第107話 「コネートル防衛」
2020/4/2
タイトル改訂。
「敵はアンデッドか。夜中でも女将が起きてたのは、あの時間もしかしたら街が襲撃を受けていたからなのかな」
翌日になり、傭兵組合で防衛の詳細について尋ねたケリーは歯噛みした。
そうであれば、昨夜あの後外に出てみれば良かった。
「あんたらも保管庫持ちの傭兵さんかい? 守ってくれるのはまあ、ありがたい限りなんだが……。なんとか、根本ていうか、そもそも敵が襲ってこないようには、出来ないもんなのかねえ……。国の方には鳩は飛ばしてるんだがね……。どうも反応が鈍くてよ」
組合の受付に立っている、くたびれた中年の男性がため息交じりにそうこぼす。
昨夜話し合った通り、やはりプレイヤーたちは積極的に解決するつもりはないらしい。
そこへロビーにいた、男性の傭兵らしき人物が声をかけてくる。
「それはまあ、俺たちだってなんとかしてやりたいとは思うけどさ。俺たちもみんなが同じ考えってわけでもないし、1人や2人がアンデッドの本拠地に向かったところでよ……」
傭兵の男性は悔しそうにそう言う。口ぶりからすると彼も保管庫持ち──プレイヤーのようだ。
どうやらプレイヤーのすべてがどうでもよいと考えているというわけではなさそうである。
この男性の言うとおり、それぞれで考えが違うのなら、足並みをそろえるのが難しいというのもうなずける。
この程度の傭兵がいくら集まったところで敬愛するボスに傷をつけられるとは思えない。
しかし仮にケリーたちと同レベルの者たちが集まっていたらどうだろうか。人数と連携などによっては、ダメージを通すことくらいはできる可能性がある。
それら多くのプレイヤーが集まってボスに敵対するとなれば、そのすべてがまったく同じ思惑というわけではないはずだ。
そのあたりをつついてやることで、敵を「大集団」から「多くの小集団」に変えてやることは可能かもしれない。
「それはそうかもね。ところであんたは?」
「あー。俺はその、ギルガメッシュっつーんだけど」
ずいぶんと歯切れの悪い自己紹介だ。
偽名だろうか。しかしプレイヤーがプレイヤー、と思われているであろうケリーに偽名を名乗る理由が思い当たらない。
「いや、言いたいことはわかるぜ。人違いだ。俺の方が先にキャラクリが終わったみたいで名前が取れたんだけどよ、今は向こうの方が有名になっちまってな。肩身が狭いのなんのって」
彼はケリーの言いたいことがわかっていないようだ。ケリーも彼の言いたいことがよくわからなかったのでお互い様だ。
しかし名前についてはかつてボスが被りがどうのと言っていた気がするので、もしかしたら彼らプレイヤーは別々の人物が同じ名前をつけるということができないのかも知れない。
ここでケリーが名乗るのは簡単だが、ケリーという名を持つプレイヤーがもし存在した場合は面倒な事になる。
だが彼の言い草からすれば、違ってさえいれば、非常に似通った名前であっても付けることができるのだろうことは想像がつく。
「あたしのことはケリーでいいよ。こっちはライリー、レミー、マリオン。みんな愛称だけど、それで呼ばれ慣れてるから」
そういうことにしておいた。
「普段から4人でプレイしてンのか?」
「そう……だね。これからこの、ライリーだけは用事があるから戻るけど」
宿の部屋で寝ている、ということにして、こっそり出かけさせればいい。
ライリーは隠密行動や周囲の観察などに向いたスキルなどを多く取得しているため、人目を忍んで行動することなど造作もない。敵の親玉の調査に当てるのもそれが理由だ。
「じゃあ3人か。よかったらだけどさ、今夜襲撃があったら、一緒に行動してみないか?
