52 招かぬ客人
俺たちはフォルクス王国の森のかなり奥をのんびりと歩いていた、適当な依頼もなかったので猪か熊でもいれば仕留めて食事にしようと思っていた。
「猪がみつかるといいな」
「我は熊の肉を食したいのじゃ」
暇つぶしがてらプリムと食べたい料理をあげて行ったら余計に腹が空いてきた。しかも望んでもいない獲物がひっかかっていた。
「プリム、一人でいい。殺すな」
「了解じゃ、さて我の魔法の餌食になりたいのは誰じゃ?」
そいつらは一見して普通の冒険者に見えた、でも普通の冒険者は挨拶代わりに毒を塗った武器で襲い掛かってきたりはしないものだ。
「――――!?」
「何も言わずに戦闘開始、なら殺傷しても問題なし」
何も言わずに無言で襲い掛かってきたリーダーらしき男の攻撃をかわして、かわりに剣の腹で頭を叩いて揺らした。その男はおそらく脳震盪を起して倒れた。
「レイが一人を確保したなら、残りはこうじゃ!!」
プリムも自分の方に来た斥候や女戦士の攻撃を避けて、残った賊の全員に大きな雷を落とした。彼らはがくがくと震え、肉の焼ける匂いをさせて動かなくなった。
「プリムは魔法の操作が上手くなったな」
「うむ、もっと頭をなでても良いのだぞ」
俺たちは敵を排除して、気絶している一人だけを拘束しておいた。目を覚ましてから尋問すればいい、それよりも大事なことがあった。
「プリム、俺の索敵によると大物の動物なんだがどうだ?」
「見えたぞ、レイ。あれは熊じゃ」
獲物の場所と姿を目に捕らえた瞬間、二人で逃げる場所を与えないように挟み撃ちをしかけた。
ブオオオオオオ、オオオオオオオ!!
「炎はまずいから、ここは風で」
「うむ、調理するのは後まわしじゃ」
俺はまず熊の前に飛び出して驚かせた、そして驚いた熊が仁王立ちになった瞬間に圧縮した風の弾丸を心臓の付近に複数打ちこんだ!!
グァオオオォォォ!!
熊を倒す時は頭より心臓を狙った方がいい、頭は頭蓋骨が固いし脳が小さいので的に当てにくいのだ。狙いは大当り、熊はしばらくドスンッとそのまま後ろに倒れた。念の為に完全に死んだことを確認するまでは近寄らない。
「熊だ、熊だ♪俺、一回やってみたい食べ方があったんだよな」
「どうするのじゃ?」
俺は熊を解体しながら熊の油を集めていった、薬になるという熊胆の部分もとりわけておいた。苦いから熊胆は食べないが薬屋に売るといい値段になるのだ。
「ここに熊の脂が沢山あります、だったらすることは一つだよな」
「揚げ物かや!?」
熊の脂は薬にも使われるものだが、とれたばかりだったらこうして揚げ物の油として使っても良い。意外とさっぱりとして風味がよく、その油で揚げるとまろやかで美味くなるのだ。
「はふっ、はふっ、レイ。もっと熊肉を揚げておくれ」
「いいぞ、はぐ。うん、なかなか美味いな」
煮込み料理のほうにも脂がたっぷりついた熊肉を入れていく、こくがあるのにさらっとした脂が煮込んだ野菜を美味しくしてくれる。
「はむ、はむ、はむ、ひやわせなのじゃ~~」
「焼いた肉も煮込んだ野菜も美味いな、うん。今日は当たりだった」
また熊を仕留めた時にはやってみよう、一休みしてから熊を解体して肉など必要な物は『無限空間収納』に放り込んでおいた。
「ああ、そういえば捕虜が約一名いたな」
「そういえばそうじゃったのじゃ」
解体の後始末をして放り出しておいた捕虜のところに戻った。
「あ~、腹がいっぱいで幸せだ。ええと誰の命令で俺たちを襲ったか吐いて貰おうか」
「けぷっ、そうじゃ。素直に言うのが賢い選択じゃ」
「………………」
捕虜の目が若干こちらを馬鹿にしたものだったのは気のせいだと思いたい。だってあんなに美味いものを食べたんだ、その後に尋問とかする気にならない。
「もういいや、お前逃げていいぞ」
「はふっ、運の良い奴じゃ」
拘束を解いてやるとその男は一目散に逃げだした、俺とプリムはにっと顔を見合わせて笑う。
「畜生、化け物どもめ!!」
俺たちは飛翔の魔法を使って上空からその捕虜を追いかけた、やがて捕虜だった男は街のある建物に入っていった。
「俺とプリム、どっちの関係だと思う」
「我はそれほど重要視されてないゆえ、きっとレイの関係者じゃ」
俺たちはそっと建物に下りて風の魔法で中で話している声を拾う。
「殺せとのパルスさまの命だがあれは無理だ、俺以外は皆殺された!!」
どうやら俺の関係者だったようだ、またパルスくんに神託とやらがくだったのだろう。パルスを気に入っている神様って随分とまた趣味が悪いな。




