55 魔道具
フォルクス王国から駅馬車を使い、国境からは徒歩でロンボス国へと辿りついた。
「前に来た時にはゆっくり観光もできなんだ、大飢饉であったからのう。今度は魔道具の生産地とやらをしっかり見るかのう」
「魔道具と言えばリープがそうらしいが、どんだけの技術をつぎ込めばあんなに人間そっくりにできるんだろう」
「我らの持っている冒険者証と同じ失われた技術、アーティファクトというやつじゃな」
「そうだな、俺は以前も言ったとおりこの冒険者証もおかしいと思ってたんだ。血を一滴垂らしただけで個人のレベルやスキルを読み取ってしまうんだもんな」
「あまりに皆が普通に使っておるから疑問に思わない、それに冒険者証はアーティファクトの一つとはいえ膨大な数があるらしいからのう」
「冒険者ギルドの始まりから使われていたらしいからな、リープたちはどれだけ以前からこの星に介入しているんだか」
この星は遊戯、つまりゲーム用に開発された惑星だとリープは言った。俺たちがそのゲームの一つをクリアした、それは世界の欠片を集めるというゲームだった。俺たちが望めば他にも様々な冒険がしこまれているらしい、何百、何千年前から用意していなければできない所業だ。
「ふむ、レイ。見てみよ、リープの原形のようだのう」
「魔道具の人形か、これが進化してリープになるわけだよな。……信じられん」
せっかく来たのだからとその後も魔道具の店を見てまわった。簡単に火をつける魔道具や一定量の水が毎日湧きだす桶、涼しい風を送ってくれる物、逆に体を温める物などが所狭しといろんな店に並んでいた。
「温石の魔道具は買っておくか?冬の冒険に役にたつぞ」
「念の為に買っておこうかのう」
いろいろと見てまわったが俺たちが買ったのはそれくらいだった、二つ合わせて金貨2枚である。慎ましくすれば二カ月は暮らせる値段である。やはり魔道具は高い、だからこそ冒険者ギルドもその材料である魔石を高く買い取ってくれるのだ。
「冒険者ギルドにも一応、寄ってみるか」
「そうじゃのう、面白い依頼があるとよいのう」
ロンボス国の冒険者ギルドに寄ってみたら、珍しくサイクロプス退治の依頼があった。こいつは人間より2、3倍大きな体で眼は一つしかないのに俊敏に動く魔物だ。
「プリムは初めてじゃないか、サイクロプス退治」
「バトルルームでは何度も相手をしたが、実物を見るのは初めてじゃ」
それではさっそくとギルドから依頼を受けることにした。レベル50と偽装を施したおかげで、今度はわりとギルドの職員ともめることもなく依頼を受けることができた。
この世界じゃレベル上げをするのは兵士や冒険者くらいだ、普通の農民や平民にはそんな時間は無いし必要も無い。だから、高レベルの者が少ないのだ。ごく普通に生活していればあのわらわらと沢山いる弱い魔物ゴブリンと戦うことすらない。
「それじゃ、行くか。ええと東の街道だな。どっちみち俺たちも通る道だ、一旦は狩りをしておいても悪くない」
「本物のサイクロプス退治じゃ、我に順番を譲っておくれ」
「いいよ、俺は昔。退治したことがあるからな」
「すまんな、感謝する。問題はやはり体格の差じゃな、速さと魔法で仕留めるのじゃ」
目指す東の街道に行ってみればサイクロプスの居場所はすぐにわかった。なぜなら、人や動物、魔物の死体が散乱していたからだ。
「普段は山の奥に住む魔物だからな、簡単に襲えるこの辺りの人間や動物はご馳走なんだろう」
「大人しく山にこもっておれば退治されることもないだろうにのう」
グギャアアアアア、グルルルル、ニニニニククウゥゥゥゥ!!
死体を辿って森の中をすすんでいけば、目指すサイクロプスもすぐに見つけることができた。奴は今にもぐったりとしている捕らえた人間の頭を噛み千切るところだった。サイクロプスには知能がある個体もいて、片言くらいなら話すこともある。
「そんなものは食べずに、我の相手をしておくれ!!」
プリムは魔法で生み出した水の刃でもってサイクロプスの単眼を攻撃した、奴は悲鳴をあげて持っていた人間を放り出してこっちに向かってきた。
「まずは足、とおぉぉぉぉぉぉ!!」
恐らくは音を頼りにこっちに向かってくるサイクロプス、その足元にプリムは滑りこんでミスリルの剣で見事に右足を切り倒した。
「皮が高く売れるのだったのう、ならば斬首としておくかや」
片足を失くしてもがいているサイクロプスをプリムは魔法の水の刃を重ねて放ち、油断なくその首を切り落とした。フォローがいるかと身構えていた俺だったが、今回は出番が無かった。
「それじゃ、魔法で皮を剥いでおくか」
「うむ、魔石もいただいておくのじゃ」
その剥ぎ取りをする前に捕まっていた人間の方も手当てをしておいた。サイクロプスに捕まって助かるとは運の良い奴だ。俺たちがサイクロプスから剥ぎ取りをする頃には目も覚めたようだ。そいつは開口一番にこう言った。
「あ、あのその魔石どうか僕に譲ってください!!」




