20 君の居場所
「ここからいよいよ魔国かえ?」
「そうだ、ケントルム魔国だ」
「ここがケントルム魔国か」
「なんだ、何か知っているのか?」
「我の勘違いじゃ、何も知らんわ」
「それじゃ、行くぞ。俺は初めての魔国になるから楽しみだ、ケントルム魔国と言えば始まりの六国の一つとも言われている歴史の長い国だな」
「神が作った六つの国じゃったか?ケントルム魔国もそうだったかのう」
「まぁ、そう言われているおとぎ話のような話だ」
ベルヴァ王国から駅馬車に乗って、国境近くでおりていよいよケントルム魔国へ俺たちは入ろうとしていた。人間の俺は魔国に入るのは初めてだ。魔族は見たことがあるけど多少耳が尖っていたり、髪や肌の色が変わっているくらいで人間と変わりがなかった。
このケントルム魔国ではどんな魔族に会うことができるだろうか。
「何と言うか普通だ、人間が結構歩いているし、奴隷の姿も見かけないな」
「ケントルム魔国は魔国の中でも人間との交流が盛んな国、そんなに変わったところではないぞえ」
「なんだ、やっぱりケントルム魔国を知っているんじゃないか」
「う、噂で聞いた程度じゃ。だから、どこまで本当なのかは知らぬ」
「まぁ、いいや。このケントルム魔国は二、三日で通り過ぎて目的地のボルカーン王国を目指すぞ」
「本当に少し通り過ぎるだけなのじゃな」
このケントルム魔国を通らないと、かえって遠回りで人間の国をいくつも通過しなくてはならない。それに比べれば魔国といっても二、三日ですむこの国を通ったほうが金銭的にも体力的にも有難い。
「レイ、早く宿屋を探すぞ」
「まだ昼間なんだが、随分と早いな」
「疲れたのじゃ、なんだか体がふわふわする」
「プリム、お前少しだが熱があるぞ!!」
急いで宿屋を見つけて個室を一つ借りた。疲労には回復魔法も効果があまりない。プリムを寝かせて薬を買いに行こうとしたが、肝心のプリムがそれを嫌がった。
「薬は要らぬ、ただそこにおってくれ」
「いいのか、まぁこのくらいの熱なら寝てれば治るだろうが」
いつものようにプリムを抱え込んで眠る体勢にしてみる、プリムはすぐに目を閉じた。俺も眠っておくことにする、睡眠無効の体でも眠ることが楽しいのには変わりがない。
「……レイ」
「なんだ、プリム」
何時間かして起きたプリムが声をかけてきた、まるで泣きそうなとても悲しそうな顔で俺に淡々と話をする。
「すまぬ、我は最初お主を殺す気じゃった」
「……そうか」
「そうすればもしかしたら、我の居場所を作って貰えるはずじゃった」
「……今もそれが欲しいのか?」
「今は要らぬ、こうしてレイの傍にいられるのが一番の幸せぞ」
「……それは良かった」
プリムは俺に抱きついてぐりぐりと頭を俺の胸に押し付けてきた、その頭を撫でてやっているとそのまま眠りにはいった。俺も寝ることにした、プリムは複雑な事情を抱えているらしい。
でも、最初の頃はともかく今のプリムは無理をせずに自分に素直に生きている。不思議だな実の弟に殺されかかったのは許せなかったのに、プリムに殺されかけたことはもう既に許してしまっている。
「ああ、そうか。今のプリムからは信頼されているからか」
俺の実の弟のパルスは俺を信用していない、いやアイツは誰も信用していない。ただ、便利なら利用するだけだ、そこには価値が有る物か無い物かの区別しかない。謝罪の言葉すら空虚で中身がなかった。
「プリム、お前を信じてるからな」
俺はプリムを信じている、戦いながら背中を預ける姿を。時々、本気で甘えてくる姿を。悪いことをしたと悔やんでいる姿を。そして何より俺を信用してくれているこの小さな女の子を信頼している。だからこそ愛らしく思い、この子を守りたいと心が騒ぐ。
その日は何もせずに静かに宿屋で二人して寝ていた、プリムの熱はいつの間にか下がっていた。そして、目が覚めたら前以上に遠慮せずに甘えてくるようになった。
「レイ、ケントルム魔国は魔国の中でも中心にある国でな。だから、人間との交流にも慣れていて多種多様な人族が住んでおるのじゃ」
「へー、どうりで通りや街並みが綺麗なはずだ」
「それぞれの種族が協力して良いところを活かしておるから、技術もずっと進んでいるのじゃ。二、三日で通り過ぎてしまうのが勿体ないのう」
「ボルカーン王国で用事を済ませて、気が向いたらまたくればいいさ」
「それもそうじゃの、今度のお楽しみだの」
「そうそう、楽しみはいっぱいあった方がいい」
たった三日間だけの滞在で俺たちはケントルム魔国を去った。奴隷制度もなく、人種によっての差別も少ない、とても素敵な国だった。
「次はいよいよ、ボルカーン王国か」
「レベル上げがはかどりそうだな」
「防具を作りに行くのではないのかや?」
「いや、プリムの剣もできるなら作っておきたい」
「それがどうしてレベル上げになるのじゃ?」
「知らないのか、いや俺も本でしか読んだことがない。まあ、行ってみればわかるさ」
あっという間に三日が過ぎて、俺たちはとうとう目的地のボルカーン王国へと辿り着いたのだった。




