15 油断
俺の故国ムーロ王国が戦争をしていた、セメンテリオ魔国と平和条約を結んだと人の噂で聞いた。なんでも勇者パルスくんが相手国の王女と結婚して、条約締結にまで至ったそうだ。
「………………最初から王女と通じてたんじゃないか?そして、戦争で自分たちに邪魔な者を全て始末した。………………なんて、まさかな」
「レイ、どうかしたかえ?」
「うーん、家族が元気でやってるらしいっていう話だ」
「……そうか、それは良いことだの」
プリムは自分の過去を話したがらない、俺も特に聞く気はない。以前に一度聞いた時に雰囲気が悪くなったからな、同じ過ちはしないんだ。
「今日はどうするかや?」
「そうだな、偶にはレベル上げを休んで、このフォルクスの都を見て回らないか?もうすぐここを離れるわけだしな」
「美味しい物があるのよいのう」
「野菜や果物などを買いだめしておこう」
俺たち二人はフォルクスの都にある市場までやってきた、週に何回が通常の市とは別に露天商などが出ている場所だ。様々な物が売ってあり、そこにいる人種も変わっていた。
「はむ、はむ、この兎の串焼きは美味いのう」
「俺はこっちの鳥肉がいいな、歯ごたえがある」
買い食いしながらのんびりと市場を見て回る、途中でキャベツや玉ねぎ、芋にかぶなどの野菜を買って『無限空間収納』に放り込んでおいた。
「はわわ、この冷たい氷菓子も美味いのう」
「どうやって作ってるのかな、魔法で再現できるかな」
細い氷が一杯に入った甘い氷菓子を二人で食べる、器も固焼きしたパンでできていて氷菓子がしみ込んで甘くなったところを食べると柔らかくなって美味かった。
他にはりんごなどの果物を大量に買って、『無限空間収納』に入れていく。この魔法は本当に便利だ。
「おお、レイ。あれは魔法書ではないかや?」
「古本屋らしいな、ちょっと見ていくか」
市場の片隅にいくつか古本屋が出ているので手に取って見てみる。ほとんどは知っている魔法だが、中には知らない魔法書もあった。
「金貨10枚」
「いや、金貨5枚だ」
「金貨8枚」
「金貨5枚だ」
「金貨6枚~!!」
「金貨5枚だ」
「畜生、金貨5枚だ。持ってけ、この野郎」
「では金貨5枚だ」
値切りに値切って珍しい魔法書を手に入れた俺は、プリムの姿が見えないことにきがついた。さっきまでは俺と同じように魔法書を見ていたのにどこにも姿が見えない、俺は市場をまわってプリムを探した。
「プリムー!!どこだ――!!」
かなりの時間探し回ったが見つからない、なら宿屋に帰ったのかと思って戻ってみたがプリムの姿はなかった。
「迷子ということはないだろう、ならば誘拐でもされたのか。……冒険者ギルドに行って情報を集めてみるか」
冒険者ギルドに行ったらすぐに職員さんが探し人の依頼書を作ってくれた、俺は都から連れ出された可能性も考えて門兵のところへも行ってみた。
「聞きたいことがあるんだが、白い髪で赤い瞳をした狼少女がここを出ていかなかったか?」
「おい」
「やっぱりあれは」
「誘拐かよ」
「ちょっとおかしかったよな」
「どうする」
門兵は基本的に入ってくる人間を調べて通行料をとるのが仕事だ、都からでていく者には注意をはらわない。俺は金貨一枚見せてから、問いかけた。
「一番、詳しい情報をくれた者にこれをやる」
「さっき、大男と一緒に出ていったぞ」
「隠してはいたが、あれは人狼だよ」
「だから、仲間かと思ったんだ。女の子は眠っていたし」
「人狼なら、ここから東にある森の奥に集落があるぞ」
「地図を書いてやる、ほらっここだ」
門兵たちが素直に話してくれたので特別に金貨を一枚ずつ渡しておいた、もし他に情報があったらまた喋ってくれることだろう。
俺は丁寧に書いてくれた地図を見ながら、日が暮れ始めたフォルクスの都を出ていった。魔法の灯りをたよりに目的の場所に進んでいく、夜の森は危険が多いのだがプリムが関わっているのなら仕方がない。
「無事でいてくれよ、プリム」
夜の森は暗く見えているのは魔法の灯りの範囲だけだった、俺は方角を見失わないようにしながら森の奥へと慎重に進んでいった。
「ええい、邪魔だ!!」
途中でエビルバッドなどに襲われたが剣で一閃する、今は何より時間が惜しい。一体何の目的でプリムを連れ去ったのかわからないが、意識を奪ってまでとなると嫌な答えしか思い浮かばない。
昔、鍛錬として暗い森に行っていたことが役にたった、どうにか俺は方向を見失わずに人狼の集落に辿り着いたのだ。
タイトルをちょっと変更してみました。
冒頭の主人公の台詞をご指摘により修正してみました。