59 決着
「僕がムーロ王国の王位を狙ってる?ああ、兄さんは何て怖いことを言うんだろう」
「違うのか?」
あっさりとムーロ王国の第二王子を暗殺した件といい、王族への軽々しい発言といい、俺にはパルスが王国の王位を狙っているようにしか見えない。
「偶々、僕以外に王位を継げる人間がいなくなってさ。そこに華々しい活躍をした勇者さまがいたら皆はどうするだろう、これはそんな実験なんだよ。……きっと僕の思いどおりになると思うけどね」
ムーロ王国側からはパルスが俺の攻撃を打ち払う、もしくは避けてみせる度に歓声があがる。こいつはそんな無垢な国民を騙して恐ろしいことに巻き込もうとしている。
「野心があるのはいいが、お前のはやり過ぎだ」
「そう?僕は魔王を倒して勇者になった。だったら王様になるのも不可能じゃないと思うよ。実際に僕の王位継承権はどんどん上に上がっているんだ」
パルスはムーロ王国内部でも勇者の名を隠れて暗躍しているようだ。こいつは本気で王位が手に入ると思っている。
「さぁて、勇者としての戦いも充分皆に観戦して貰ったし、そろそろ死んでくれるかな兄さん?」
「本気でやる気になったか、このペテン師め」
俺たちは話をしながら魔法と剣での打ち合いも続いている、剣は俺のほうが有利だ。逃げまわるパルスは強くなっていたが俺を凌駕するほどではなかった、冷静に剣を受け相手の隙を狙う。
「兄さんがいなくなったら、僕があの生意気で良い声で鳴きそうな狼女を拾ってあげるよ。大丈夫、女には優しくするからさ!!」
「パルス!!」
プリムのことをけなされた瞬間、カッとなった俺は縮地と空間跳躍を活かしてパルスの懐に入りこみ剣を打ち下ろした。そのまま連撃でパルスを追い詰めていく。
「な、なにを兄さん怒ってるのさ。ああ、あの女の――!?」
「――――――!?」
パルスがまた何か言いかけた瞬間、その隙を逃さずその右腕を切り落とした!!対してパルスは攻撃を受け流せず、まともに受けてその場に膝をついた。
「ぼ、僕の右腕が!?――――ガッ!!」
「…………誰であろうともう二度とプリムを傷つけることは許さん!!」
パルスが腕を失って衝撃を受けている間に、俺は奴を蹴り飛ばしてその体を地面へと激しく打ち付けた。パルスはとっさに氷の盾で反射的に防御しようとしたようだが、俺の魔法の火炎の勢いに瞬く間に氷は蒸発してしまった。
「止めて、兄さん。いきなりどうしたの、僕は貴方の弟なんだよ。ぎゃあああ!!」
「何度も俺を殺しかけたくせに今更どの口が言う」
その無くなった腕の傷口を焼き他の四肢の腱も焼き切った、戦場に肉を焼く嫌な匂いがわずかに流れパルスが悲鳴をあげた。
「痛い、痛い、痛い!!どうして僕が、僕は超越者になったのにぃ!!」
「お前は何も越えていない、勇者でもない。ただの卑怯者だ」
痛みは魔法の集中を妨げる、パルスは四肢を焼かれたことで魔法での攻撃すらできなくなったようだ。氷での攻撃が止み、俺はパルスに止めをさすべく剣をゆっくりと構えなおした。
「さよならだ、パルス」
「待ってよ、兄さん。僕は兄さんの弟だよ、たった一人の兄弟だ!!考え直して、そうだ。兄さんになら宰相でも、騎士団長でも好きな位をあげるから!!」
パルスが悪あがきをしはじめた時、ムーロ王国側から数名の兵士がこちらにやってきた。彼らは武器を持っておらず、パルスの身に覆いかぶさってその身を投げだした。
「お願いします、どうか勇者さまをお助けください」
「パルス様は偉大なお方です」
「お命だけはどうか、お願いでございます」
「…………お前たち、危ないぞ。下がれ、僕は勇者だ。この身を案じることはない。実の兄が弟を殺すなどということがあるものか」
一瞬だけパルスが醜悪な顔をしたのが分かった、その後は弱弱しく敗れても尚命だけは繋ぎとめようと演技をしていた。
ここでこいつを放置したら、また回復して害悪をまき散らすだろう。俺は剣をパルスの心臓に向けて構えなおしたが、パルスの狂信者たちがその場から動かない。
「我はもう我慢ならん、リープよ。神託じゃ、こやつの悪行を皆に知らしめよ!!」
「プリム!?」
計算高い姑息なパルスの行動にぶち切れたのはプリムだった、彼女の命令と共に空をスクリーンにしてパルスの隠された悪行が次々と映し出された。
俺はまさかこんなことが出来るなんて知らなかった、広大な空に鮮明な映像が広がって音声が耳元に神託として流れていく。
そこに流れたのはこの星の周囲をまわっている衛星や国の監視にあたっている魔道具からのまとめられた過去の記録だった。
セメンテリオ魔国の王女と共謀しての王の暗殺
その後の戦争中の邪魔者たちを屠っていたこと
勇者という光の裏側で、消されていった者たち
ムーロ王国第二王子シムティに対する暗殺命令
「嘘だ、嘘だ、嘘さ、神が僕を裏切るはずがない!!こんなものはでたらめだ!!」
パルスはそう必死に訴えたが、あまりの映像の鮮明さにこの場にいた者でその言葉を信じる者は少なかった。
両軍共に広大な空に広がる『神託』を前にして争うことを止めていた。そして、次の瞬間には金色の風が地を走って俺とプリムはその場から姿を消した。




