48 銅級の冒険者
俺たちが翌日に冒険者ギルドに行くと、ランク金の以前の会った冒険者に睨みつけられながら声をかけられた。どうも昨日俺たちがゴブリンを退治したのがまずかったようだ。
「依頼も受けないで奉仕活動だけやるんなら冒険者なんて止めてしまえ、新人だって覚悟して依頼を受けているんだ」
「すいません、つい依頼を受けるのを忘れてました」
「次は気をつけるからの、許してたもれ」
そのランク金の冒険者は俺たちが素直に謝ると、大きく息を吐いた後に踵を返して冒険者ギルドを出ていった。
「冒険者というのもなかなか面倒だな」
「しかし、金を稼ぐのには良い職業なのじゃ」
「商人ギルドに剥ぎ取ったものを売っても儲かるぞ、冒険者にこだわることはない」
「なるほど、そういう考えもあるかの」
そうやってプリムとこそこそと内緒話をしていたら、昨日の受付譲さんから声をかけられた。
「うぅ、冒険者ギルドを辞めないでください。ちょっと規則が面倒なのも、全て貴方たち冒険者を守る為のものなんです」
「ああ、はい。分かってます、分かってます、すいません」
「理解しておるのじゃ、すまんのう」
そうやって謝る俺たちと悲しそうな顔をしている受付譲を見て、ギルドの中の雰囲気が悪くなった。俺たちは謝罪の言葉を繰り返しながら、慌ててギルドをあとにしようとした。
「おら、待て。俺たちのレティスちゃんを泣かせておいて勝負しろこらぁ!!」
「そ、そうだ。レティスちゃんのファンとして許せないんだぞ!!」
「俺だって、どんなにあの笑顔に毎日癒されていることか。勝負だ、勝負!!」
俺たちはギルドの鍛錬場でよくわからないが勝負をすることにした、あの場にいた冒険者十数人と対峙した。その他の関係のない人達は強制的に追い出された。
「レイ、今度はいかに相手に怪我をさせんかで勝負じゃ」
「了解、プリム。無理はするなよ」
一斉に襲い掛かってくる冒険者たちの攻撃を避け、かなり手加減した一撃を素手で与える。プリムも同様だ小さい体で器用に冒険者たちの間を潜りぬけ、加減した拳や蹴りを放っていた。
「今度は俺が勝ったぞ、俺の方が止めをさした数が多い」
「むぅ、負けたのじゃ。まだまだ精進が足らんのう」
「なんだ、なんだ、こりゃ何の騒ぎだ!?」
とそこへあのランク金の冒険者がやってきた、このおっさんもいい加減しつこいなと俺は思い始めていた。
「なんでも俺たちがレティスって受付譲を泣かせた、だから少し勝負をしただけだ」
「うむ、ちと言いがかりに近いものがあった。これがただの新人なら酷い目にあったの」
「なにぃ、てめえら俺の可愛い娘、レティスを泣かせただとおぉぉぉ!!」
こちらはただ状況を説明しただけなのに、更に面倒くさいことになった。なんだこのおっさん、実はただの親馬鹿か。
「プリム、どっちが勝負するかじゃんけんな」
「うむ、レイ。いざ尋常に勝負!!」
こっちが高速でじゃんけんをしている間に、ランク金のおっさんは剣を持って鍛錬場に下りてきた。じゃんけんは俺の勝ちだった、プリムは悔しそうに頬を膨らませた。
「えーと、こっちはあんたの名前も知らないから教えてくれよ」
「剛健のハンスだ、てめえら二人とも教育し直してやる!!」
「いや俺が戦うから、そしてすぐに決着もつくからさ!!」
「――――なっ!?」
俺は縮地でハンスというおっさんの懐に飛び込んで手加減して拳を叩き込んだ、一撃では浅いと感じてもう一撃で打ちこむとおっさんの意識は無くなった。
「良かったな、こいつら以外に鍛錬場に誰もいなくて」
「うむ、余計な噂にならなくてよいのじゃ」
俺たちはきちんと全員が気絶しているだけで傷を負っていないことを確かめた、念のためにギルドの受付にいって鍛錬場で皆が気絶していることも伝えておいた。
「なぁ、プリム。面倒なことになりそうだから、この国をしばらく離れるか?」
「我は商隊護衛というのをしてみたい、絶好のチャンス!!」
俺たちはそのまま商隊護衛の依頼を受けた、隣国のフォルクス王国までの護衛依頼だ。
「またあの氷菓子を食べてみたいのう」
「売っているといいな、楽しみにしておこう」
そうして、冒険者ギルドを出て露天商から念の為に野菜などを買い込んだ。俺もこの買い込むのは癖だな、つい何かあったらいけないと思って『無限空間収納』に食べ物を放りこんでしまう。
「おっさん、ああ。良かった、他の奴らも大丈夫そうだね」
「うむ、絶妙な手加減であった。レイよ、褒めてつかわす」
俺たちは一応翌日に冒険者ギルドを訪れた、万が一怪我をしている者などいないか確認の為だ。昨日俺たちの相手をした冒険者は全員無事だそうだ。
「お、お前ら一体何なんだ?上には上がいるというが、お前らなら白金でもおかしくない」
ハンスとかいうおっさんのこわばった声に俺たちは明るく答える。
「別にただの銅級の冒険者だよ」
「しかも、一昨日なりたてのじゃ」
それからおっさんのひきつった笑顔ともお別れだった、フォルクス王国に向かう商隊が門に来ていたからだ。初めての商隊護衛、一体どんなものだろうか。




