27 逃亡
「そこをどけ!!俺は神官騎士なんかにはならないぞ!!」
俺の言葉にざわめく神官騎士たち、その隙に風の魔法でその頭上を飛び越えた。そして、人ごみにまぎれてそのまま彼らを振り切ろうとした。
「彼を捕まえてください、彼はあの魔性に操られているのです」
先ほど話した神官のくだらない嘘が聞こえてくるが、無視して俺とプリムはスティグマタ国の都の雑踏にまぎれて逃げた。
そのまま都を出ていく、門兵も出ていく者にはほとんど注意を払わない。まだ、俺たちのことは連絡がきていないようだった。
「これからどうしたものか」
背中にプリムを背負ったまま、とにかくスティグマタ国の都から遠ざかろうと道を駆けた。途中で日が暮れてしまったので今夜は野宿である。
「……レイ、我はどうしたのだ。いきなり睡魔がきてのう」
「プリム、大丈夫か!?あのくそったれ神官に一服盛られたんだ、体の調子はどうだ。どこかおかしなところはないか?」
「うむ、沢山眠った以外はおかしなところはなさそうじゃ」
「そうか、それは良かった」
そのまま、俺たちは用意した夜食を食べた。熱いスープと肉を食べているうちに元気も出てきた。プリムには彼女が眠ってしまった後のことを話しておいた。
「大教会というところも信用ならんの」
「ああ、神官騎士になれとか意味がわからん」
「よいのか、レイ?」
「何がだ?」
「その神官騎士になればレイの両親も、レイのことを見直すのではないかや?」
「ハッ、今更見直されても仕方ない。廃嫡された時点で俺はあの家とは縁を切っている」
「……我が邪魔ではないのかの?」
「プリムのことが邪魔なわけがない、今では俺の大切な仲間だ」
「ふふふ、そうか仲間か。嬉しいのう、良い気分だ」
「そうか」
そこからはプリムに見張りをしてもらって俺は睡眠を取らせて貰った、途中で交代して翌日の移動に備えた。
「ここからならボルカーン王国か、ケントルム魔国に入ったほうがよさそうだな」
「それならばケントルム魔国の方がよかろう、なんといっても教会自体がないからのう」
俺たちの目的地は決まった、次の街までは俺がまたプリムを背負って走って連れて行った。門をくぐる時にも門兵に止められることも無かった。俺たちを引き離そうとしたのは、あの神官の独断だったのかもしれない。
一応、二人してフードを深く被り、駅馬車でケントルム魔国へと移動を開始した。旅の間は魔力操作の練習もわすれない。
「はああああ!!」
「凍りや!!」
時々、旅を休んでオークやオーガなどを狩った。もうすぐ冬がやってくるし、その準備の為だ。今度の冬はケントルム魔国でずっと過ごすつもりだった、金銭を少しでも多く稼いでおきたかった。
そして、旅は続いてようやくケントルム魔国への国境が見えてきたあたりで異変が起こった。鎧こそ着ていないが神官騎士とやらが数名、国境沿いにいるのだ。
「どうする、プリム。引き返すか?」
「街道をそれて、こっそり突破するほうが良いかの」
俺たちは気づかれないように道を引き返して、森の中に入ろうとした。その途端に声をかけられた。
「レイ・ガルネーレとそのお連れさま、どうか私たちを一緒に来て頂きたい」
「大人しくくれば、何もしないと約束しよう」
どこに隠れていたのか俺の索敵にもひっかからなかった、殺気がまるでなかったからか。俺たちはすっかり神官騎士に囲まれていた。
「……大人しくついていけば、危害は加えないと?」
「ああ、この神官騎士部隊長ステイツがそう神に誓おう」
嘘や偽りを言っている様子がないので俺はその言葉に迷った、プリムは俺の服を握って頷いて判断を俺に任せるつもりのようだ。
「面倒くさいなー、もう戦って持って帰ればいいじゃん」
「レクトゥス、勝手な行動は慎め!!」
「オレが戦ってみたいんだよ、オレって神官騎士になってから一度も全力が出せてないからさ」
「俺たちの任務はレイ・ガルネーレとその仲間を保護することだ」
「それじゃ、あとで懲罰でも解雇でも勝手にすれば?」
「――ッ!!」
その次の瞬間には俺は剣を抜いて、レクトゥスと言う奴の剣を受け止めていた。速い、今まで戦ってきた誰よりもその剣は速かった。
「おっ、さっすが神官騎士に推薦されるだけのことはある」
レベルが上がってから俺とまともに戦える人間はいなかった。しかし、この男は違った。最初の一撃も警戒していたからこそ、なんとか受け止められたのだ。
「なかなか強いじゃん。オレの後輩にしてやるよ」
「俺は神官騎士になんかならない!!」
そのまま、何度か剣をまじえる。確かに相手は強いが何度か剣を交わせばその速さにも慣れてきた、俺は一段と速さと強さを上げて相手の剣を弾き飛ばした。このくらいの腕前なら勝つのは難しくないが相手は複数だ、この強さの数人を相手に俺は戦えるだろうか。
「うっそっ、俺相手でまだ余裕おおありってやつ?」
レクトゥスという神官騎士は驚いたように弾かれた自分の剣を見たが、次にこう笑って言い放った。
「でもステイツ隊長相手だったらどうかな、そんなに簡単に勝てねぇよ?」




