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60 これから


ムーロ王国、ドクトリーナ王国対ディレク王国の戦いはディレク王国の圧勝で終わりを告げた。神託によってムーロ王国第二王子シムティの殺害の疑いも晴れ、戦後交渉はディレク王国に有利に進んでいるそうだ。


スティグマタ国などではあの時空に現れた『神託』に影響を受けて、新たな『神託』がないかと祈り続ける日々らしい。他の国にも大なり小なり影響を与えたそうだ。


あんなことができるとは知らなかった、もし戦争前に知っていたらいくらか犠牲は減らせただろうか。……考えても仕方がないか。パルスの悪行を暴いたプリムには感謝している、俺ではああいった大胆な発想は出てこなかっただろう。


パルスはあれ以来、牢に繋がれたままでいる。今まで隠されていた悪行がさらされてその一つ、一つに対して審議を受けている最中だ。衛星や隠して配備されている魔道具からその詳細を見ることができる。


「うるさい、うるさい、あんなものは全てでたらめだ。僕をはめようとする罠だ!!僕は兄さんになんて負けていない!!ああ、神さま。僕の神さま、どうか助けを。僕に新たな神託を――!!」


逃げられないように失くした片腕や切られた両手両足の腱はそのままにされている。魔法も使えないように特製の魔道具がはめられているそうだ。


国内にはまだパルスの支持者も多く、ムーロ王家はその洗脳を解く為にパルスの悪事を一つずつ公開し続けている。


「リープ、今後は『神託』の使用を全人工知能に禁ずる。……もしかしたらパルスもそれでおかしくなったのかもしれない」

「……かしこまりました、マスター達以外の『神託』を禁止致します」


俺の命令にリープは素直に返事をした。だが、それに納得がゆかないプリムが怒った。


「レイ、それは間違いじゃ!!あの隠れブラコンは『神託』などなくても絶対に何か事を起こしたぞえ!!『神託』がどーの、こーのという以前の問題なのじゃ!!」

「……確かにあの性格の悪さは生来のものがあったな。あー、うん。それじゃ、どうしようか?」


結局、今までどおり各人工知能の神託は続けられることになった。ただし、パルスに関わっていたものだけは回収し、記録を残したうえで廃棄された。今後の神託に悪影響がないか、詳細を調べていくそうだ。


「とにかく大変だったね、まぁ甘いものでも食べて元気を出しなよ」

「おお、シオンありがとう」

「うむ、シオンは頼りになるのう」


うん、シオンは頼りになる仲間だ。あの戦争時も龍の姿のまま空にあった雲の中でハラハラしながら俺たちを見ていてくれた、そして決着が着くと同時に下りてきて俺たちを回収してくれたのだ。おかげでパルスと戦った者の正体は分からずじまいで済んでいる。


そして、そのまま俺たち三人は月基地に避難していた。その理由は下の惑星では勇者パルスを倒したのは誰だ、あの黄金の龍はなんだったんだ、そう余計な話題が飛び交っているからだ。


各国にしてみればその者の力を取り込みたい、是非我が国に来て欲しいということになっている。


「でも良かったね、あの闘いを近くで見ていたのはほんの数人だから、レイが勇者を倒したって表向きは認められずに済んだね」

「パルスの奴は意地でも認めないらしいし、戦闘時のこともうわごとだって言ってるからな」

「ねじけたブラコンにしては珍しく良いことをしているのじゃ」


俺たちはシオンにすすめられたケーキを食べながら、のんびりとムーロ王国やその他の国の動きを見ている。


パルスに対する拷問の数々は正直おやつ時には見たくない、俺はディレク王国の市場に映像をきりかえた。


戦争を恐れて去った人々も戻ってきて、前のような活気ある国になりつつある。今回の戦争での勝利でもっと活気がある国になるかもしれない、今から次に行く時が楽しみだ。


「それじゃ、二人ともまたあの惑星に行くんだね」

「ああ、もちろん。まだ見ていない国もあるし、他の大陸にも行ってみたい」

「ひねくれブラコンも片付いたからの、今度こそのんびり観光をするのじゃ」


「僕もいつかその旅に参加しようかな」

「シオンならいつでも大歓迎だ」

「うむ、遠慮なく来るがよいぞ」


それから数カ月後に俺たちはディレク王国の草原に立っていた。戦争もどうやら落ち着いたようだし、また旅を再開しようとリープに転移して貰ったのだ。


プリムはしっぽを振りながら楽しそうに俺に言う。


「これからどうするんだ、人間(・・)

「そうだな、とりあえずは横にいる相棒の頭を撫でまわすことにする」


「ふあははははっ、くすぐったいのだ。レイ、ふはぁははは」

「さて、プリムはこれからどうしたい?」


「我はレイと一緒ならどこでも楽しいのじゃ」

「そうか、それならゆっくりとあちこち見てまわろうか」


昔ここで俺は狼少女を一人拾った、その子は一生懸命で素直な良い子だった。今も腰を掴まれてぐいぐい頭を押し付けられているから、ついその大切な子の頭を撫でまわしてしまう。


「これからもずうっと一緒にいるのだ、レイ!!」

「それは毎日が楽しそうだな」


「当然なのじゃ、我と二人でいれば無敵なのじゃ」

「はいはい、分かったよ。そろそろ、腰から手を放して欲しいな」


「では、次はどこへ行くのかえ?」

「俺もプリムがいるならどこでもいいのさ」


とりあえず俺たちはディレク王国の街を目指して歩いていった、街について昼飯でも食べながら今後のことを話し合うのも面白い。


プリムは嬉しそうに耳としっぽを揺らしている、俺もついついその可愛らしい様子に笑みがこぼれる。


そうして俺たちは二人で仲良く草原の中をゆっくりと歩いていった。

これにて第一部は終わりです、第二部はお休みの時間を貰ってまた書いていきたいと思います。

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