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私の中の消えない世界  作者: はりねずみ
8/20

通り道④

書きながら、中学生時代が懐かしくもあり、恨めしくもあり。

我が家は両親が共働きでした。

私は学校から家に帰ると洗濯ものを取り込み、アイロンを掛けたりなど家事のお手伝い。


いつものように帰宅し、洗濯ものを取り込んでリビングと続く和室でアイロンをしていた時でした。


私はふと、誰かに見られているような気がしたのです。

入居してから色々あり、慣れ始めてはいたのですが、やはりまだ中学生というのもあって気持ち悪くはありました。

極力気にしないようにアイロンをかけ、服を綺麗に伸ばす事に集中していたのですが…、


ふと、本当になにげなく、私の視線が押入れの上の天袋(上にある小さな引き戸)に向いたのです。


「あれ?」


細い隙間が空いていました。

誰か、何か物を出し入れした時にきちんと閉じ忘れたのかもしれないと思い、一度立ち上がってパタと閉じてからアイロン台へと戻ります。


何かで、隙間というのは通り道になるので余りよくないと聞いた事があり、私はそういった小さな隙間が気持ち悪い性分でした。

綺麗にアイロンも終えて台を畳んでいる時、また視線が天袋に向かいます。


そう、また開いているのです。


何かの悪戯だとしても、心霊現象だとしても、もういい加減にして欲しい。

そう思ってもう一度閉じに行きました。閉じたのを確認してから洗濯物をそれぞれの箪笥に仕舞いに、二階に上がろうとした時、私より先に二階に上がっていく足音が聞こえたのです。


トン、トン、トン、トン、トン、トン。


ゆっくりとした一定の拍子でのぼっていく足音。


「………。」


無理でしょう、この状態で二階にあがるのは…。

手に持った洗濯物を腕に抱えて途方に暮れる。

そして段々と背筋が寒くなって、背後に空間があることが恐ろしくなってきて、私は近くにあった柱に背をくっつけました。

家族はまだ帰る時間じゃありません。

少なくともあと2時間は、私はこの家にひとりきり。和室の窓を開くと犬はいるのですが、誰か、誰でもいいから、今ここで同じ空気を吸ってくれる人間に傍に居て貰いたい気持ちでいっぱいでした。


二階に上がった「誰か」は降りて来る気配はなく、足音もそれっきり鳴りませんでした。

のぼりきった場所で立っているのかと想像すると、二階にある自分の部屋に戻る事も出来ない状況。


そんな時、また天袋に視線が向いてしまったのです。


――開いていませんでした。


良かった…。

「はぁ…、ああ~~もういやや、はよ帰って来てよもう…。」

ぶつぶつ呟いて一瞬目を逸らし、また天袋を見た、その時。


「……………。(ああああああああああ、)」


声なんて出ませんでした。

心の中で、やってしまったというような感情が渦巻くだけ。


たったの一瞬だったのに、天袋の隙間が開いていて、そこから何か黒いものが覗いていたのです。


犬…犬…!


隙間から目が離せないまま窓に駆け寄って襖を開き、硝子戸を開けました。

犬小屋から犬が驚いて出てきて、傍に寄ってくれることに安堵し、やっと隙間から目を逸らして洗濯物ごと犬に張り付くように撫で回すことで正気を保とうと必死でした。


母親が帰宅するまで時間があったのですが、先に兄が帰ってきました。

兄と父は霊というものは信じないのですが物凄く怖がりです。

家族を突き飛ばしてでも逃げるほど怖がりです。


何も言わず、先に兄を二階に行かせて様子を見てから私も自分の部屋に上がりました。

何もいませんでした。

和室に戻って天袋を見ると、勝手に閉じていました。



――疲れる。


この家は一体、何人いるんでしょうか。

通り道なのでしょうか。

次は高校生になった私の話へと進みます。

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