29 うごめくもの
「ひぎゃあああああ、死ぬの、馬鹿なの、こんな終わり方嫌なのじゃ――――!!」
「落ち着け、プリムただの虫じゃないか」
早急にレベル上げをする必要に迫られた俺たちはケントルム魔国の迷宮と呼ばれる場所に来ていた。
最初の階あたりは良かった、うろついてるのはスライムやゴブリンなどの弱い魔物だけだった。だが迷宮を潜っていくにつれてオークやオーガが出るようになり、ある階から悍ましい生き物たちが姿を現した。
「嫌ああああああ!!帰る、帰るの!?あれは全生物の敵なのじゃ――――!!」
「わかった、わかった、今始末するからな」
俺たちの目の前に広がる迷宮には通常の三倍の大きさをした蝙蝠や犬ほどの大きさの黒い油虫、それにゲジゲジなどの魔物がうじゃうじゃと空間一杯にひしめいていた。
俺は自分の周りに火炎の球を幾つも作り出し、風の魔法で自分たちの周りに空気を送りながら一気に火炎の嵐を解き放った。
きいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃ!!
蝙蝠たちは高い悲鳴をあげて燃え尽きた、虫たちは声は出せないがもし話すことが出来るのならおなじように悲鳴をあげてのたうちまわっていただろう。
「ほらっ、後続がくるぞ。プリム、防御を頼む!!」
「ヒッ!!嫌あああああああぁぁぁっぁぁぁぁ!!」
プリムはよくわからない悲鳴を上げながらも、三重の結界を張って蝙蝠や虫たちが俺たちに殺到するのを防いだ。
「結界解除、燃やし尽くす!!」
「はい、なのおおおおぉぉ!!」
再び俺の魔法で起こした炎が蝙蝠と虫たちを焼いていった、焦げ臭い匂いが少々風の結界を伝わってながれてくる。二度攻撃したが、それでもまだまだ魔物たちは迷宮のあちこちにうごめき残っていた。
「魔力がもたない、あと5,6回焼いたら撤収するぞ」
「はいなのじゃ!!なんなら、今からでも撤収したいのじゃ!!」
結局、数回の焼却を経て少しは魔物の数を減らすことができた。俺たちは残った魔力のことを考えて早めにもと来た道を撤収したのだった。
「すごいぞ、プリム。レベルが凄く上がっている」
「それは嬉しいがのう、でもなんだか、なんだか、涙が止まらないのう」
俺たちのレベルはそれぞれここ数カ月の特訓で急上昇していた。
名前 :レイ
レベル:288
年齢 :22
性別 :男
スキル:剣術、怪力、魔法剣、全魔法、獣の目、毒無効、気絶無効、麻痺無効
石化無効、睡眠無効、即死無効、魅了耐性
魔王の祝福、神々の祝福、龍王の祝福
名前 :プリムローズ
レベル:99
年齢 :15
性別 :女
スキル:剣術、全魔法、毒無効、麻痺無効、石化無効、睡眠耐性、魅了耐性
龍王の祝福
「我はやっぱり到達者どまりなのかのう」
レベルが99から上がらなくなってから、プリムはなんだか元気がなかった。でも、俺は経験から励ましの言葉をかける。
「いや、俺もレベル99でしばらくの間はレベルが上がらなかった覚えがある。まだまだ、諦めるのは早いさ」
「…………うむ、気長にやるかの!!」
ケントルム魔国では既に季節は冬に入っていた、俺たちは冬になる前に一軒家を一冬借りる契約をして、今はそこに住んでいた。
レベル上げの為に毎日、ケントルム魔国にある迷宮に出かける日々ではあるが、家ではのんびりとして温かな時間がそこにはあった。プリムはこの間に料理を覚えた、洗濯は以前から教えていたが掃除もこの家を借りてから初めて覚えた。
「こうしていると超越者のことなど、忘れてしまいそうだのう」
「何も起きないしな、このまま平和が続くといい。いっそ、ケントルム魔国に移住しようか」
「それも良い考えだの、ここは住みやすい土地じゃ」
「レベル上げもできるしな」
「あの虫の軍団は勘弁して欲しいのう」
「魔物は魔物、すっぱり割り切って戦うんだ」
プリムは女の子らしくどうも虫類が苦手だ、実は偉そうなことを言ってはいるが俺もあの迷宮の虫の大群には生理的な嫌悪感が湧いている。ただ、レベル上げとしては非常に良い場所なのだ。火炎と雷の魔法で大量に始末できてレベルは着々と上がっている。
「明日の迷宮はオーガが出るあたりで狩りをしよう、皮を剥いで冒険者ギルドに売りにいってもいいと思う」
「大賛成じゃ、お金は大事だからのう。レベル上げは大事じゃが、仕方がないの」
プリムが瞳を輝かせて俺の方を見た、よほど虫たちの相手が堪えているらしい。しばらくは虫は止めて久しぶりにオーガ狩りをするか。次の日は言ったとおり、オーガたちを狩りまくった。プリムも強くなって、一匹なら一人でも余裕で倒せるようになっている。
「沢山、とれたの。さて冒険者ギルドに売りにいくかや」
「ああ、行こうか」
俺たちが迷宮をでて冒険者ギルドへやってきた、いつもどおりギルドカードは見せずに買い取りをしてもらう。金貨30枚ほどの金になってプリムは笑顔で俺のところに帰ってきた。
「ちょっと待った、そこのあんたら話を聞いてくれ」
さて用事を済ませて帰ろうとしたら、知らない奴から声をかけられた。一体、何の用事だろうか。




