表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の中の消えない世界  作者: はりねずみ
1/20

白く光る自転車

 思えばこれが一番可愛らしい幽霊でした。

 それは私がまだ小学生の頃の話。

 

 蒸し暑い夏だった。

 町内会の祭り兼カラオケ大会という、小さな小さな催し物は、酒が飲みたい大人にとっては楽しいイベントだったのだろう。結構な人が集まっていた。

 特に興味もなかったが、当時は夜に出歩くというだけでどこか少しワクワクした気持ちになり、大人になったような感覚に陥ったものだ。昭和だもの。


 母親は人混みが苦手なので、私は父親に連れられて兄と3人で会場に向かった。

 同じような公営団地が何棟も並んでいて、確か二丁目の集会場付近の広場で行われていた気がする。私の住む一丁目からは歩いて10分もかからない場所。

 祭りには無事辿り着いたが、規模が小さすぎて知り合いと父親が喋っている横で周りをキョロキョロするだけで終わった。つまらないものである。


 蒸し暑いので帰りは行く時のワクワク感なんてなくて、早く帰りたい、それだけだった。

 

 一戸建ての家に挟まれた道を歩いていると、正面から自転車が走って来た。

 眩しい。ライトが上向いているのか自転車自体が白く光って見えた。


「あの自転車まぶしいな。」


 父親と兄に声をかけながら歩く。でも二人から返事はなかった。

 自転車は段々光を失ってきた。近くになると、もっと眩しくなるだろうと思っていたのに、何だか暗かった。擦れ違った時にひんやりしたのを覚えている。


「何か変ちゃう?」


 子供だったから、素直に口に出しながら振り返った。

 自転車はまた白く光っていた。遠ざかって行っている筈なのに、なかなか小さくならない。

 私は前を向いて、何も言わない父親と兄を見上げる。


「聞いてんの?あれ見て、あの自転車変ちゃう?」


 暑さでだらけていた二人がやっと私の言う通りに後ろを向いた。私も振り返った。

 


 ―――何もいなかった。



「何もおらんやん、自転車なんか通ったか?」

「知らん。」


「……擦れ違ったやん。」


 歩いて来た道は一直線で横道もないし、大通りに出たにしては早すぎるのに、居ない。

 あんなに正面から眩しかったのに、私たちの隣を通り過ぎたのに、二人共知らないと言う。


 でも後から思った。

 あの自転車には、音が無かった。

 乗ってる人の顔も見えなかった。傍を通る時だけ暗かったからだ。


 これが初めて不思議なものを見てしまった時の記憶だ。


 読んで下さってありがとうございます。

 今思うと何故、夜道で自転車自体が光っている事を不思議に思わなかったのか。

 近付いて来るまで気にかけていたのに何故、乗っている人の顔を見ようともしなかったのか。

 

 不思議なものです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