルス旧王都にプレイヤー殺到するんじゃないか? あの街なかにいたアンデッド倒したらこれドロップするってことだろ」
「そうなる……かもしれないけど。僕はあんまり公表するつもりはない」
「……そうか。すまない明太リスト」
「どういうことだ?」
「ギル。一度は全員納得したとはいえ、もともと俺のミスで災厄のドロップはロストしたんだ。それが、今になって実は高価な金属塊だったって判明したなんてことになったら、どうなるかわからない。明太リストはそれを心配してるから、今まで黙っていたし、こうして俺たちにだけ話してるんだ」
「なるほどな……。つか、別にウェインだけのミスじゃねえって言ってんだろ。
でもよ、たとえばアンデッドからだけその金属が出て、災厄からは違うアイテムだったかもしれないだろ」
「だとしたらもっと悪いよ。災厄から金属塊がドロップしたのはみんな知っているし、それがまさか配下のアンデッド以下の素材だなんて誰も思わない。違うと言うなら、より上位のアイテムだったって考えた方が自然だ」
ウェインの心情としては、あのレイドメンバーには正直に打ち明け、謝罪をしたいという気持ちはある。しかしそうなればギルも明太リストも自身の責任を主張するだろうし、明太リストに至っては同じものかは不明にしても現物を所持している。泥沼の争いになってしまう可能性もある。
あの時のメンバーにそのような諍いを起こす者いるとも思えないが、リスクはゼロではない。
「で、公開する気がないならなんで今さら出したんだ? こっそり売っちまえばいいだろ。どうせばれねえよ」
「もうわかってると思うけど、これでウェインとギルの装備を新調したらどうかと思ったんだよ。下手に市場に流しても面倒なことになりそうだし。ばれない、っていうのは、そりゃプレイヤーにはばれないだろうけど、買い取るNPCは確実にこっちをマークするからね。鑑定をお願いした鍛冶屋には今後仕事をお願いするってことで黙っててもらってるけど」
「……どうするよ、ウェイン」
正直に言えば心苦しい。他のレイドメンバーを差し置いて自分だけが、という気持ちもあるし、そもそもそれは明太リストの所持品だ。
しかし言いだしているのもその明太リストだし、ウェインの装備の悪さがパーティ全体の足を引っ張っているのは事実だ。パーティ全体の戦力の底上げという判断で明太リストが言い出したのだととらえる事もできるし、おそらくウェインが後ろめたさを理由に断ればそう言ってくるだろう。
また、同時にギルの装備を新調することも提案しているあたり、そつがない。
戦闘スタイルから言っても明らかにギルが使用する金属のほうが量が多くなるだろうし、その分ウェインの心情的にも負担が軽い。ギルはウェインが断れば断るだろうから、ここでウェインが断ればギルのステップアップにもストップをかけてしまう結果になる。
ふたりの性格をよく把握した上で提案していると言えるだろう。
「……君が敵じゃなくてよかったよ、明太リスト」
「お褒めにあずかり光栄だよリーダー。じゃあ、OKってことでいいかな」
「ああ。すまないけど、頼むよ」
考え方を変えよう。いずれ、災厄を再び倒す事を目標にするのだ。レイドメンバーにはその時に報酬を返すことにする。
この金属は、そのために借りておくのだ。
「よっしゃ! じゃあこれから行くか? その鍛冶屋ってとこによ」
「そうだね。向こうはこっちが行くのを今か今かと待ってるだろうし、早い方がいいかな」
「そんなに仕事熱心な鍛冶屋なのか?」
「いや、アダマスはこの街でも珍しいらしくて、こんなに大量に扱える機会はめったにないからってさ」
「そういうもんか」




