42 ゲームオーバー
「けほっ、けほっ、けほっ」
「うげっげほっ、プリム。大丈夫か?」
「うむ、少し水を飲んだだけだの」
「そうか、あー良かった」
俺の『瞬間移動』はほとんど成功した。ただ、飛距離が少し足りずに海中に移動してしまったことだけが失敗だった。
「二人とも大丈夫かい、今引き上げてあげるからね」
「助かる、シオン」
「シオン、頼りになる男」
俺たちはすぐに飛翔の魔法で飛んできたシオンに拾いあげて貰って海から脱出した。その後は盥を『無限空間収納』から取り出して、シオンに真水を出してもらって体と服や装備を洗った。
「もう当分、海は嫌だの」
「同感」
「お疲れのようだから、宿屋までは僕が運んでいくとしよう」
俺たちはシオンに抱き抱えられて宿屋まで連れて行かれた、それだけ消耗していたんだ。周囲の視線は痛かったが、もう指一つ動かすのですら辛かった。そして、宿屋に着くと当然のように二人で爆睡してしまった。
「おはよう、二人とも体は大丈夫かい?」
「ああ、おはよう。シオン、うーん。良く眠ったから大丈夫だ」
「おはようなのじゃ、体の調子も良さそうぞ」
それから厨房を借りて大量の朝飯を食べるまでが、いつもの俺たち三人の朝の風景だ。さて、食事をすませてから問題の六つの欠片を取り出した。最後の欠片は透き通ったガラスのようで薄らと青い色をしていた。
「なにが起こるか分からん、宿屋を出て街の外で組み立ててみよう」
「僕も行っていいのかい?」
「シオンがいなかったら、我らは最後の迷宮まで行けてないのう」
ロンボス国の風の迷宮でシオンを助けていなかったら、俺たちは土の迷宮を踏破できなかっただろうし、最後の水の迷宮に至っては場所さえ分からなかった可能性が強い。だからシオンにも、この欠片の完成に立ち会う資格があるはずだ。
「いいか、やるぞ」
「準備はできておるぞえ」
「ああ、いいよ」
それから街を出て広い荒野で俺たちは六つの欠片を組み立てた、すると次の瞬間には俺たちは見知らぬ建物の中へと移動していた。
そこは今までに見たこともないような素材でできた建物だった。透明度の高いガラスの窓があって、見れば全面に星空が広がっていた。
「前マスターの死亡を確認後、お待ちしておりました新マスターの皆さま」
シュンと扉が何もしていないのに横に移動して開いて、黒髪に黒い瞳の美しい女性が俺たちをそう言って嬉しそうに見つめていた。
「いろいろとご説明が必要でしょう、お茶をご用意いたしますのでこちらへいらしてください」
「あ、ああ」
「むう、分かった」
「あれっ?」
俺たちは全面鏡張りの大きなソファがある部屋に案内された、そこの窓からもやっぱり星空が見えた。だが、一つだけ大きな星が見えた、綺麗な緑と青の入り混じった星だった。
「私はリプロダクションと名付けられております、どうぞお好きなようにお呼びください」
さきほどの女性はそう言ってお茶やお菓子を用意し、毒見をしますので失礼しますと言ってからお茶を飲んでお菓子を食べてみせた。そこからはお茶をしながらの話になった。
「ではリプロダクション、ええとリープと呼ばせてくれ。リープ、ここって一体何なんだ。あんたは誰であの欠片は何の意味があったんだ?」
「うむ、とっても気になるの」
「美味しいお菓子だね」
約一名はお菓子に夢中だったが、リープはそれを気にもせずに俺たちを愛おしそうに見て話し始めた。
「わかりやすく申し上げますと私は貴方様でいうところの魔道具です、人間に見えますが人間ではございません。ただ貴方様たちにお仕えするだけの機械なのです」
「なっ!?」
「むうぅ!!」
「あっ、やっぱりそうなんだ」
驚きの声を上げた俺とプリムに対して、シオンは納得した表情でお菓子に噛り付いていた。
「呼吸をしている様子がないから、普通の女性ではないと思ったんだよ」
「お前、よくそんな細かいところまで見てるな」
「むう、シオン。本当に頼れる男」
そんな俺たちを見て微笑みながらリープはとある男性を見せてくれた、まるでその場にその男がいるように見える幻影が現れた。
「あっ、この男。ずっと前に行方不明になった奴」
「探されていた、ケントルム魔国で」
「僕は初めて見るな、それでこの人は一体誰なんだい?」
「彼こそが私の前マスター、あそこにある惑星の持ち主でした。惑星というのは貴方たちが住んでいた世界のことを言います、そして今の惑星の持ち主は貴方たちになっております」
「あれが!?」
「我らの住む世界?」
「そうだったのか、何だか実感がわかないね」
突然、自分の住んでいる世界が貴方の者ですと言われても、シオンの言う通りだ実感がわかない。というかまず、自分があんな丸い小さな惑星にいたのかと思わず窓を見つめてしまった。
「あの惑星は前マスターが購入した遊技場だったのです、既に生息していた生き物にレベルという概念を与え、生物自体の改良、そして魔法という元々あった法則を利用し、そんな世界でランダムに様々な冒険ができるという高度な遊技場でありました」




