第115話 「協力者は犠牲になったのだ」
2020/4/3
タイトル改訂。
隣国だけあり、ヒューゲルカップという街は非常に遠かった。
ブランに合わせてそれほど速度を出さずに飛んでいるとは言え、丸1日ほどかかってしまった。
なんとなくの感覚になるが、おそらく先日ヒルスで捕まえた鳩と同じ程度の速度だろう。
ということは鳩を飛ばしても丸1日かかってしまうということになり、伝書鳩が使える距離を超えていると言える。となると隣国にまで鳩を飛ばしている国はあまりないと考えていい。
「へー。でも鳩を『使役』している人とかいたらそうとは限らないんじゃない? 死んでもまた飛ばせばいいだけだし、ある程度危険でもやらせられるんじゃないかな」
「それは……。なるほど、ありえないとは言い切れないな」
ディアスたちの話では、『使役』は身体に負担をかけるような事を言っていた。それが本当なら眷属の数には慎重になるはずだ。その中の枠のひとつを鳩にするというのはかなり勇気がいる決断だと思われる。
しかし、街や国家の進退がかかっているとなれば、そのくらいやる人物は居てもおかしくはない。
「ブランはすごいな……」
「いやーへへへ」
レアでは、というより1人で考えていたのでは見落としがちな点をよく指摘してくれる。SNSなどでも、あえてそのスレッドタイトルのものは見ないだろうというものばかり見ている。しかしそのお蔭で助かっているのは確かだ。
「やはり付いてきてもらって正解だったかな」
「いやー! ばっちり守りますよ!」
「頼もしいよ」
やがて大きな城のようなものが見えてくる。
これほど大きな城があるとなれば、よほど中央に近い貴族か、大きな功績を上げた貴族でも治めているのだろう。
だとすれば最初にレアが考えていた、王族が亡命に成功して、その代償に主権を放棄したという可能性はあるだろうか。
──いや、それにしては早すぎる。
ここまで空を飛んでエルンタールから1日かかったということは、王都のほうがここに近いとはいえ1日で陸路で来るのは無理なはずだ。
しかしここの騎士が仮にヒルス王族を殺したとすれば、王都壊滅と同時くらいにこの街を出発し、王族を殺し、すぐさまこの街に取って返し、あのプレイヤーに告げたという事になる。
これを可能にするには、ヒルス王都が壊滅したという事実をリアルタイムで知っており、かつ王族が亡命のために街を出たという事を知っていなければならない。どういう手段であればそれが可能だというのか。
「……ううん。ブランの事は信頼しているけど、やはりわたしを狙った罠だというふうには思えないな」
動機もわからないし、レアの元へ情報を届けようという意思が感じられない。
「えー。絶対なんか怪しいと思うんだけどなあ。
それはともかく、街着きそうだけど、どうする? あのお城に乗り込むの?」
「いや、さすがにそれは……。
用があるのは騎士というか、まあ言ってしまえばその飼い主の貴族なんだけど。
わりと見切り発車で来ちゃったからな……。どうしようか」
偶然とは言え、喉から手が出るほど欲しかった情報を得てしまいテンションが上がってしまっていた。それに加え友達とお出かけするという事実は非常に心躍るものだった。
「とりあえず、目立たないように街の端っこに降りて、適当な住民を『魅了』で洗脳して聞き込みしよう」
「いやーレアちゃんそのビジュアルで目立たないようにって無理じゃない? あとそれ聞き込みって言うのかな? カテゴリ的には薬物による自白の方に近いんじゃないかなーって」
「ああ、『光魔法』に『迷彩』というのがあるから、姿は隠せるよ」
聞き込みについては二人の間に見解の相違があるようだが仕方ない。
「ならいっか。じゃーさっそく最初の犠牲者を探そう!」
「最初の協力者をね」
*
聞き込みが終わった協力者を灰に変え、後片付けを済ませた。
「犠牲者で合ってたじゃん! 用が済んだら始末してんじゃん!」
「そりゃ、別に『魅了』中の記憶がなくなるわけじゃないし。出会った瞬間結末はもう決まってたというか」
効率を考えれば仕方のないことだ。
「しかし、この街においてはかなり周知の事実のようだね。なんてことのない一般の住民までがヒルス滅亡を知っていたとは。
あれから1日余計に経過しているとしても、この規模の都市の末端まで情報が知れ渡っているとなれば、何者かが何らかの目的で言いふらしているとみて間違いなさそうだ」
