58 攻防
数時間、そうして魔力の回復に努めているとハンスが前線から帰ってきた。
「あっ、ハンス。戦線はどんな具合だ、もう一度俺が前線に出ようか?」
「ばぁ~か、その必要はねぇぜ。……なにせもう敵さんがいないからな」
「はぁ!?」
「坊主の最初の一撃で相手の半分以上の兵が焼死した、あとは追撃をするだけで終わったよ。こんなに早く戦争が終わったのは初めてかもしれねぇな」
「そ、そうか、怪我人とかはいないのか。得意じゃないが回復魔法も使えるぞ」
「大丈夫だ、坊主はそこで休んでな」
俺はそこで意識を月の基地にいるリープに繋いでみた、リープはすぐに俺が知りたかったプリムの映像を送ってくれた。俺と同じようにフードを深く被り、正体がわからないようにしているがあれはプリムだ。
どうやら向こうでもプリムが同じようなことをしていた、大規模な雷が何度もムーロ王国の兵隊を襲って壊滅寸前まで追い込んでいる。ふとあの小さくて大事な狼少女のことを想って微笑んだ。
「やりすぎだよ、プリムの馬鹿め」
しかし、その時プリムの魔法に拮抗するように氷の盾が複数現れた。嫌な予感がした俺は迷わずに瞬間移動でプリムのところに移動した。
「おや、レイ。そちらは片付いたのかえ?」
「ああ、こっちに手がいるかと思ってやってきた」
それからは火炎が得意な俺が火球で氷の盾を破壊し、プリムがその隙にいくつも大きな雷を落として敵を焼いていった。
「プリムが無事で良かった。よくやったぞ」
「レイこそ無事で安心したのじゃ、助けに来てくれて嬉しかったのじゃ」
「……へぇ、兄さん。生きていたんだ」
俺たちが戦場での再会を喜んでいると無粋な声がかかった、俺たちがよく知っているむしろ関わりたくない奴の声だ。飛翔の魔法で飛んできたのだろう、そこには弟のパルスが一人でニヤニヤと笑いながら立っていた。
「それも僕の邪魔をしてくれるなんて酷い兄さんだね。そっちの獣人は兄さんの女だったっけ、仲が良さそうで吐き気がするよ」
「……パルス」
「このひねくれたプラコンめが!!」
ムーロ王国とディレク王国の戦場で俺とパルスは対峙していた、今ならパルスの暴挙を止めるのに何も障害になるものがない。パルスはムーロ王国側、俺はディレク王国の兵士だ。両軍が相対するちょうど中間地点で俺とパルスは戦闘態勢に入った。プリムには待機していてもらう、これは俺とパルスの戦いだ。
「はっははは!!これでやっと兄さんを殺せるんだ!!」
「そう簡単にいくか、試してみろよ!!」
お互いに剣で何度か打ち合った、剣は同じアダマンタイトの業物だ。そして攻撃するパルスのレベルは以前より確実に上がっていた、超越者の域には入っている。金属のぶつかる激しい音がして、俺は油断せず攻撃を受け流した。
「僕が勇者さまで兄さんはその辺のただの人間さ、無力を嘆いて死んでいくといい」
「俺はただの人間でいい、だがこれ以上お前の暴虐は見過ごせない!!」
何本もの氷の槍が俺を狙って飛んでくる、俺は火球をいくつも生み出して迎撃した。魔力はほぼ互角になるのか、氷の盾を生み出した魔法から判断して超越者なのはやはり確実だ。
相手の力量が正確に分からない今。ドクトリーナ王国で疲労した分と瞬間移動で消耗した分が痛い。パルスの攻撃のうち氷の破片が俺の頬をかすっていき、頬から一筋の血が流れた。
「ほらね、超越者といっても兄さんは僕には敵わないんだ」
「それは最後まで戦ってみなければ分からないだろう」
魔法でパルスの得意な属性はおそらく水と闇のようだ、何十本もの氷の槍が俺の視界を埋め尽くす。俺も炎の槍を生み出して迎撃する。
「ほらっ、ほらっ、兄さんの大事な女にも当てちゃうよ」
「……プリムはお前が思うほど弱くない」
氷撃の流れ弾がプリムの方にも幾つか向かうが、プリムはそれを避けるか氷を水に戻して勢いを殺しているようだ。あの子は成長した、共に戦える心強い仲間だ。
「はあああぁぁぁ!!」
「あははは、そう言えば兄さんも一応は騎士だったっけ?危ない、危ない」
魔法での攻防とは別に剣での戦いが同時に行われている、パルスは逃げるばかりでこちらの攻撃をまともに受けようとしない。傍からみていれば俺が独り空回りしているようにも見えるだろう。
「怖いなぁ、でも皆にも強敵と戦う勇者さまを目に焼きつけとかないとね」
「勇者さまの舞台ってやつか、お前は戦争を何だと思ってるんだ!?」
相変わらず剣をまともに受けようとせずに、パルスはこちらにしか見えない暗い笑みで答える。
「そりゃもちろん僕の人生の輝かしい歴史の一つさ、遠国なら笑顔で対応していてもいいけれど隣国にはそうはいかない。一つ、一つ身内の犠牲を払ってでもとりこんでいかなきゃね」
「……随分と重い犠牲だったようだが」
暗にムーロ王国の第二王子の暗殺をほのめかしながら笑ってパルスは答えた。遠めに見れば勇者さまが余裕をもって、敵側の正体不明の魔法使いと戦っているように見えるのだろう。
「やだなぁ、兄さん。貴方にだけちょっと打ち明けるとムーロ王国の王族も僕には要らないんだよ。僕の妻の一人にムーロ王国の王女がいる、だからそんなに重い犠牲じゃなかったんだ」
パルスはまるで内緒話をするかのように戦いながら俺に話かける、その表情は微笑んだままで恐ろしいことを当たり前のように話し続ける。
「……パルス、お前。もしかしてムーロ王国の王位を狙っているのか?」
俺の言った言葉にパルスの口唇がニヤリと形を変えた。
違和感があったとご指摘があった部分に加筆してみました。




