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01 勇者のお兄さま


むかし、むかし、とあるところに仲の良い夫婦がいたとさ。


母親の方は魔法使いで、宮廷にもあがったことのある才女だった。


父親の方は剣術を極め、王国騎士団を率いる立場という人だった。


さて、その夫婦の間に最初に生まれた子にどういう教育をしたでしょう?


「レイ、魔法の練習は欠かさないのよ。毎日、魔力を使って魔力の総量を増やしていくの。これは早く始めれば始めるほどいいから、今日からすぐに始めるわ。魔法を使うために必要なのは魔力、使う魔法への想像力、そしてそれを解き放つ魔力操作よ!!」


「レイ、剣術の練習は毎日欠かすことができない。毎日、毎日、基礎訓練は何より大切だ。これで体力もつけることができる、今日からすぐに剣術の稽古をしてやろう。素振りや基礎訓練だけじゃだめだ。対人戦の経験を沢山つんでもらうからな」


「………………はい」


その頃はまだ意思のはっきりしていない、ついでに言葉の意味もあんまりよく分かっていない三歳児だった。レイ・ガルネーレ君。つまり俺は意味がわからないまま、両親二人の愛情という名の鬼の特訓を受けて育った。


その結果がどうなったかって?


魔法は一応習得できた。魔力の総量は多くもなく少なくもなく普通、初級魔法なら詠唱を必要とせずに使えるくらいの魔法使いには育った。


剣術も一応習得できた。才能は凄く沢山あるわけでもなく少ないわけでもなく普通、同年代の子と戦わせたら多分2回に1回勝てるくらいには育った。


とここで俺の両親は教育の成功と失敗に気がついた。魔法も剣術もそれなりにそこそこできるが、これといって特化した部分が俺にはなかったのである。


「あば~、あううう~」

「まぁ、可愛いわね。レイ、貴方の弟になる名前はパルスよ」

「うむ、俺に似ているしな。レイ、弟を可愛がってやれよ」


そんな第一子の教育に失敗した夫婦に七年経ってまた子どもができた。俺という失敗例を生かして、今度の子には剣術を中心に教えていくことにしたらしい。


そして、生まれた俺の弟は天才だった。


剣術を覚え始める年になると同時に、すくすくと育って最終的には父親でも構わずに倒せるようになっていった。また、それなら魔法を覚えてみるかという話になると、魔法にも才能があったようで中級くらいの魔法までならすぐに覚えてしまった。


「兄さん、こんなこともできないの?だっさー、あっはははは!!」

「………………うるさい」


ただし、遅くに出来た子を可愛がり過ぎた両親のせいで性格は少し歪んでしまったらしい。俺はよくいじめられたものだ、そしてやりかえすと当然こうなる。


「貴方はお兄ちゃんなんだから我慢しなさい!!」

「兄なのに謝る弟を許せないの!!」

「どうして弟を可愛がれないの、こんなに良い子なのに!!」


俺が成人する十五歳になる頃には両親の愛情は八歳の弟が独り占めしていた。それなりに悲しかったような気もする、……どうも俺は喜怒哀楽が薄いらしく実はそんなに悲しいとも思わなかった。ただ、ちょっとうっとおしかっただけである。


長男である俺が成人したわけだが、親父はまだまだ現役の騎士団長だった。だから我がガルネーレ伯爵家では特に変化は無かった、強いていえば俺が外の世界に遊びに行くようになったことぐらいだろうか。


ぎゃああぁぁあぁぁぁぁあああぁ!!


「はあ!!」


俺は気合を入れてゴブリンを数匹斬り捨てる、更に襲い掛かってくるものは魔法で風の刃を創造して切り裂いた。


「ふぅ、ゴブリン相手ならこんなものか」


その頃に俺は親には何も言わずに冒険者登録もしていた、そこでプレートという古代のアーティファクトを入手してみた俺の情報がこれである。


名前 :レイ・ガルネーレ

レベル:12

年齢 :15

性別 :男

スキル:剣術、怪力、魔法剣、全魔法、毒無効


ちなみに平均的なこの世界の人間のレベルが10だと言えば、俺の平凡さがよく分かるだろう。冒険者ギルドのお姉さんもプレートを見た時、特に驚いたようなことも無かった。


それより俺は毒無効のスキルがついていることに驚いた、一体いつの間に俺は暗殺対象になっていたのだろうか。特に腹を壊したり、寝込んだりしたことは……あったな。弟が来てから、何度もあった。


「………………俺は死にたくないぞ」


それから七年、俺は騎士団に入り休みの日は冒険者をやっていた。ぼけっとしている俺であるが、嫌な予感がヒシヒシとしていたからである。そして、その予感は現実のものになる。


「勇者パルス様!!」

「悪の魔王を倒した、勇者様!!」

「我がムーロ王国に幸あれ!!」

「偉大な勇者様に祝福を!!」


やってくれましたよ、うちの弟のパルスは騎士団や教会、魔術師会の中から少数精鋭を連れて隣国の魔王セメンテリオを倒してきてしまったのである。ちなみにその時、弟が頼みもしないのにみせてくれた騎士団のプレートがこうなっていた。


名前 :パルス・ガルネーレ

レベル:54

年齢 :14

性別 :男

スキル:剣術、炎魔法、水魔法、神の祝福


レベルが50超えとか普通の人間じゃない。それからスキルの神の祝福とかどういう効果なのか意味が分からない。


とにかく弟は魔王を倒してしまい国の英雄となった、それと同時に俺はガルネーレ家から追い出されることになったのである。


「お前よりもパルスの方が才能も功績もありガルネーレ家の跡継ぎにふさわしい、またパルスの妾に子どもが数名生まれている。よってお前を廃嫡として、パルスに私の跡を継いでもらおうと思う。……お前もただ家にいるだけなのは辛かろう」

「…………分かりました、父さん。俺はこの家を出ていきたいと思います。……ただ、一つだけお願いがあります」


「なんだ、何でも言ってみろ」


長男である俺を家から放り出す罪悪感からか、父親は静かにそう言った。

コメントでご指摘のあった廃嫡に関する部分を修正してみました。誤字と句読点を修正してみました。

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