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夢への招待状

 これは、小さな男の子と一人の少年のお話。


 ぼくは何となく重い足をゆっくりと動かして道の隅を歩いていた。

 ――――――何がそんなに楽しいんだろう? 

 灰色の空から小さな氷の結晶がちらほらと降っている。たくさんの人が楽しそうに話ながら、ぼくの横を通りすぎた。

 ――――――どうせ、こいつ(・・・)が全てを壊してしまうと言うのに。

 ぼくの服の下に隠された時限爆弾(こいつ)を睨む。


「ちょっとそこの君、何怖い顔をしているのかな?」

 唐突に話しかけられたぼくは、びっくりして顔をあげる。

 左右が赤と青にわかれているチェック柄ベストに白いブラウスという身軽な服。裾を絞った黄色のパンツに茶色のショートカットブーツと……冬に似つかわしくない派手な格好。銀色のセミショートの髪の上に黒い大きなシルクハットを乗せた中性的な容姿をした美少年が、しゃがんでぼくの目の前で笑いながら手を振っていた。

 ――――――どうしてこんなに派手な人が近くにいることに気づけなかったんだろう……?

 白黒の景色に突如現れた彩り豊かな少年は、ぼくの頭を撫でる。

「迷子になっちゃったのかな?」

「……なんでも……ない」

 ぼくは顔を横にそむける。

「もしかして、パパかママとけんかしちゃったのかい?」

 正直、にぎやかに話しかけてくるこの人がうっとうしくて、離れたかった。

 だが、それを引き留めたのはこの人の暖かい手だった。ぼくの手を優しく握っている。振りほどこうと思えばできるけれど、何となくしたくないと思った。

「悪い子は、サーカスがつれていっちゃうよ?」

「さぁかす?」

 それは、初めて聞く言葉だった。

「そう。サーカスっていうのはね、パンダが玉乗りしたり、ライオンが火の輪をくぐったり、高いブランコでくるくる回ってみせたり、いろんなマジックを見せてくれるところだよ」

 聞いたことのない言葉ばかりで、頭の中が混乱する。はてなマークばかりだ。

「んまぁとにかく――」

 この人はぼくから片手を離すと、ズボンのポケットから1枚のカードを取りだし、上に投げあげる。

「――楽しいところだよ」

 キャッチすると、コインの膨らんだ感じのものになった。電灯の光にきらきらと銀色に輝く。

「悪いことをしたら……楽しいところに行けるの?」

「いや、そうじゃあないんだけど……」

 この人はそれを「プレゼントだよ」と、ぼくの胸辺りにカチャカチャと取り付ける。

「パパやママと別れて暮らすのは、寂しいだろ?」

 ぼくの耳には、あまりこの人の言葉は届いていない。ただ、『さぁかす』という不思議と心地のいい響きを持つものに夢中だった。よく分からないけれど、なぜかわくわくしている。

「さぁかすは、どれ?」

 少年はにこりと笑うと、ぼくの腰辺りを掴んでひょいと持ち上げる。

「見てごらん」

 ぼくの体を山の方へ向ける。

「あっちの方に、光が見えるだろう? あそこに、サーカスがあるんだ」

 そう言って、ぼくを地面に下ろす。


「よければ、家族と一緒においで。今夜限りの、素敵な夢の世界へご招待するよ」


 少年はぼくへと真っ直ぐ手を伸ばす。こっちにおいで。と、言いたげに。 


 どこからか『ピピピッ』という音がする。

 その音にぼくはびくっとして、思わず目を瞑る。

 だけれど、その音はぼくの服の下からではなかった。

「ごめんね。僕はもう、戻らないといけないから。おまわりさんは、この道を真っ直ぐ進めばいるからね」

 少年はぼくに1枚の紙を渡し、「またあとでね」といって何処かへと消えてしまった。


 ふと、おなかあたりが暖かいことに気づき、恐る恐るめくってみる。

「あ」

 爆弾が、ない。

 あった場所には、熱をもった薄っぺらい、砂のようなものが入った何かが貼ってあった。

「いつのまに……」

 ぼく『さぁかす』のある方を見つめた。


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