17 奪われるもの
「闇属性の魔法は何かを奪いとる魔法だ、例えばこの水から熱を奪い取ってみると氷に変わる。プリムの苦手な属性らしいけど頑張って覚えるんだ、魔法は全属性使えた方がいいからな」
「むう、分かった」
俺たちはフォルクス王国からベルヴァ王国への駅馬車に乗っていた、また時間が勿体ないのでプリムに魔法の訓練をさせる。
それと同時に俺も魔法の訓練を開始した、自分の魔力でできた薄い結界をできるだけ広げて追跡者がいないかを探る。今のところは怪しい人物はいないようだ、この探索の魔法は慣れればその内側のことをまるで目で見たように知ることができる。便利な魔法だ。
「おお、レイ。ほんの少しだが凍ったぞ」
「うん、魔力の操作はそれでいい。後は慣れだな、練習しろ」
プリムの言葉に返事をしながら索敵の魔法はきらさないようにする、二度とこの子を攫われてなるものか。用心には用心を重ねておいても悪く無い。
駅馬車がフォルクス王国の最果て、ベルヴァ王国にもっとも近い街に到着した。今晩はここで宿をとって明日は国境越えだ、魔法に集中しているプリムに声をかける。
「プリム、練習はそこまでだ。宿探しをするぞ」
「ふふふふふ、闇魔法もできるようになった。我を褒めてもよいぞ」
プリムが笑顔で可愛いことを言うから、その頭をなでまわしてやった。狼耳をかいてやるのが気持ちいいらしい、プリムは赤い顔をして満足気だった。
「フォルクス王国ともお別れか、次のベルヴァ王国とはどんなところかえ?」
「王が獣人だと聞いている、おかげで獣人にとっては住みやすい国のようだ」
「それは面白いものが見れそうだの」
「獣人にもいろいろといるからな」
その晩は宿屋で一緒に眠ったが、プリムがマーキングと言ってぎゅうぎゅう抱きしめてきた。俺だから問題ないが、レベルが低いやつだったら悲鳴をあげていそうだ。他の者には手加減をするように注意しておこう。
次の日は駅馬車ではなく歩きの旅だった、駅馬車は基本的に国内でしか走っていない。国同士をまたいで移動するのは商人か、俺たち冒険者くらいのものだ。
「レイはどんな獣人が好きかや?」
「常識があって、話が通じる奴が好きだ」
「それは人間でも同じだの」
「相手がなんの種族にしろ、話を聞かない奴は面倒くさい」
国境まで歩きながらそんな他愛もない話をする、プリムも結構体力がついたからこのくらいの移動は問題ない。
「レイは許嫁はいなかったのかえ?」
「……いなかったな」
「その答えに対する間はなにかや?」
「いや、俺にはいなかったけど、弟には五人もいたもんで」
「変わった弟だのう、いや貴族なら当然か」
「あれっ、俺は実家が貴族だと言ったか?」
「立ち振る舞いを見ていれば分かることよ」
「そうかな、随分冒険者らしくなったと思ったんだけどな」
そうして話しているうちに国境に辿りついた、軽く身体検査を受けてギルドカードを名前だけ見せて通行料を支払う。
「通行料は獣人は銅貨5枚、人間は銀貨1枚だ」
「そうか、わかった」
「ほう、種族によって違いがあるのかや」
種族によって違いがある国はあまりいい思い出がない。俺は嫌な予感がしたがプリムは獣人族だし、大丈夫だと判断して国境を越える。
「プリム、少し抱き上げて走るぞ。日没までに次の街につきたい」
「うむ、しっかりと捕まっておくぞ」
国境を越える前に昼が過ぎていたので、俺はプリムを抱き上げて街道を走った。プリムを抱き上げていることで、丁度いい鍛錬にもなった。プリムは使えるようになった闇魔法の練習をしていた。
「門が閉まる前に間に合ったぞ」
「さすがはレイじゃ、褒めてつかわす」
ここでも通行料を払って、ギルドカードを名前だけ見せて街に入る。すぐに宿屋探しだ、幸いベッドが一つの一人部屋がとれた。プリムとはどうせ一緒に眠るからベッドが一つでも問題ない。
「明日からはまた駅馬車かえ?」
「そうだ、ベルヴァの都まではそうなるな」
「おやすみ、レイ」
「ああ、おやすみ。プリム」
その晩もいつものようにプリムと一緒に寝た、異変があったのは真夜中のことだ。無断で部屋に入ってくる者がいたので、剣をその首筋につきつけてやった。
「誰だ、お前達は?ここは俺たちが借りている部屋だぞ」
「ふぁ~あ、夜中に安眠妨害だのう」
魔法で灯りをつけてその姿を確かめれば、この国の兵士たちだった。兵士ともめると碌なことがないので、一応突きつけた剣は下ろして事情を聞いてみた。
「人狼の少女が誘拐されていると通報があった、……だがその様子だと間違いのようだな。眠っているところ悪かった、失礼する」
話を聞いてみるにこの国では人間の扱いが軽いようだ、やれやれと思いながらプリムを抱え直して眠りについた。
「レイには面白くない国よのう」
「差別はされる側になるとよく分かる、偶にはこんな国もいいだろう」
プリムと宿屋で携帯食を温めて食べながら、俺はこの国は早くでていった方がいいだろうと考えていた。差別が迫害に変わるのはあっという間だからだ。
俺たちは駅馬車に乗ってベルヴァ王国の都へと何日かかけて到着した。