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19 扇動者


「ぱ、パルスか?どうしてお前がここに!?」

「やだなぁ、兄さん。もちろん、勇者として同盟を結ぶ為にここにいるんだ」


俺は久しぶりに見る弟の姿に動揺した、前に見た時よりも背も伸び体もしっかりとして美男になっている。これならば敵国の王女が結婚したがったのも無理はないかもしれない。


「兄さんにも苦労をさせたけど、是非僕たちの国に帰って来て欲しい。父さんや母さんも喜ぶよ」


そうか、こんな俺が家に帰ってもいいのか。それで父さんや母さんも喜ぶんだろうか。分からない、そうする方が良いことなんだろうか?


「競技場での戦いもすごかった、僕は兄さんがあんなに強いなんて知らなかった」


当たり前だ、それは隠していたからな。なぜだ、なぜ俺は強さをわざわざ隠していたんだろうか。いや、そんなことどうでもいい。そうか、本当にどうでもいいことか?


「いずれはじまる他国との戦いにおいて、兄さんの力は重要なものになると思う」


俺は力を隠していた、それなのにどうして他国と戦う、どうして他国と戦うんだ?おかしい、何かがおかしい。これは俺の考えではない、では誰の考えだろう。


「だから帰って来てくれるよね、兄さん。僕らは仲が良い兄弟だから当然だよね」


帰る、仲が良い兄弟のパルスのところへ帰る?そう俺たちは仲が……いい……?


仲がいい!?ふざけるな、俺を殺しかけた弟のところになんか、どうして帰らなければならないんだ!!どうせ何かに利用されるだけじゃないか!!


「パルス、俺は廃嫡され既に国を捨てた身だ。今後もムーロ王国に帰ることはないだろう」

「そんな、兄さんの力は必要なんだよ。今は魔族も僕のおかげで大人しくしているけどいつ何があってもおかしくない」


「セメンテリオ魔国とムーロ王国の問題はもう俺には関係のない出来事だ、だからお前の要望には応えられない」

「…………そうか、残念だけど仕方がない。父さんと母さんにもそう言っておくよ。だけど、不思議だね。今まで大切な人の説得に失敗したことはなかったんだけどな」


「もういいか、俺は疲れた」

「ああ、ごめん。兄さんは今日沢山戦って疲れていたんだね」


パルスとの会話を終えると俺は非常に疲れていた、ふと見るとプリムが心配そうに俺の後ろから服を引っ張っている。俺はその視線に大丈夫だと頷いた。


「兄弟同士の再会は終わりましたかな?」

「はい、カーレッジ王。結果は不本意ですが、生き別れていた兄と再会できたことは幸いです」


俺は慌ててカーレッジ王から距離をとって、頭をさげ膝をついた。パルスはムーロ王国の使者かもしれないが、俺はただの闘技場の優勝者だ。プリムも俺に隠れるように同様の臣下の礼をとっていた。


「ああ、そういう礼は必要ない。立ちなさい、闘技場でのそなたの雄姿。力に溺れて気が抜けていた我が国民に良い薬となっただろう、これが優勝賞金だ」

「はっ、光栄に存じます」


俺は優勝賞金を受け取った、これでもうここには用が無い。さっさとプリムをつれて退散したいところだ。


「しかし、パルス殿は良い兄君をお持ちだ。レイ殿はさぞかし高い地位におられるのだろう」

「いえ、私は廃嫡され家を出た身です。地位や身分はもっていません」


「なんと勿体ない話だ、我がベルヴァ王国では力を尊ぶ国でもある。望めば何らかの地位につけることもできるが?」

「いいえ、私は今の自分をもっと鍛え上げたいと思っています。それには旅が必要なのです。大変光栄なお話ですが、どうかそれはなかったことに」


「そうか、それは残念だ。機会があったらいつでも我が国へ参られよ、強き者は歓迎するからな」


こうして俺とカーレッジ王との対面は終わった、その後パルスを交えて食事をしていくように勧めたられたが全力で断った。俺はどうもあの不気味な弟には近づきたくない。


「レイ、危なかったぞ。我も一時はくらくらしたわ、レイがおらなんだらどうなったことか」

「なんの話だ、プリム?」


「ギルドカードを見てみるとよい、お前の弟は恐ろしく胆力のある奴じゃ」


俺は自分のギルドカードを取り出して見てみた。


名前 :レイ

レベル:168

年齢 :22

性別 :男

スキル:剣術、怪力、魔法剣、全魔法、獣の目、毒無効、気絶無効、麻痺無効

    石化無効、睡眠無効、即死無効、魅了耐性

    魔王の祝福、神々の祝福、龍王の祝福


新たに魅了耐性が加わっている、さっきのおかしな思考の流れはそれが原因か!?いやまてよ、パルスはきっとこの自分の力を知っている。知っていながら、よその国の王族たちに使っているのか!?一歩間違えれば無礼討ちにされても仕方がない行為だ。


魅了という攻撃は魔物がもっていることも多いが、人間でも魅力のある者が後天的に手に入れることもある。失敗した時にはそうやって言い訳しているのだろうか、大胆で卑劣な手を使う恐ろしい弟である。


「以前に俺に使わなかったのは、パルスにとって利用価値がなかったからか」

「……レイ?よくわからんがあの弟の虜にならんで良かったのう」


プリムのギルドカードにも魅了耐性が追加されていた、お互いにほっと一安心をした。


名前 :プリムローズ

レベル:43

年齢 :15

性別 :女

スキル:剣術、全魔法、毒無効、石化無効、魅了耐性

    龍王の祝福


それから数日経ったがベルヴァ王国とムーロ王国との同盟という噂は流れてこなかった。カーレッジ王が見事にパルスの魅了攻撃をはねのけたのか、それとも元々魅了への耐性持ちか無効化ができたのだろう。王族はいろんな誘惑が多いだろうから、魅了への対策くらいしているのかもしれない。


計算高い弟は相手を選んで能力を使っている。パルスがその後どうなったかはわからない。しかし、きっと何らかの方法で生き延びている。王が元々、魅了耐性や無効を持っていたら魅了されたことに気づいていない可能性もある。……もうあの恐ろしい弟のことは忘れてしまいたい、関わりあいになるときっと碌なことがない。


俺はプリムと都を歩きながら、余計なことは考えないことにした。


「最近、店や宿屋での対応がよくなったな」

「レイが闘技場で優勝したからじゃ、あれから獣人だけでなく人間が見直されているという話になっておるぞ」


ベルヴァ王国は人間を見下すような傾向以外は良い国だった。活気もあるし、街道や市場も綺麗に整備されている。


今のように人間が見直されているなら、またこの国に来てもいいかもな。良くも悪くも素直な国民性なんだな。

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