37 空の王者
「これはドラゴンと戦えということなのかな」
「うむ、我らが欲しい謎の欠片は向こう側にあるしのう」
「どうしようか?」
「我もレイに危ないことはさせたくないのう、ドラゴンは空の王者じゃ」
せっかくここまで来たのだから集めている欠片を持って帰りたい、でもドラゴンと戦うとなったら命がけの勝負になるだろう。二人して相談した後、結論を出した。
「まずは話し合ってみて、それでも駄目なら戦闘。負けそうになったら全力で逃走ということにしよう」
「絶対に無理はせぬことじゃな、話し合いで解決すればそれが一番じゃのう」
なんと弱気なと言うんじゃない、昔話の中には城を壊滅させたというドラゴンの話も出てくるくらいだ。ドラゴンとは空の王者なのだ、……この前みたいな例外もあるけど。
「あのドラゴンさん、聞こえますか?」
「聞いていたら返事をして貰いたいのう」
俺たちが何度か呼びかけるとドラゴンは薄らと目を開けた、その鋭い眼光は獲物を狙う者の眼で俺たちに向かってこう言った。
「ち、小さき者よ。何か食べ物を持っていないかい?」
「…………持ってます」
「…………ドラゴンとは空の覇者ではなかったかえ?」
俺は『無限空間収納』にしまっておいた、まだ皮を剥いでいないオーガのやコカトリス、いろんな魔物の死体をドラゴンの前に取り出していった。
「むぐ、むぐ、助かるよ。空を飛んでいたらおかしな空気に捕まってね、それからここを離れようとすると息ができなくて動けない。このあたりの魔物は全て食べてしまって、もう少しで餓死してしまうところだったよ」
「あの、それじゃ。貴方の傍にある欠片を俺たちが取ってもいいですか?」
「我らはそれを取りに来たのじゃ」
「僕のものじゃないから構わないよ、好きにするといい」
「では、お言葉に甘えて」
「とっておくのじゃ」
今回も透き通った薄らと緑色をした欠片が手に入った、やっぱり同じものがすぐ現れたが二つめは取れないのも同じだった。風の試練の魔物はどうやらドラゴンさんが食べてしまったようだ、そうじゃないと今までの試練に対して簡単過ぎる。
「あとはドラゴンさんとどう脱出するかだな」
「うむ、拾ったからには見捨てていけないのう」
「僕を助けてくれるのかい、助かるよ。僕は風の魔法は苦手でね」
俺の魔法で一時的に清浄な空気を集めることはできる、でもその僅かな時間でこのドラゴンがここから脱出できるだろうか。
「ドラゴンさん、どのくらいの時間があればここから逃げ出せますか?」
「うむ、そこは大事だのう」
「そうだね、ちょっと体が弱っているからロウソク一本が燃え尽きるくらいの時間かな。この辺りの空気はおかしいよ、特に上空は有毒な空気で溢れている」
ロウソク一本が燃え尽きるくらいとなると結構な時間だ、俺の魔法ではそこまで持つかどうかわからない。
「もしくは人化するから、僕を君たちに運んで貰えると助かるのだけど」
「人化?」
「うむ?」
俺が取り出した魔物の死体をあらかた食べ終えたドラゴンは、どんどんその姿を縮めていき金髪に碧の瞳をした冒険者のような姿の青年になった。
「これでどうだろうか、まだこの体はうまく動かせないけど……。ああ、僕の名前はイントゥシオンと言うんだ、シオンと呼んでおくれ」
「よし、それなら俺がシオンを背負っていくぞ」
「ならば、我がハーピーやワイバーンの相手じゃな」
俺たちは人型になったシオンを俺が背負って山を下り始めた、時々襲撃してくるハーピーやワイバーンはプリムが雷の魔法で始末してくれた。
登るのに一週間かかったので、下りるのにもこの山は一週間かかった。その間はシオンと寝食をともにして仲良くなった。
「へぇ、人間の食べ物はいろんな味がして美味しいね」
「このコカトリスの串焼きもどうぞ」
「うむ、この果物の砂糖漬けも絶品ぞ」
ドラゴンだから初めのように物凄い量を食べるのかと思ったらそうでもなかった、人化している間は人間と同じくらいの食事で体を維持できるらしい。
「ああ、ここが人間に与えられた六つの遊戯の一つだったのか。気がつかなかったよ、次からはもっと注意して飛ばなければならないな」
「六つの遊戯って何なんだ、シオン?」
「我らが集めているこの欠片のことかや?」
シオンはまだ人間の体に慣れてないのか、ぎこちなく食事をとりながら俺たちの質問に答えてくれた。
「むかし、むかし、神がこの世界を作った。人間の六つの遊戯の為に作った、しかし誰も最後まで遊んでくれる人間はいなかった。だから神は待っている、六つの遊戯を遊び尽してくれる者を。僕は150歳くらいだけど、母から聞いた物語の一つだよ」
「この欠片を集めることは神様の遊びなのか?」
「普通の人間からしたら、随分と物騒な遊びじゃの」
「所詮は言い伝え、寝物語だからね。どこまで本当なのかは僕も知らないよ」
「まぁ、遊び始めたからにはな」
「最後まで無理はせずに遊んでみるのじゃ」
そんなことを話しながら一週間が過ぎて俺たちは山の麓に辿りつけた、シオンもその頃には歩くくらいはできるようになった。でも、まだまだ人の体に慣れていないようで、とても置いていけないから一緒に連れていった。
そして、ロンボス国の都に帰ると驚くべき変化が起こっていた。都には活気がもどり、露天商では豊富に食べ物が売られていたのだ。露天商で食糧を買いながら話を聞いてみた。
「そこのキャベツと芋を一袋くれ。なぁ、この一週間で何がおこったんだ?」
「勇者さまですよ、勇者さまがきてくれたのです」
他にもあちこちで話を聞いてみたが、どうやらムーロ王国が海から船を使って食糧援助を行ったということだった。
「ほらっ、あれが勇者さまですよ」
と人々が指さす先には嫌というほど見慣れた顔があった、俺の弟であるパルスだった。立派な馬車に乗って王都で国を救った英雄として崇められていた。