この街の防衛は初めてだろ?」
ウェインもそうなのだが、このプレイヤーとかいう者たちはなぜこのように親切にしたがるのだろうか。
これまでケリーたちに近づいてきた者たちは、みな奪うか殺すかが目的だった。そのためこの彼らのように一見善意に見える態度をとられても、目的がわからないため不信感しか抱けない。
だが腹に一物抱えているのはケリーたちも同じだ。
「それは助かるね。いろいろと、知っておきたいこともあるし」
ギルガメッシュとはいったんそこで別れた。
夜まではまだ長いし、街の住民たちの様子を見ておきたかったためだ。
それに敵が活動するのが夜ならば、ライリーが潜入するのは昼間の方がいいだろう。さすがにこの時間帯ではだれにも見つからないというわけにはいかないが、フード付きの外套などを着込んで出ていけばいい。かなり怪しいが、プレイヤーが多くいるおかげでかなり怪しい人物には事欠かない。そう特別に目立つということもないはずだ。
「じゃ、行ってくる」
ライリーを宿でこっそりと見送り、3人で再び街に出た。
商店街を見渡したところでは、それほど深刻な物不足という印象は受けない。
いべんとが開始されて確かまだ3日目だ。本格的に影響が出始めるというほどには至っていないのだろう。
「ポーションは……ちょっと値上がりしてるかな。これからも入荷がない状態が続くようなら、素材が用意できるならひと儲けできるかも」
「今夜の感触次第だけど、こっちが余裕そうならレミーは生産に回ってもらった方が効率がいいかもね。どのくらいこの街に留まることになるかはわからないけど、路銀も無限にあるわけじゃないし」
ポーションの主成分、その元になる薬草は、割とどこにでも自生している。昼間時間があるなら、街を出て採集してくればよいだろう。
値上がりしているということは素材か生産者かのどちらかが不足しているためだと思われる。つまり魔物を恐れて外に出ていかないか、街なかに生産者がそもそも少なかったかのどちらかだ。
だがどちらにしても、レミーならば稼げるはずだ。
おおよその方針を固め、夜を待ち、ギルガメッシュと合流した。
そして夜の帳が下り始める頃。
外壁の外に出て、戦闘の準備をする。
ケリーたち以外にも何人もの傭兵や街の衛兵たちがいる。見ただけではわからないが、このうちの何割かはプレイヤーなのだろう。
「さて、日が落ちる……落ちかけた時間帯くらいから、敵が湧き始める。そろそろだぜ」
「すまない。湧き始める、とは具体的にどういうことだい? 地面の下から出てくるのかい?」
「ああ、いや。あっちにちょっとした岩場と、あと木々なんかが密集した林みたいのがあるだろ? あのあたりから出てくるんだよ」
見れば確かに岩場のような、大きな石がごろごろしている場所と、その岩を避けるように生えている曲がりくねった木があった。それがいくつも重なりあい、林のようになっている。あの辺りが今回魔物が溢れ出している領域の入り口ということだろう。
「ほら。来たぜ」
ギルガメッシュの言う通り、林の中から数体のアンデッド、おそらくスケルトンナイトと思われる魔物が這い出し、街へ向かってくる。
しかし待ち構えていた傭兵たちによって、すぐに狩られ、死体となって辺りに散らばってしまう。
「……することがないんだけど」
「今のうちはな。効率ちゅ、やる気満々のプレイヤーたちが湧き狩りっつーか、まあすぐに倒しちまうから暇だけど、もっと暗くなってくりゃ倒すスピードより出てくる数の方が増えてくるからな。そうしたら忙しくなるぜ」
聞くところによれば、このやる気満々のプレイヤーたちはどうやら、昼間は別の街に行って狩りをしているらしい。一日に一度使える、転移サービスとかいうものを利用して、二人ひと組で往復して効率よく稼いでいるとのことだ。中にはソロで、往路は転移サービス、復路は死に戻りでやっている猛者もいるとか。
半分以上は何を言っているのか理解できなかったが、話された内容だけは覚えておいた。後でボスにそのまま伝えれば、ボスなら理解できるはずだ。
しばらく見学していると、次第に討ちもらしのアンデッドが抜けてくることが増え始め、ケリーたちにも出番がやってきた。
まずはレミーが弓などで牽制し、マリオンが魔法でなぎ払う。そのリキャストやMP回復を待つ間にケリーとギルガメッシュが接近して倒す。
おおよそそういうルーチンで狩りを進めていった。
敵が弱すぎるため、作業のように防衛は進む。
それはこのパーティだけでなく、よそのプレイヤーたちの戦闘でもおおむね同様だ。
確かに街の人がこれを見れば、そんなに余裕なら敵の本陣を攻めてくれよと言いたくなる気持ちもわかる。
「まあ、だいたいこんな感じだな。日によって多少の波はあるが、経験値ボーナスも含めりゃおいしいイベントだ。敵がアンデッドばっかりだからあんまり金にはならねーが」
ひと段落し、襲撃が落ち着いたところでギルガメッシュが口を開いた。
「なるほど。よくわかったよ」
総評としては、この街の衛兵もプレイヤーも、この街に攻め入る魔物も、大した脅威ではない。
ケリーたちのように特別に手を抜いていたとかそういうことでもない限り、アリやアダマンたちの軍を使えるなら数でまとめて圧殺できるだろう。
あとはライリーの報告次第だ。ボスの見解ではディアスたちのような存在は大陸中に散らばっている可能性があるため、この国付近にばかり団長クラスが眠っているとは考えづらいが、念のため首魁となっているアンデッドは確認しておく必要がある。
それが達成できれば、あとはこのプレイヤーたちに交じって適当に時間を潰しておけばいい。
「ただ……。この街の領主と、その眷属と思われる騎士なんかは出てこなかったね。何か考えがあるのか、町などどうでもよいと思ってるのか」
時おり混じっていた、他と動きや装備が違うアンデッドなどの攻撃で、街の衛兵らしきものは何名も死亡していたようだった。騎士などがもしいれば、その被害も減らせていたはずだ。
ライリーの調査が終わったなら、そのあたりも探ってもらう必要があるかもしれない。




