葬送
真っ裸にその辺から回収したシーツを体に巻いて会話してた状態だったんで、美形さんが硬直してる間に服を着たけど復活しないのでそのまま放置。
美形さんとラブコメする前に、犠牲者の遺体回収が先なのですよ。
街の規模からして、被害人口の3分の1くらいは、美形さん見つける前に回収したけど、残りはまだ未回収。
あと3日ほど放置で瘴気溜まってアンデッドモンスターになってしまうので、美形さん放置はともかく遺体は無視できない。
神官が来て浄化してくれるのが1番だけど、周辺地域まで被害にあってると、この街までくるのに最低で半月かかる。
つまり、神官がいて被害がない安全地域まで半月。
ドラゴン遭遇リスク考えると、わたしが略式葬儀をしたほうが安全である。
······わたしただの村娘Aなのにーー。
死亡日から四日は経っていて、遺体はひどい有り様だから防虫防疫のため、頭巾と布マスクと手袋装備して遺体捜索と回収。
捜索はかなり簡単にできた。目印に腐敗臭と虫があるから。
黙々と瓦礫どけながら回収していきますよー。
うっかり口開けたら虫と臭いのダブルピンチだから!
遺体(一部)、遺体(焦げ)、遺体(潰)、······といった具合に回収していたら、復活したおにいさんが参戦。
と思ったら、素手素顔!
ストーーーーップ!!
無言のまま身振り手振りで全力拒否するわたしに、おにいさんは目を瞬かせていたが、わたしの格好(重装備)に気付いて一旦引っ込み、どこかでマスク、頭巾、手袋がわりの布を調達したのか、わたしと同じように装備してきた。
······おにいさん、淫魔だけど昨日は瀕死だったよね?
やめたほうがいんじゃないかなー、寝てたほうがいんじゃないかなー。と、チラチラ見てたら出てる目もとだけでにっこり笑って拒絶された。
そして今度は、おにいさんがわたしを無視して遺体を運んでいくという。
本人やりたいならいいけどさー······。
日暮れには、回収できるだけの遺体を回収して、夜になる前に略式葬儀をする。
比較的無事な布や、藁を織った簡単な敷物に何体もの遺体を並べて、回りに蝋燭立てて、聖水ふりまいて、お祈りするだけだけど。
ぽう、とたくさんの遺体から無数のひかりが出でて、黄昏時のそらへと昇っていく。
浄化の際のその幻想的な光景に、街のある一角から回収した遺体達の前で、呆然としていたおにいさんがポツリと呟いた。
「君は······、······神官なのか?」
「違います。ただの村娘Aです」
魔女とも聖女とも呼ばれた、現在ただの村娘Aです。
微妙な顔されてもそれ以上でも以下でもありませんから!
「休憩用といって短時間で小屋を作りあげて、半日で瓦礫に埋もれた千単位の遺体を回収して、かつ、葬送だと言って、神官しか教わらない儀式ができるただの村娘がいるか」
「え、神官しか出来ないって、そんなの世界の知識になk、ゲホンゲホッ」
うっかり要らん事を言いそうになって、慌てて誤魔化したら不審な目で見られた。
「世界の知識?」
「······宗教関係の本だと」
「村娘に読める、儀式に使う術まで詳しく載った宗教の本とかあるのか?」
ある。けど世界の知識によるとその宗教の上位にだけ閲覧許可が出る本だった。
アンデッド化防止には、軽い浄化で済むってことだけ知ってたんだもん。軽い浄化のやり方を知る人が神官だけということまで知らなかった。
おにいさんは、追及してるという感じではなく、純粋に不思議に思って聞いてるのが雰囲気でわかった。
「コネがあって」
「そんなコネのある娘をただの村娘と言わん」
ごもっともです。しかも、世界から直接得られる知識というとんでもないコネです。だけど村娘Aなんです。
「······今はただの村娘Aだもん」
口を尖らせて言うと、おにいさんは一瞬またたいて、なんとなく察した風で苦笑した。
「······わかった」
······嘘だと思われてる!?
「ほ、本当だからね? 本当にただの村娘Aだからね!」
「わかった、わかったから」
口元に手を当てて笑いを堪えてるおにいさんは、絶対にわかって無いと思う!
「信じてないでしょっ!?」
「信じてる、信じてるから泣くな」
ちょっと涙目になったあたしからの抗議は、温い目をしたおにいさんに、あたしの頭を子どもをあやすように撫でながら軽く流された。
「俺自身が淫魔という妙なモンだからな。妙なコネ持つ村娘がいても不思議じゃないだろ」
「······それ、両方『ただの』が抜けてない?」
上目遣いで言ったあたしの突っ込みに、おにいさんは今度こそ声に出して笑いだした。
あたしは、ただの、村娘、Aなんですっ!!