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私の中の消えない世界  作者: はりねずみ
16/20

染み

やっと、この家から解放されると気がやってきた…。

私が大阪から三重に戻って来てから1年半くらいして、我が家は再び引っ越す事になりました。

何時もの通り親の都合だったのですが、私はこの家から離れたかったので願っても無いことでした。


大型店舗のオープニングスタッフでしたが、1年半の間に車で事故を起こしたり、目の前を走っていた車が一本道で消えてしまったり、家の中での足音や物音は酷くなる一方だったので、引っ越しは本当に嬉しかったのです。


引っ越しの準備は手慣れたもので、ダンボールに詰める作業もあっという間でした。

引っ越しの数日前、忘れ物はないか家中の天袋やあちらこちら見回って点検していた時のことです。


「…あれ?あんなんあったっけ?」


私はふと、天井を見上げたときに黒っぽい染みに気付きました。

母がやってきます。


「どないしたん?」

「お母さん、あんな染みあった?」


母も天井を見上げ、初めて気付いたように首を捻っています。

この部屋で寝た事もある母なので、天井はいつも見上げていたと思うのですが…。


「いや?あんなんなかったわ。嫌やな、まさか雨漏りちゃうやろね。」

「うーん…。湿ってる様子もないけどな。」

「まあええか。」

「せやな。」


気にしないでおこう、と思ってその日はそれで終わりました。

次の日、寝る前に気になってまた天井を見に行ったのです。

すると…、


「……んん?」


こんな形だったっけ?

何だかその染みは、昨日よりも少し広がっているような気がしました。

いやいや、あと少しでもうこの家ともさよならだから、何も気にしないでおこう…。

そう思って部屋に入り、ベッドに潜ってからしばらくして、トン、トン、と音。


トン、トントン。


階段をのぼってくる足音…でもない、ドアのノック音とも少し違う。

初めて聞くような音でした。

どこから聞こえているのかもよくわからなくて、気持ち悪くなってササッと眠ってしまいました。


引っ越しの日が近づいて来る嬉しさと同時に、私は毎日天井の染みを見上げる悪い癖がつきました。

毎日、毎日、染みは少しずつあきらかに広がっていて、しかもそれは一か所ではなく天井のあちらこちらに見られるようになったのです。


その正体が明らかになったのは、引っ越しの前日の事でした。



「お母さん、ちょっと来て…二階の染み、」

「まだ気にしてたん?」

「ええから早く。」


母を連れて二人で二階に上がり、並んで見上げた先には――。




「……うわっ、え?いやや…いやや何これ??」

「あっちも、あの端っこも。」

「え?ちょっとやめてよ気持ち悪っ!!」

「何に見える…?」

「何って…見たらわかるやんもう、これ手形やろ!?」


……そう、天井には6つほどの大きな手形が浮き出ていたのです。

くっきりと。


「そんでな、ちょっと。見て?」


私は椅子を持って来てその上にのぼり、天井に手を伸ばしました。


手形に、ひたりと掌をあてがってみると、あきらかに人間のサイズを超えているんです。

私の手より一回り大きいのが男性の手としても、それ以上に指も長く、掌も広く、異様なくらいに大きい染み。


よく大工さんが、完成の時に天井裏とかに自分の手形をつけたり、という話は聞いた事があったのですが、これは浮き出てきたもので、しかもランダムな方向に6つ。

この手形を見つけてから、トン、トン、という音が頻繁に聞こえるようになったのは関係があったのでしょうか?


私から見ると、鬼の手、のようにしか見えませんでした。

勿論鬼なんて見た事はありません。例えば絵本の中、小説の挿絵、そんなものしか知らないのですが…。



そのあと何事もなく引っ越しは終わり、私たち一家はそこを後にしました。

次にその家を買ったのは、歩くのも不自由なお婆さんと、その息子さんです。

何もなければいい…祈るような気持ちで、私たちは奈良へと。

引っ越した先は三重寄りで、車で40分もあれば来れる場所でした。

私はどうしても気になって、一年に一度はその家の前を車で通りかかったりしていました。

でも、2年後くらいにはもう、表札はまた別の物に代わっていました…。

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