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私の中の消えない世界  作者: はりねずみ
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誰の足?

こういった体験は本当に詳細に覚えているもので、人間の脳って厄介なものだなと。

まだ小学生低学年の頃。


何時もなら放課後はすぐに帰る私だったけど、その日は飼育小屋のうさぎとニワトリを眺めるのに夢中で少し遅くなってしまった。


と言っても、16時過ぎくらい。

当時、門限が17時だったので私にとっては遅いほうだ。


飼育小屋の前に居ると先生が通りかかって、早く帰りなさいと言う。

素直に頷くも、トイレに行きたくなって一度校舎に戻ったのだ。


夕方の校舎というものは静かで、廊下も普段よりずっと長く見えていた気がする。


一番近いトイレに入った。

左右に3つ、普通の和式トイレの個室。

それからドアのすぐ近くに少し広めの個室、入口はアコーディオン式のカーテン。障害者用だ。


いつもはカーテンが開いていて、洋式のトイレが見えるそこは、珍しく閉じていた。

カーテンの下には隙間がある。

本当に人が入っているのか気になって、身をかがめてそっと見てみた。


足が見えた。


いけないことをした気がして慌てて身を起こし、次に中の子が心配になって声を掛けた。

私には昔からこんなところがある。

一言で言えば、余計なお節介焼き。


「一人で大丈夫なん?」

「………。」


返事がない。

ますます心配になって、もう一度下を覗いた。

足首までしか見えない隙間だけど、確かに誰かいる。

ここを使うのは障害を持っている子、具合が悪い子、と教えられていたので、焦りはじめる。

自分もそうこうしている内に門限に間に合わなくなって怒られてしまう。


「先生呼んでくるから待っててな!」


私はトイレから廊下に出た。

運良く先生が少し離れた廊下を歩いている。


「先生ー!」


知らない男の先生だったが、すぐに来てくれた。


「低学年か?遅いから早く帰らんと暗くなるで?」


心配してくれるも、私はすぐそばのトイレを指差した。

女子便所だけど大丈夫かなと思いながら、中に反応のない子がいることを伝える。

先生は躊躇いなく中に入った。私も後に続いた。


アコーディオンカーテンはまだ閉じていた。


「返事ないねん、しんどかったらどうしようと思って先生呼んだ。見て、ちゃんと人いる。」


私は下の隙間を指差す。

先生も覗いて、足に気付いて声を掛けはじめた。


「大丈夫か?お腹痛い?おーい?」


何度声を掛けても返事がない。

もしかして意識がないのかもしれない。


「困ったな…、ちょっとカーテン開いて様子見てあげてくれる?」


え、なんで?と思ったけど、先生が男だから困っていることに気付いて納得する。

私はこっそり、カーテンを掴んだ。磁石で繋がった入口は思ったより硬くて、少し力を入れた。

カチッ、隙間が出来る。中の子が恥ずかしくないように、隙間をもう少しだけ広げて覗いた。


「大丈………夫…………?」


パタン。


すぐ閉じた。

先生が不思議そうに聞いてくる。


「どうした?倒れたりしてへん?」


急に背筋がゾッとした。

そばにいる先生の腕に駆け寄ってしがみつく。驚いた先生が顔を覗き込んでくる。その仕草と、先生と目が合うことでほんの少しだけホッとした。


何も言わなくなった私に、先生が代わりにカーテンに手を伸ばす。


「開けるで?しんどかったら保健室行こうか?」


中に声をかけながら、先生はカーテンを開いた。

トイレは静かで、ぽっかり開いた全てのドアが何だか異様で、陽も傾きかけていたからか薄暗くなっていた。


「…………。」

「…………。」


二人とも黙り込む。


足があったのに、二人とも確認したのに、


誰もいないのだから。

私はこの日から学校のトイレが大嫌いになりました。

休憩時間に混雑するくらいじゃないと入れないくらいでした。


この後、先生もショックを受けたようで「暗いから見間違えたんかもしれん。もう遅いからはよ帰り、門まで送っていくから。」と、言ってくれました。


そしてもっと不思議なのが、私、その先生にその後一度も会った事がないのです。

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