02 自由への逃走
「あのメギストの剣をいただけないでしょうか、これから辛い世間を剣一本で渡っていく身。あの剣があれば故郷を思い出し、強く生きていけると思うのです」
この時、俺は多分一生分くらいの演技力をつぎ込んだと思う。普段は喜怒哀楽の薄い俺の哀しむ演技に親父はしばらく悩んでいた。
「パルスには才能がある、お前に家宝のこの剣をやっても怒りはしないだろう。持っていくがいい、もう一人の我が息子よ」
「ありがとうございます!!」
よっしゃ、もう聞いたからな。俺にメギストの剣をくれるとしっかりと聞いたからな、もう撤回は出来ないぞ。この剣はアダマンタイトで出来ていて、やたらと丈夫で買うとなると物凄い金額がかかるのである。
その晩、俺はさっさとメギストの剣を含めて荷造りし、生まれ育ったガルネーレ家を夜逃げした。そして、すたこらと駅馬車で隣国のディレク王国を目指して逃げた。そりゃもう一刻でも速く故国のムーロ王国を離れようとした。
「停戦条約をしていた魔王を倒して、魔王の軍勢が黙ってるわけないじゃないか。どうして、皆それがわからないんだ。…………俺にはその考えが分からん」
案の定、半月かけて俺がディレク王国に逃げ込むと同時に、セメンテリオ魔国から魔物の軍勢がムーロ王国に攻め入ってきたそうだ。
ムーロ王国では勇者パルスを代表して、なかなか善戦しているらしい。まぁ、俺にはもう関係のないことだけどね。
ぎゃあああぁぁぁぁぁっぁぁぁあぁ!!
「はい、ほい、ほいっと」
ディレク王国に来た俺は相変わらずゴブリン退治なんかをしていた、時にはそれがオーク、オーガ、サイクロプス、ヒュドラなんかになることもあった。ああ?討伐対象がおかしいだろうって?だって俺の冒険者プレートはこうなっているからな。
名前 :レイ
レベル:122
年齢 :22
性別 :男
スキル:剣術、怪力、魔法剣、全魔法、毒無効、気絶無効、麻痺無効、石化無効
睡眠無効、即死耐性
俺は地道にコツコツと何かをやることが好きなのである、そしてレベルを地味に上げていったらこうなった。俺は死にたくはなかったので、あの毒無効という項目を見てから敵は我が家にいると知った。具体的に言えば弟だよ、勇者パルス君だよ。
レベルは戦えば必ず上がるんです、努力が形になるって素晴らしい。努力以外にもいろいろと画策したけどな、あの家宝のメギストの剣とか随分前からこっそり別の剣とすり替えて使いまくってた。そうしないと俺の怪力では普通の剣は折れるんだよ。
毒は何故か腹を壊すたびに耐性があがって、知ってのとおり毒無効になった。
騎士団の模擬戦で意識が飛びそうな攻撃を受けて、何度も無理やり起き上がってたら気絶は無効になった。
麻痺はやっぱりお腹をこわすたびに耐性がついていって麻痺無効になった。
石化無効はバシリスクやコカトリスと戦うたびに、石化した部分を魔法で回復していたからだ。
夜も寝る間を惜しんで魔物狩りや鍛錬していたら、睡眠無効になった。
即死耐性は俺だけに落ちてくる植木鉢を避けたり、街で襲ってくる暗殺者を撃退していたら、いつの間にか即死耐性がついていた。
両親を説得?一応はしようとしたさ、一度もまともに聞いて貰えなかったけどな。弟のパルスの才能に二人して夢中だったよ、知ってるか俺って一人も許嫁がいないのに、弟には妾もふくめて五人も女がいるんだぜ。
「………………うちの両親、駄目だわ」
もういずれ俺は廃嫡されるのが明らかだったから、死に物狂いでレベルをあげて鍛えたよ。人間って死ぬ気になって、そしてそれが好きなことだと驚くほど集中できるもんだ。結果として俺はランク白金にも匹敵するほどの性能になった……と思う。
「いや、本当に俺がレベル上げが好きで良かった」
弱い魔物を倒してコツコツとレベルを上げていく楽しさ、偶にはちょっと強い魔物と戦ってレベルを大きく上げる喜び。あれは経験してみないとわからんね、それに一度夢中になると夜も碌に寝ないでレベル上げに勤しんだよ。
ギルドの方では倒した魔物の素材は売ってたけど、ギルドカードは見せないようにしていた。へたに高レベルなのが知れて、面倒なことには関わりたくないからな。だからこそ危険でも仲間を作らず、たった一人でレベルを上げていたんだから。
「今日もレベルを上げよう、今からは身に迫る死の恐怖からじゃない。ただの趣味としてレベルを上げていくんだ、んん?」
貴方の目の前にいきなり一人の獣人が倒れています、貴方はどうしますか?
ほっとく
介抱する
止めを刺す
倒れていたのは耳付き尻尾付きの狼少女でした、………………だから何だというのか。えーと、基本的にディレク王国では獣人への差別が禁止だったはずだ。これからしばらくディレク王国の民として過ごすわけだから、俺としては彼女を見捨てるわけにはいかないな。
とりあえず、助け起こして水筒から水を飲ませました。ごっきゅごっきゅと喉につまらせることもなく、豪快に水を飲んでくれました。白い髪に赤い瞳をした女の子です。ちなみに俺は黒に近い茶色の髪に同じ色の瞳だ、この子みたいな白い髪に赤い瞳なんて色彩は珍しい。
「なんだ人間、これくらいで恩にきたりしないからな」
どうも面倒くさそうな狼少女を拾ってしまったようです、でも顔にはいつもの無表情をはりつけておきました。表情筋を動かすのも結構大変なのです、必要な時以外には使いたくありません。
「俺はレイ、君は誰だい?」
「我はプリムローズだぞ、人間。我が名を聞いて感謝するがよい」
再度言おう、やはり面倒くさそうな狼少女を拾ってしまったようです。まぁ、拾ってしまったものはしかたがない、俺は持っていた干し肉をその子にあげた。ガジガジと勢いよく齧ってくれた、喉につまらせないように時々水を飲むように促した。
さてはて、これから一体どうしようか?