10 お買い物
「レイ、これは何だ?」
「体の大きさを測ってるんだ、動くな」
「そうだぜ、嬢ちゃん。じっとしててくんな」
プリムをつれて俺たちはフォルクス王国の防具屋に来ていた。今までは俺が作ったオーガのありあわせの防具だったが、これを機会にもっと良い物を作って貰うのだ。
プリムは武具屋のドワーフに触れられるのが苦手なのか、もぞもぞと動いては居心地が悪そうにしていた。
「こそばゆくて仕方がなかったぞ、レイ」
「我慢しろ、防具は体にあった物の方がいい」
「嬢ちゃんは変身するだろうから、その時には簡単に外れるやつがいいだろうな」
俺は防具屋の親父が言ったことに首を傾げた、そうか獣人って基本的に変身するもんな。見たことはないが、きっとプリムも変身するんだろう。
「それじゃ、その方式の防具で材料はサイクロプスの皮があるから使ってくれ」
「ひゅー、贅沢だな。だが、嬢ちゃんはまだまだ大きくなるぞ」
「それも考えて、ある程度は調節できる物を作ってくれ」
「よっしゃ、三日ほど待ってな。良い物作ってやるよ」
代金として金貨5枚を支払う、これだけあれば一カ月は宿にも食事にも困らないくらいの額だ。
「レイ、少し金を使い過ぎではないかや?」
「いいんだよ、防具は大事なものだからな。以前から考えてたんだ、しっかりとした物が作りたいってな」
俺がそう言うとプリムは頭をぐいぐい俺の背中に押し付けてきた、プリムなりの愛情表現らしい。その頭を撫でてやって、次は武器屋に向かった。
「武器の手入れをお願いしたい、俺とこの子の分だ」
「おうよ、こりゃアダマンタイトの剣か。うーん、丁寧に手入れしてあるから、今のところは心配ねぇな。もう一つは普通の鉄剣だな。ちと傷が激しいから買い直した方がいいぜ」
「予算は金貨5枚程度で」
「そんじゃ、このあたりだな」
「プリム、好きな剣を選ぶんだ。握って振ってみてしっくりくるやつがいいぞ」
武器屋は何本かの剣を出してきた、プリムは全ての剣を振ってみてその中から一本の剣を選んでいた。また背中にぐいぐい頭をおしつけてきた、可愛いので多少痛かったが許した。
「それじゃ、防具ができるまでは無理せずにゴブリン狩りにでも行くか。冒険者ギルドにも顔を出しておかないとな、オーガの皮とか売却しないと」
「うむ、ゴブリン狩りじゃな。腕がなるの」
今度は冒険者ギルドに顔を出した、まずはオーガの皮や魔石など貯めこんだいた素材で売ってもいいものを売却する。
「ギルドカードを出してください」
「カードはなし……いや、プリム。ギルドカードを出してくれ」
俺はいつもレベルが高過ぎておかしいと思われるのを避けていた。今回もそうだ、だからプリムのカードで取り引きをした。
「レ、レベル40!?むぐっ」
「おいっ、守秘義務の規則違反だぞ」
「なんだ我のカードがどうかしたか?」
俺は慌ててギルド職員の口を手で塞いだ、こういう迂闊な奴がいるからギルドカードが使えないんだ。プリムはこの前、不愉快な奴隷商人の護衛を何人か倒した。だから、ギルドカードはこういうふうになっている。
名前 :プリムローズ
レベル:40
年齢 :15
性別 :女
スキル:剣術、水魔法、光魔法、風魔法、火魔法、土魔法、毒無効、石化無効
ちなみに俺はこうだ。
名前 :レイ
レベル:143
年齢 :22
性別 :男
スキル:剣術、怪力、魔法剣、全魔法、毒無効、気絶無効、麻痺無効、石化無効
睡眠無効、即死無効、魔王の祝福、神々の祝福
レベルが上がっているのはいいのだが、神々の祝福というまた謎のスキルがついていた。そのせいか妙にレベルの上がりが良い。俺のギルドカードは絶対に見せられない、せっかく冒険者やっているのに実績が記録できなくて勿体ない。
「すみません、買い取りですね。えーとオーガの皮にミノタウロスの角に……」
買い取りが完了するまでしばらく待たされた、結局は金貨150枚で買い取って貰えた。小さな家なら買えるような金額だが、良い剣の一つも作ればなくなってしまうという恐ろしい罠もある。プリムが今後成長した時の為に貯蓄にしておきたいところだ。
「さて、ゴブリン退治の依頼はあるかな?」
「あった、あったぞ。レイ、ここから南の森に出るそうだぞ」
俺たちは場所だけ確認すると依頼を受けずに冒険者ギルドをでていこうとした、俺たちのしたいことはレベル上げである。依頼を受けてしまうといろいろと制限が出てきて面倒なことになるのだ。
「おい、その依頼は僕たちが受けるからな」
「そうよ、あたしたちが先に見つけたんだから」
「余計なことはしないで欲しいわね」
冒険者ギルドを出るときにやたら挑戦的な声がしたような気がするが気のせいだ、ここは気の荒い冒険者も多いから長居はしないに限る。
ぎゃがああああぁっぁあああぁ!!
「うむ、新しい剣は良いのう。はああああ!!」
「プリム、油断は禁物だぞ」
さっそく見つけたゴブリンを一刀両断しながらプリムが楽しそうに頷く。ああ、わかるぞその気持ち。レベル上げって楽しいもんな、特に低レベルの時は強くなっていく実感が心地良い。
逆を言えばある程度レベルが上がるとそれで皆満足してしまう、だからこの世界には一部を除いて高レベルの騎士や冒険者がいないのだ。レベル上げの楽しさが伝わってない、確かになかなか上がらない時は単純作業みたいになって空しいこともあるけどさ。
そろそろプリムは俺の弟であった、勇者パルスくんにも届きそうな勢いで成長している。そんなパルスに敗れた魔王ってどんだけ弱かったのか、いやどれだけ卑怯な手を使われたのか、パルスのことだからきっと後者だな。
きゃああああ!!
俺たちがゴブリンを退治して反省会などやっていると、切羽詰まった悲鳴が微かにどこからか聞こえてきた。
次回から一日一回更新になります。
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