第127話 「そういう意味ではない」
2020/4/3
タイトル改訂。
《プレイヤー名【ブラン】様
平素は弊社『Boot hour,shoot curse』をプレイしていただき誠にありがとうございます。
このたびは第二回公式大規模イベントにご参加いただき誠にありがとうございました。
今後のゲームの運営に関しまして、一部ブラン様にご協力のお願いをしたく、ご連絡差し上げました。
ブラン様がおられる旧ヒルス王国北西部のエルンタール、ならびにアルトリーヴァ、ヴェルデスッドの各街についてですが、こちらは現在ブラン様の勢力下にございます。
つきましてはこれらの各フィールドへの、他プレイヤーの皆様による襲撃を運営側がサポートをする旨をご許可いただきたく願います。
現在、主に旧ヒルス王国にて大規模な情勢の変動があり、ゲームを始めて間もないプレイヤーの皆様の快適なプレイが難しい状況にあります。
そこで運営としまして、手ごろな難易度の単一勢力による支配地域に、プレイヤーの希望者をお送りする限定転移サービスの実装を検討しております。
この転移は一方通行で、帰ることはできません。
これに伴い該当のフィールド内のセーフティエリアを、該当フィールドに近い場所に集約して移動させ、転移サービスはこのセーフティエリアを行き先に設定する予定です。
可能であればブラン様にご理解いただき、特に新規プレイヤーの皆様の成長にご協力いただければと考えております。
もちろんこれはブラン様のご意思を尊重する前提でのご提案であり、ご承諾いただけない場合は、運営側で簡易の特設エリアを作成し、そちらへ誘導することになります。
しかし特設エリアを運営が用意する場合、取得経験値と実際の難易度に大きな差が出る可能性があり、少ない労力で急激に成長するプレイヤーの出現が予想されます。
もしご協力いただける場合は、該当フィールド内でのブラン様のキャラクター死亡の際のデスペナルティの内容変更など、ブラン様が行うエリア運営のサポートを検討しております。
ご一考、どうかよろしくお願いいたします。
※なおこのメッセージは、適合するフィールドを支配しているすべてのプレイヤーの皆様にお送りしております。
『Boot hour,shoot curse』開発・運営一同》
「なにこれ……」
メンテナンスが明け、1日ぶりにログインしてみれば、運営からメッセージが大量に来ていた。
すべて適当に読み流していたが、そのうちの1つには返信用のフォームに誘導するバナーがついており、返信をしなければ既読にならない仕様だった。
そのメッセージがこれだ。
「適合するフィールドを支配するすべてのプレイヤー……ってことはレアちゃんにも来てるのかな?
でも初心者用のフィールドか……。レアちゃんのとこって初心者用なのかなぁ……。
まあいいか。もしかしたら中級者用とかで微妙に違う文面で来てるかも知れないし。
うーん、プレイヤーがたくさん攻めてくるっていうのは困るけど、死んでもあんまり痛くないっていうのは助かるかな……。それに初心者用ってことなら、イベント中にエルンタールにプレイヤーが来た時みたいにレアちゃんのサポートがなくても撃退できるかもしれないし。
まあ、レアちゃんが来たら相談してみよ」
レアからは、というかレアとライラからは数日はインできないという内容の言伝をもらっている。
たぶん、家庭の事情だろう。
姉妹が仲直りしたくらいで家族の状況がそこまで大きく変わるのかはわからないが、家庭内での彼女たちの影響力がわからないため何とも言えない。
気にならないわけではないが、仲直りしたならとりあえずはいいだろう。ブランにとって重要なのはそれだけだ。
「まあ、運営メールは置いておいて。
イベントも終わったことだし、いったん伯爵先輩に会いに行こうかな。
レアちゃんからはクイーンビートルさん借りたままだし、いない間はこき使っていいよって言われてるから、とりあえずエルンタールに置いておこう」
アルトリーヴァやヴェルデスッドには相変わらずゾンビしかいないが、エルンタールやラコリーヌを経由せずに、つまり街道を通らずにあの街に行くのは相当な根性と廃人級の時間、そして運が必要なはずだ。ブランやレアのように地図などを所持していれば別だが。
放っておいてもいいだろう。
「それ考えたら、あの街を初心者用の訓練フィールドにしようと思ったら、転移とかでもしなきゃ無理だね確かに」
辿り着く前にエルンタールかラコリーヌで追い返されるだろう。これらの街にはレアの用意した蟲たちがいる。
「では、伯爵さまの古城……居城へ向かいますか?」
「古城って言うと先輩怒るよ?」
「噛んだだけです」
アザレアたち3人のみを連れ、『飛翔』で伯爵の城へ向かった。
