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箱舟が出る港  作者: 村雨 正巳
12/16

死に風吹き行く ~ある姉弟の話 その参~

 テディベアを抱いて姉がすやすやと眠っている。

 普段は気の強い姉だがさすがにさっきのは参ったようだ。

 親父が飲んでいる安定剤が居間の薬箱にあった。

 それを思い出し何錠が飲ませて、やっと落ち着かせ、眠らせた。

 カーテンは開けたままだ。

 明けといてねといわれ弟はわかったと布団を敷いてやった。

 思い直してみれば一瞬姉の顔が形容も出来ない異様な白に染まったこと、触角ヘアーだった髪型がお嫁さんのようになったことに恐怖を覚えたが、街灯りはなんの変化もないことに安堵のため息を吐いた。

 親父とお袋が二階で寝ているが助けを求める歳でもない。

 身長はとっくに父親を超え野球で鍛えた体は普通の大人なら弾き返されるだろう。




 今年十七才になる、姉はひとつ上の十八だ。

 ふたりとも住まいの県都からすこしはなれた常央大学付属大洗高校に通っている。

 部活が終わり帰宅するはいつも二十二時ころ。

 姉は強くないテニス部なので二十時前にはたいてい帰っている。

 弟が帰宅すると姉はみかんを食べながらテレビを見ていた。

 おかえりと笑顔をむけられるとすぐにテーブルの上にあった夕食を貪った。




 「ねえ、野球部に磯前くんていうイケメンの一年生がいるでしょ?」

 「磯前?・・・あああいつね。使い物にならない晴海か?」

 「いいえあたしは顔を言ってるの。あんたのようなガチムチの筋肉馬鹿と違って細くてスタイルがよくって!」

 「そりゃあ残念だなあお姉。あいつは彼女がいるよ」

 「えっえっそれマジ?いい加減なこというと怒るよ?」

 「昨日な、転校生と屋上でデートしてたって話だ。なんでも高月とかいったな」

 「高月っていつかあんたが話していた子?練習試合に現れたって子?」

 ふたりはそんな話をしていた。




 疲れたし明日があるからと居間の電気を消そうとした時姉の顔が死人のように白くなった。

 髪型も花嫁のような文金高島田に見え、古い写真のようなセピア色を印象づけた。

 謎だが考えていても仕方がない。現実は終電車が駅に着いたところだ。

 固まっていた駅前が動き出し常変わらぬ現実は弟の眠気を誘った。

 やはり気のせいだったんだと弟は姉の隣に布団を敷いた。












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