54 野宿
「このパラディース大陸には現在14の国があるがや」
「滅び去ったゼームリング国をいれると15だ」
「この大陸で人間の居住する土地は少ないのじゃ」
「俺たちがいる大陸以外にも人類はいるらしいが、そっちにはもっと大きな大国があるらしいぞ」
「外の国も気になるが、まだパラディース大陸で我らが行っていない国があるのじゃ」
「俺たちが行ってなくて行ける国ならアルト魔国か、あそこは魔族至上主義の国で人間や獣人に冷たい国と聞く」
「それでも、一度言ってみたいのじゃ」
「んー……、話のたねに一度行ってみるのも悪くはないか」
俺たちはフォルクス王国からアルト魔国まで旅をすることにした、どうせ行くならば今までと違った旅をしてみたい。
「それじゃ、まず駅馬車でロンボス国近くまで行ってみよう。ロンボス国からはアルト魔国まで船が出ているはずだ」
「そればらばレブリック国にも行ってみたいぞ、前回は迷宮を攻略するだけだったからのう」
「レブリック国からもアルト魔国へ船が出ているはずだ、ロンボス国を通ってレブリック国に行ってそこから船旅にするか」
「うむ、完璧なプランなのじゃ」
俺たちはいつもどおり駅馬車でまずフォルクス王国の端を目指す、駅馬車は普通の馬車よりも速いがその国内でしか走っていない。国同士の交流があっても、まだ交通網ができるほど仲が良い国がないのだ。
「宿屋もいいが、野宿もそれなりに楽しいのう」
「続くと嫌になるが、確かに野宿にはそれなりの楽しみがあるよな」
フォルクス王国の端で駅馬車を降り、俺たちはロンボス国への道を軽く模擬戦をしながら走っていった。その結果が、今夜は野宿である。
「レイも一緒に水浴びをせんかや?」
「野宿の時はダメ!!見張りが一人は要るだろう」
「今の我らだったら、不意をつかれても充分対処できるだろうに」
「そういうのを驕りとか、慢心というんだぞ」
「うむぅ、油断はいかんのう。さて、我は済んだぞ。水浴びを交代じゃ」
「今のところ魔物の気配はないが、見張りは頼んだ」
野宿の面倒なところは常に見張りがいることだ、俺とプリムは大抵二人旅だからどっちかがその役を引き受けざるをえない。
「見張りが面倒だけど、野宿はこう解放感があっていいよな」
「うむ、それに食事が良いのじゃ。街の食事は美味い物は高いからのう」
水浴びを終えるとさっそく俺はいつものように料理にとりかかった、今回は魚をメインにしてみようと思う。素早く魚の内臓を抜いて串焼きにする、やがてバチバチと油をしたたらせて焼ける魚の良い匂いが漂う、もう一品はスープだ。変わり映えがしないと思うが、野菜がたっぷりと食べれるお手軽な料理だ。
「はふ、はふ、肉もいいがこう脂がのっておると魚も美味いのう」
「そうだな、リープも栄養があっていいと言っていたし、魚も積極的に食べなきゃな」
俺には『無限空間収納』があるから釣り上げたすぐの魚をそのままの状態でしまって置ける。この不思議な魔法は生きているものは入れられないが、それ以外ならまるで時が止まっているように良い状態で保存してくれる。
「はうっ、パリパリに焼かれた魚の皮が美味いのう。我も早く『無限空間収納』を習得したいものじゃ」
「無属性の空間魔法だからな、地道に練習していくしかない」
この星の物理法則がどうなっているのかさっぱり分からない、リープが丁寧に説明してくれたが科学と魔法の融合がなんとかかんとか。やっぱり、さっぱり分からない。
「レイは冒険者を辞めたら、この魔法で行商人にもなれるのう」
「うーん、どうかな。苦手なんだよ、金銭の計算」
この魔法は特に商人などには魅力的な魔法だ、なにせ商品を運搬するのに馬車などを使う必要が無くなる。そして、魔力の総量にもよるがかなりの物品を劣化させずに持ち運びができるのだ。それぞれの都の大商人の中にはこの魔法を習得している者がいるらしい、本で読んだ知識だから実際のところは分からない。
「レイの言うとおりに『無限空間収納』を持ちたいと魔法の姿を思い描いてはいるのじゃがな」
「俺は本で読んでそういうことができるのかと単純に信じこんだからな、後になって『無限空間収納』がどれだけ希少な魔法かを知って驚いたくらいだ」
魔法を使うにはまずその魔法への適正と必要な魔力、そして使う魔法のイメージが必要になる。その点、俺は火属性と風属性の他に無属性の適正があるわけだ。『無限空間収納』に加えて『瞬間移動』も使えるようになったからな。
「我は『瞬間移動』も習得してみたいぞ」
「何度も説明したけど、この魔法ってすごく燃費が悪いぞ。多分、国家間を数回も往復で移動すればその日は他に何もできなくなる。以前より俺の魔力の総量が増してるのにそんなものだ」
「リープの言っていた強制転移も同じ理屈の魔法だえ」
「らしいな、俺じゃ一国を移動するので精一杯。星から月まで転移となるとどれだけのエネルギーを使っているのか。リープたちの文明は恐ろしくすすんでいるよ、冒険者を引退したら月でそのへんを研究しながら暮らすのも面白そうだ」
「それも良いのう、リープの出してくれる食事も美味かったからのう」
「こっちの世界じゃ、手に入りにくい食材が豊富にあったよな」
リープたち人造人間という魔法具は飲み食いはする必要がないが、その主人であるマスターとなるのは生物だ。だから、いつでもマスターである俺たちが帰ってこれるように農場や牧場が管理されている。
「ロンボス国は魔法具の生産で有名な国だが、その先のレブリック国は農業大国だ。何か美味いものがあるかもしれん」
「それは良い話じゃ、美味いものは生きる為の活力じゃからの」
そんなことを夕食の時に話しながら、熱々の魚と野菜スープを食べた。その後は交代で見張りをしながら過ごし、一夜を過ごした。




