26 大教会
「おお、ここがスティグマタ国か。小さいが綺麗な国よのう」
「そうだな、さて大教会はどこだろうか」
俺たちはスティグマタ国の都へと来ていた、ここではスキルの研究が盛んだと聞いている。俺のプレートにある謎のスキルや、常識外れのレベルについて何かわかるかもしれない。
「レイ、教会というのは何を信仰しているのかや?」
「人間を作った全知全能の神さまだと聞いている、だから教会は人間の国に多い」
教会が信仰しているのは名も無き神である、その神様とやらが人間を作ったと言われている。そのおかげで信徒は人間が多い、プリムのような獣人でも信徒にはなれるが人間よりも扱いが悪くなるらしい。ちなみに魔族は信徒にすらなれない、随分と偏見が強い宗教だと思う。
「あー、すいません。俺たちは大教会に行きたいんだが、どこにあるんですか?」
「大教会なら都の中心、あの大きな建物よ。この道を行けば辿り着けるわ」
歩いている人に大教会の場所を聞いてみる、すると都の中心になる一番大きな建物だということが分かった。行ってみれば様々な者たちの長蛇の列が出来ている、スキルにはいろいろあるから相談する者が多いんだろう。俺たちは列の最後尾に並んで順番を待った。
「プリム、暇だから魔法の訓練をしよう。これができるか?」
「おお、これは可愛いらしいぞ」
俺は指先から氷を作り出し、ちょいちょいっと形を整えて氷のペガサスを作ってみた。以前、馬を気にいっていたプリムは俺が作りだしたペガサスを見てとても喜んだ。
「ああああ、溶けてしもうた。…………よし、我がもっとカッコよく作るのじゃ」
「細かい魔力操作の練習になるから頑張れ」
見本のペガサスは溶かしてしまうとプリムから残念そうな声があがったが、すぐに自分で作ることにしたようだ。魔力を器用に操作しながら、豚らしきものを作り出した。
「これは豚か?」
「馬じゃ!!」
実はこの魔法、魔力の操作が非常に難しい。小さな魔力操作の練習にはもってこいの魔法なのだ。
その後もプリムは様々な馬らしきものを作りだした、俺も対抗して兎や狼など様々な動物を作って時間を潰した。
半日ほどの時間が過ぎて、ようやく俺たちの順番になった。献金をしてから、プリムと一緒に一つの部屋に入っていく。
「ようこそ、迷える人よ。今日はどのようなご用件でこちらに?」
「その前に聞いておきたい、ここでの出来事は内密にできるんだろうな」
「うむ、秘密の話なのじゃぞ」
「ご安心ください、どのようなスキルを見たとしても私たちがそれを他に洩らすことはございません」
「それなら、いいが」
「うむ、安全が大事」
俺はその教会の神官に自分のギルドカードを見せてみた。にこにこと笑っていた神官だったがギルドカードを見たとたん、顔色がはっきりと変わるのが分かった。今の俺のギルドカードはこうなっている。
名前 :レイ
レベル:197
年齢 :22
性別 :男
スキル:剣術、怪力、魔法剣、全魔法、獣の目、毒無効、気絶無効、麻痺無効
石化無効、睡眠無効、即死無効、魅了耐性
魔王の祝福、神々の祝福、龍王の祝福
「俺たちに分からないのはこの祝福系のスキルなんだが」
「ああ、神よ!!」
俺がさっそく聞きたかったことを問うと、神官は天を仰いでしばらくの間そうしていた。それからハッとこちらを見て、また笑顔になって話し始めた。
「祝福と名のつくスキルは様々な恩恵を受けられます。魔王の祝福であれば魔法系の成長を促し、神々の祝福は全体的に能力が向上します。龍王の祝福は体が頑強になり、人間以外との種族と交流しやすくなります。そして、どの祝福でもレベルが上がりやすくなるのです。また神の祝福、神々の祝福では稀に神の声を聞いたという話もあります」
「……そうか、聞いた限りじゃ悪いスキルでは無いんだな」
「良かったな、レイ。我も安心したぞ」
とここで神官はお茶でも出しましょうと一度席を立った、俺たちは今まで分からなかったスキルのことが判明して安心した。
神官は茶器を一式持ってきて俺たちに勧めた。喉が渇いていたので、遠慮なく一杯ずつお茶を頂いた。少し甘いが悪くはない味だ。
「レイさまと申されましたね。貴方のスキルはとても貴重なものがありますが、それよりも貴方には大切なことがあります。貴方は到達者をご存知ですか?」
「ああ、レベルが99になった者たちのことだろう。もうそれ以上は成長しないのだと聞いたことがある」
「我も到達者でなければいいのう、レイと共にもっと強くなりたいからのう」
プリムはそういって座っている俺にもたれかかってきた、約半日外で立ちっぱなしだったから疲れているんだろう。俺はプリムの好きなようにさせておいた。
「到達者を超える者は神に選ばれた者たちです、貴方にも神々の祝福があるでしょう。そういった方々は神官戦士となって、この大教会にお仕えすることが多いです。あるいは故郷に帰られて、教会の代表を務めるかたもいます」
「へー、俺以外にもやっぱりレベルの枠組みから外れている奴がいるんだな」
「うむぅ、ふぁ~あ」
心のどこかで自分は特別だと思っているところがあった、だが世界は広い。俺のような人間がどこかに沢山いるようだ。
「それでどちらになさいますか?」
「はぁ?」
「うむ?」
神官は嬉しそうに笑って目を細めなら俺たちを見る、ひどく断定的な言い方をし始めた。
「ですから神官騎士となって大教会に仕えますか、それとも故郷に帰られて教会の代表になられますか?」
「いや、俺はどっちにもなる気はない」
「そうだ、レイはどちらも……ない……」
そこで俺は気づいた、プリムの様子がおかしい。いくら疲れていたとしても、こんな重要な選択の場面でいきなり眠り込むようなことはしないはずだ。
「おい、プリム!!プリム!?」
「ただの睡眠薬ですからご安心を、その子には後で孤児院を紹介したいと思います。レイ様自身の望みの妨げにならないようにしたのです。それでは神官騎士と故郷での教会の代表者、どちらの選択をされるのでしょうか?」
背筋をゾッと冷たい感覚が走って、俺はプリムを背負うと相談をしていた部屋から飛び出した。そこには、既に鎧を着こんだ神官戦士たちが待ち構えていた。
神官の台詞を一部追加しました。




