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「ほう、いくらで買ってくれるのじゃ?」

「き、金貨一枚ではどうでしょう!!」


俺たちがサイクロプスから助けたのは黒髪のどこにでもいる男だったが、随分と図々しい金額をプリムに提示してきた。


サイクロプス退治は本来ならそこそこのパーティが請け負う仕事だ、その魔石も捨て値で売っても金貨3枚はするだろう。プリムが俺を見たので、俺は首を横に振っておいた。いくらなんでも安過ぎる。


「お主は世間を知らんのう、ダメじゃ。サイクロプスの魔石はギルドに売ることにする」

「そ、そんなぁ……」


一瞬、その男がプリムに掴みかかるような仕草を見せたが、俺が剣を抜いて威嚇してやれば諦めたようだった。もっとも、その視線は憎悪にまみれたものだったが。俺たちはそれを無視して、剥ぎ取った物やサイクロプスの討伐証明の部位である目玉を持って帰った。


ふと疑問に思ったので都に帰ってから、冒険者の酒場で話を聞いてまわればその理由が分かった。


「ほう、魔道具の大会があるのかえ」

「へぇー、それは面白そうだな。さぁ、もう一杯エールをどうだ」


「あんちゃん達気前がいいな、そうもうすぐ年に一度の出来の良い魔道具を競い合う大会があるんだ。だから、見習いや職人の間では魔石がいくらあっても足りないっていうわけさ」


魔道具を作るのに欠かせないのが魔石だ、これは通常なら魔物の体内からしか取れない。稀に土地が生み出す魔石もあると聞くが、それは例外中の例外である。


「オーガくらいの魔石でも高値がつくのか?」

「どのくらいで売れるのかのう?」


「まぁ、そうだな。今なら何でも普段の1.5倍はするわな。あんちゃんらも冒険者だったら、今が稼ぎ時だぜ」


別にお金には困っていない、困っていないが冒険者としてはわくわくするような話だった。プリムと顔を見合わせて、ニッと笑い。さっそく、オーガなど金になるような魔物の依頼を見に行った。


「一つも残ってないのう」

「まぁ、皆。考えることは同じってことか」


冒険者ギルドに行ってみればものの見事に討伐系の依頼書が一つもなかった。俺たちが引き受けたサイクロプスは難易度が高かったから残っていたのだろう。普段なら人気のないコボルトやゴブリンの依頼書まで無いのだ。


「…………レイ、この前のサイクロプスの魔石はまだ売ってないのじゃ」

「そういえばそうだったな、それがどうかしたか?」


「我も魔道具を作ってみるのじゃ!!」

「は?」


魔道具に興味を持ったプリムは専門の書籍まで購入して魔道具の勉強をしていた。プリムは一度興味を持つと結構な勉強家だ。


「冷布の魔道具を作ってみたのじゃ、打ち身を作った時や暑い時でもこれでひんやり涼やかなのじゃ」

「さ、サイクロプスの魔石で冷布!?な、なんて贅沢な」


「あんまり難しい魔道具は作れなんだ、でも実用的であろ?」

「確かにな、実用的ではある」


これが採算度外視の趣味というものだろう、俺は無邪気に喜ぶプリムの頭を撫でておいた。冷布というのはその名の通り、冷たい布で暑い時に首回りに巻いたり打ち身を作った時に使ったりする。

実際に暑い時に冷布は結構使いそうだ、プリムの作ったものが使い捨てでないというのがまた良かった。ちなみに使い捨ての物は青銅貨1枚くらいで売っている、ジュース一杯分くらいの値段で品質も悪い。


「ほうほう、あれが今年の優勝作品かえ」

「なんでも昼の間に熱を吸収して、夜は灯りになるという作品らしい」


魔道具の優勝作品も実用性を重視で、貴族などを購買層に狙った作品が多かった。もしくは大衆向けに量産ができそうなものだ。


「ここだけ見ると平和そのものなんだけどな」

「うむ、ここだけ見ておれば平和じゃな」


表の作品には実用的で生活に密着した魔道具が置いてあった、ただ表があれば裏の世界もあるのである。


一般人が立ちいることが出来ない軍事エリアでは、随分と物騒なものが開発されていたそうだ。リープから俺たちに関係するかもしれないからと通信があった。


「軍事エリアでは投げれば炎が爆発する、手榴弾に似たものが開発されております。マスターくれぐれもそういった施設には立ち入らないでくださいませ」

「リープ、情報ありがとな。助かる」

「はうぅ、裏の世界はえぐいのう」


「どこの国だって自衛くらいしてるさ、そうじゃなかったら今頃滅ぼされている」

「理屈としてはわかるのじゃが、せっかくの発明家気分が無くなっていくようじゃ」


プリムが落ち込んでいるので俺はその日、宿屋で水浴びの後に念入りに耳と髪それに尻尾をブラッシングしておいた。こうしてやるとプリムにとっては毛づくろいをされているようでとても気持ちいいらしい。


「はうぅ、レイのブラッシングの腕はどんどん上がっていくのう」

「そりゃ、ほぼ毎日こうしていれば上手くもなる」


「水浴びの後のブラッシングは最高じゃ」

「気持ちがいいならなによりだ」


しばらくそうやってウトウトとブラッシングを受けながらプリムは微睡んでいた。そして、ふとガバッと起きあがった。


「自動でブラッシングをしてくれる魔道具があったらどうじゃろうか!!」

「え?……うーん、それ獣人には人気が出そうだけど、まさか作るのか?」


プリムはしばらく起きあがった格好で考えたあと、またコロリと横になった。そして、くいくいとブラシを引っ張ってブラッシングを催促する。


「よく考えれば我には不要であった、それにレイのような高度なブラッシング機能を再現するのは我の腕前では無理じゃ」

「俺はプリム専用の魔道具か!?」


「そうであればいいのう……、今後も……ずっと…………むにゃ……」

「まったくもう仕方のない奴だな」


ブラッシングをしているうちにプリムは眠ってしまった、俺も眠くなってきたのでプリムを抱き枕にして眠ることにした。


そうだ、プリムのような抱き枕の魔道具はどうだろうか?


……俺にはプリムがいるから不要だが、かといって他の奴らにも使わせたくないな。大衆受けをする魔道具とは難しい、これも奥の深い世界のようだ。


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