「やっぱり罠じゃん」
罠とはまだ限らないが、警戒すべき理由が出来たと言えるだろう。ブランの言っていたことは一理あったということだ。
「まあまだ1人目だし、たまたま今の彼が知っていただけという可能性もある。次の犠せ、協力者を探そう」
「……うんソウダネ」
しかし気をつけなければならない点もある。
それは犠牲者、協力者の選定だ。
NPCと間違えてプレイヤーなどを引っ掛けるわけにはいかない。
『魅了』された経験のあるブランの話によれば、『魅了』状態になってしまうと自分の意思で一切の行動が取れなくなり、『魅了』をかけてきた相手に対して謎のピンクのエフェクトがかかるということだ。
エフェクト自体はおそらくどうでもよいのだが、この状態であっても意識ははっきりしており、単に金縛りなどのような感覚で動けなくなっているだけだったとのことだ。
NPCには『魅了』をかけてこちらの望む情報を吐かせることができたが、プレイヤー相手にそんなことが出来るとは思えない。
システム的に同等だとうたわれる、その「システム」というのがどこまでを指しているのか曖昧だが、こう考えれば納得できないこともない。
NPCとは「思考能力を持ったAIを搭載したキャラクター」であり、AIまでがシステムの一部になっている。これに対してプレイヤーキャラクターというのは「思考能力ゼロのAIを搭載したキャラクター」をプレイヤーが操作している状態であり、『魅了』などで操られたとしても、あくまで思考能力ゼロのAIまでしか影響を受けることはない。この思考能力ゼロのAIというのはつまりアバター操作補助ツールのようなものであり、これは他のゲームなどと変わらない。
「っていう仮説はどうだろう」
「ごめん、ちょっと何言ってるのかわからない。え、いつもそんなこと考えてるの?」
「いやいつもではないけど。いや考えてるかも? 口には出さないだけで。今はほら、その、まあ聞いてくれる人いたから」
「聞くだけでいいならいくらでも聞くけども。どう?って聞かれても、わたし頭よくないから、へー!としか……」
「いや、それでいいよ。今話してわかったけど、ただ聞いてほしかっただけみたい」
別に今の仮説が真実かどうかなどどうでもよい。雑談のようなものだ。レアとて別にそうした事に詳しいわけでもない。
「ならいいんだけど。レアちゃん結構寂しがりやなの? 一人っ子?」
「……どうかな」
姉妹にはあまりいい思い出がない。
しかしそれはレアの問題であって、ブランに話すようなことでもない。おそらく空気が重くなるだけだ。あるいは笑われるかもしれない。
「そんなことより、まあ何が言いたいかと言うと、プレイヤーを避けて犠牲者を探そうってことだよ」
「もう完全に犠牲者言ってるじゃん。でもプレイヤーいるのかな? ここも辺境の街じゃないっていうか、内地っていうんだっけ?」
「そうだね。でも少なくとも、SNSに書き込みをした人物はこの街にいるはずだし、イベント期間だからと言って居ないとは限らないからね」
ただ歩いているプレイヤーとNPCを見分けるのは難しい。そのため、犠牲者はなるべく買い物をしている人物を狙う。
NPCならどこかにしまっている財布を取り出すだろうが、プレイヤーなら財布を持っている方が珍しい。金貨はインベントリにしまっておけるからだ。
街に溶け込むためにインベントリを使用しないよう気を付けているプレイヤーは確かに存在するが、たいていこういう場合はポケットなどから自然に金貨を取り出すふりをする。かつてクローズドテストなどではレアもそうしていた。
インベントリの存在を知らない相手にならそれも通用するのだろうが、常識的に考えてプレイヤーのようにそれなりの装備などをしている人物が、無造作に金貨をポケットに入れていること自体不自然だ。
目的はNPCとプレイヤーを見分けることではなく、プレイヤーを避けることであるため、少しでもその危険がある人物は除外するだけでいい。
つまり、財布で買い物をしている人物をターゲットにするだけだ。よほど念を入れたロールプレイをしているプレイヤーでもなければ、財布など持っていない。
「それにそこまでガチロール勢なら、話せば協力してくれるかもしれないしね」
「協力してくれるかな……? 現状わたしたちがしていることと言えば、街の住民を攫って洗脳して殺害して証拠隠滅してるだけだしな……。てかレアちゃん協力者好きだなー……」




