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57 戦争


「レイさま、プリムさまにご報告します。レイさまの弟パルスがディレク王国に留学中のムーロ王国第二王子シムティを暗殺しました」

「なに!?」

「なんじゃと!?」


朝食の最中にリープから『神託』が入った、俺とプリムはその内容にそれぞれ驚きの声をあげた。


弟のパルスとは先日向こうから送ってきた暗殺者を利用して俺の偽装死を演出した。それでしばらくは関わるつもりはなかったのに、あの弟はまたとんでもないことをしてくれた。


「これによってディレク王国とムーロ王国の関係悪化、戦争の可能性が高くなりました。充分に警戒してください。またムーロ王国とドクトリーナ王国とは同盟の気配が見られます。何かご質問はございますか?」

「……今からその戦争を防ぐことはできるのか?」

「我らにできることがあればしたいのじゃ」


「今、現在の状況では難しいと思われます。第二王子暗殺の実行犯はすでにパルスの手の者によって始末されています。映像記録では証拠はいくらでもございますが、それをそちらの世界の者に信じさせることが難しいです」

「そうか、とにかくその映像を証拠として保存しておいてくれ」

「戦争になるのかのう、つくづくあの弟は碌なことをしないやつじゃ」


幸い俺たちはディレク王国にわりと近いのロンボス王国にいた、パルスの暴走を止める為にはまずフォルクス王国に渡ってからディレク王国に行く必要がある。


移動中の駅馬車の中で俺はプリムにディレク王国とムーロ王国との軋轢について話しておいた。


「ディレク王国とムーロ王国は仲があまりよくない、隣国だからその国境線を巡って過去に何度か戦争を起しているからだ。それに奴隷制度の有り無しについても意見が合わなくて何度かもめている」

「つまり、今度の件で戦争に発展する可能性は充分にあるのじゃな」


「そうだ、最近は落ち着いていたところだが長年の恨みつらみはそう簡単に消えないからな」

「むう、それは分からんこともない」


フォルクス王国の端からは徒歩で国境線を越えた、いつもよりも国境を越えるのに時間がかかった。また入国する者は少ないのに出ていく者が多かった。ディレク王国の街を目指して俺たちは歩いていった。


「戦争となれば、銅級の俺たちじゃ冒険者としては相手にされない。だから一時的に傭兵になってディレク王国の方に力を貸したいと思う」

「うむ、傭兵か。我とは性別が違うゆえ、違う部隊に配属されるかもしれないがそれも仕方がないのう」


「プリム、俺はディレク王国の奴隷制度を認めないその考えが好きだ。そして、あのパルスの思惑をぶっ壊してやりたい」

「そうか、もしディレク王国が戦争に負けたら、ムーロ王国とひょっとしたらドクトリーナ王国に吸収されてしまうかもしれんのじゃな。我も奴隷制度のある国はすかん、ディレク王国の助けになりたい」


そうしてやってきたディレク王国の都だったが、まずは冒険者ギルドにも顔を出してみた。すると以前にもめたおっさん、金級の冒険者であるハンスと出会った。


「お前たち、しばらくみかけなかったが国を出たんじゃないのか?」

「一度出て帰って来たんだ、今後の戦争が起きるんなら傭兵として参加するつもりさ」

「我もじゃ、奴隷制度などないこの国が気にいっておるのじゃ」


「……戦争ならもう起こる寸前だ、お前ら俺たちの遊撃隊に入るか。仲間は冒険者ばかりで、ある程度は自由に動いていいと言われている」

「それは助かる、伊達に金級の冒険者じゃないんだな」

「我からも礼を言う、傭兵よりも自由に動けそうで良いのじゃ」


ディレク王国はムーロ王国とドクトリーナ王国に挟まれている国だ。おそらく軍は同時に攻め寄せてくるに違いない。


「俺がドクトリーナ王国の方に行く」

「それでは我がムーロ王国の方じゃな」


それから一カ月ほどしてに戦線布告がなされ、国民全体が戦争に備えることになった。やはりムーロ王国とドクトリーナ王国の両国が同盟を組み、同時にディレク王国に攻めてくることになった。


俺とプリムは二手に別れて参戦することにした。もうプリムは俺に依存はしていない、一人でも充分に戦える女性だ。俺もプリムを信じて別れて行動することができる。


俺たち冒険者の遊撃隊も基本的には傭兵と同じ扱いだ。給料が払われるし、状況が悪くなったら逃げるのも自由である。


「何かあったらプリムは自分の身を守ることだけ考えてくれ」

「レイもじゃ、他の者よりも我にとってはレイの方が大事ぞ」


俺はプリムと約束した、この国を救いたい気持ちは同じだが決して無理はしないと二人で誓いあった。


そして、戦争が始まった。まずはドクトリーナ王国側から二千ほどの軍勢が押し寄せてきたのだ。俺はフードを深く被って顔を隠し、前線へ出ていこうとする。


「おい、坊主。一体何をするつもりだ!?」

「はっ、簡単だ、あいつらは俺を殺そうとしている、だから俺もあいつらを殺しに行くのさ。遊撃隊は攻め込める時は攻め込んでいいんだろ」


「今、攻めるなんて正気か。おい、戻るんだ」

「平気、平気、むしろ最初に大きく叩いた方が相手の損害も大きいって」


俺は制止するハンスのことを振り払って、二千の兵が襲ってくるその最前線へ飛翔の魔法で前に出た。当然、弓や魔法が飛んでくるが俺の五重に張った結界はそんなものでは破れない。


「殺す気でくるのなら、こちらも殺す。皆、灰になって燃え尽きるといい」


俺は数百の火の球を自分を中心に宙に浮かべる、そしてその火球を敵の軍勢めがけて解き放った。最初の一撃目は威嚇として数十m前に、それでも怯まない敵には直接攻撃を加えていく。


凄まじい轟音が大地を揺らして響き渡る、数百の火球は狙いをはずすことなく敵の軍勢のほとんどを焼き尽した。いくつか相手からも魔法が飛んできたが、俺の結界はそれらをなんなくはじいた。


俺は成果を確認すると、一旦ハンスのいる遊撃隊に戻った。


「…………坊主、お前。…………本当に、人間か?」

「人間だよ、だから奴隷制度にも腹を立てている。……俺は魔力の使い過ぎで疲れたから少し休むぞ、幸い敵は大混乱を起している。今が手柄のたてどきだぜ」


俺はそう言うと意識を半分だけおとして魔力の回復に努める、さすがに二千の兵は多かった。久しぶりに扱う大魔法だったのも魔力も大きく消費した、全体の三分の一ほどの魔力を失ったのだ。今は大人しくして回復に努めなくてはならない。


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