*
「ただいまあ!」
「ふはは! その様子ではうまくいったようだな! いくつの街を制圧できたのだ?」
ずいぶん久しぶりに伯爵に会うような気がするが、伯爵からしてみればそうでもないようだ。彼のこれまで過ごしてきた時間は非常に長いため、体感時間がブランとは違うのだろう。
あるいはこのおよそ10日間の体験の密度によるものかもしれない。実にいろいろな事があった。
「制圧した街っていうと、3つかな? 少なくとも今わたしの支配下にある街は3つっすね。
それより色んな事があったんですよ。まあ聞いて下さいよ先輩」
「何、我には時間など腐るほどある。心ゆくまで話すがいい」
「……ちょっと、どこから突っ込んでよいかわからぬが、何、魔王……だと?」
「そうなんすよ。フレン、友達になったんすよ。超いい子……ではないけど、まぁまぁいい子……うーん、超可愛い子っす」
「そうか……。相変わらず何をしでかすかわからぬやつよ。
よいか、魔王と言えばな、我らが盟主、真祖吸血鬼と同格とされる、我らにとっては雲の上の存在だ。
もっとも生まれたばかりということであるし、現在ではまだそこまで至ってはおらぬだろうが……。
いずれはこの大陸を支配するほどの存在へと成長されてもおかしくはない」
「はえー。すっごい」
なんとなく凄そうだ、という程度には考えていたが、まさかそれほどとは。
しかし確かに、レアの強さは群を抜いているように見えるし、レアとつるむようになったブランの成長曲線も右肩上がりと言える。
ではそのレアと人の身で引き分けた──ように見える──ライラはいったい何なのか。
「しかし、四天王か。それほどまでに優秀な配下をすでにお持ちなのか」
「そのうちのひとりはわたしっすよ!」
「……それほど優秀な配下をすでに3名お持ちだというのか」
「あれ!?」
「もともと、魔王といえば、通常は配下をあまり持たれない種族だ。配下を支配するのに向いておらぬ。数名強力な配下がいることはあるが、その四天……3名の他にも大勢の配下がいるのだろう?
そういう大勢力を築くといえば、そうだな。邪王や聖王などの方が得意だったはずだ」
「どう違うんですか?」
「元になった種族の違いだな。魔王の元になる種族は本来『使役』があまり得意な種族ではない。これは精霊王でも同じだ。
そちらと比べ、邪王や聖王は上位種族が下位種族を『使役』することで成長するタイプの種族から至ることが多い。その違いだ」
「真祖吸血鬼はどうなんですか?」
「真祖はまあ、どちらかと言えば後者に近いか。だが単体戦力として考えた場合、おそらく邪王などよりは強かろう。同じだけの成長をした方同士ならば、単体では魔王には勝てぬが、邪王になら勝てる。そういう力関係と言えよう」
「……じゃあ、配下めちゃいっぱいいる魔王っていうのは」
「我の知る限り、相当危険な存在だな。いずれは、というところだろうが。
最終的には極点に封じられておる黄金龍に対抗できうるのではないか?」
初耳の存在が次々と出てくる。これらのことはレアは知っているのだろうか。いや、黄金龍とかいうものは聞いたような気がするが。
「おーごんりゅう」
「あれはこの世界の外からやってきたものだ。我らの常識が通用せぬ。ゆえに逆に封印などに対する抵抗も低かったため、とりあえず封印して変化の少ない極点に置いてあるのだ。
あの時には確か時の聖王が世界中から勢力関係なく協力者を募り、それで封印したのだ。我らが盟主も参加されたぞ。我はまだ幼かったため、話を聞いただけだが」
「その聖王さんは今どこにいるんですか?」
「今はもうおらぬ。その時に没して、確かあれからは新たな聖王は生まれておらぬ。
邪王は参加せなんだが、盟主の話ではひきこもり野郎だということでな。おそらく長い間地上にさえ出てきておらぬ。我も知らぬ」
少なくとも現在、将来のレアと同格とかいう存在がいくつもいるらしい。
「なんか大天使?とかいるんですよね? そいつはどうなんですか?」
「大天使か……。あれが生まれたのは最近のことだ。この大陸をかつて支配していた、精霊王が没した頃だな。恐るべき早さで成長し、天空城などというものをどこからか持ち出し、この大陸のいろいろな都市を気まぐれに襲撃しておる。面識がないゆえ目的もわからんが、少なくともこの城は攻撃されたことがないのでな。ほうっておるが」
「攻撃されたら反撃するんですか?」
伯爵は眉をゆがめ、忌々しげな顔をした。ここまで表情を動かすのは珍しい。
「業腹だが、我ではおそらく届くまい」
「あ、わたし空飛べるようになりましたよ!」
「──ふっ。そういう意味ではない」
1番情報を持っているのはブランなのでは?
なにげにおそらく最速で転生まで持っていったキャラクターでもある。




