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箱舟が出る港  作者: 村雨 正巳
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香 ~こう~ その壱

 納骨を終えた後、その家の広間には、親族や近所の住民がまだ残っていた。

 ひとり、ふたりと別れの挨拶をした後、とりわけ縁が深かった者たちだけで、

酒を飲みながら遺影を囲み、思い出話をしていた。

 死因は心臓発作、もう誰もが聞かされていた。

 田舎だから情報が早い。



「あの頑健なまーちゃんが心臓発作とはねえ・・・ねえ奥さん、会社で残業とか多かったの?」

「いいえ、ちゃんと毎日夕方七時ころには帰宅してました。休日出勤もなかったです・・・」

 死因をいぶかしんでの問いではない、会社で夫は崩れるように倒れた。

胸が痛いといいながら。

 まだ37歳であったが、頑健な者が突然逝く、こんな例は世の中にはいくらでも、ある。

 おざなりの問いかけは故人に対する少しの憐憫と小さな嫉妬であった。

 妻は涙も彼果てたやつれた顔をしていたが、今まさに下がろうとする夕日を浴びた朱の色がめだたなくして、いた。



 仲の良い夫婦だったと鬼頭堅司は振り返る。子供がいなかっただけが救いかと遺影に語った。

 「そうそう鬼頭さん?」

隣の家の太った年増女が寿司をほおばりながら、思い出したように太い彼のひざをたたいた。

 「二週間?ほど前だったかしら。那珂川の堤防で40代くらいの方が・・・」

 「・・・ああ、あれですか、同じように心臓麻痺ですよ。新聞にも出たはずですな」

 何かと興味を持つ太った隣近所の女だが、関連を疑っているわけではない。

 二週間という短い時間の中、ふたりの働き盛りが近場で、同じ心臓麻痺で亡くなったことに興味を示していた。



 鬼頭は警察官であった。



 年増の顔に涙はない。

 年下の夫が42歳であり、定職につかずごろごろしている。生命保険をかけている。

 ―――残業どころか定職に就かないあのごろつきこそくたばってくれたらなんと幸いなことか。

 その好色そうな色もたたえた瞳に嫌気がさした鬼頭は「人の運命など誰にもわかりません、どれ私はそろそろ・・・」

 年増のどぎつい香水に辟易して立ち上がった。

 ―――こんな場に流す香りではなかろうが。しかしだ・・・なんだこの香りは?一度も嗅いだことも聞いたことも、ない。

 鬼頭の妻は大手化粧品会社の研究職だ。非番の時にたまに、匂い、の協力をしているから、

一般人より多々な香りの分別は出来る。

 だが?

 


 ふむう・・・と首を少しかしげた刹那

 「そういえば鬼頭、お前もうすぐ子供が生まれるとか?」

同窓の男がビールを飲み干し、「良かったな」と話しかけた。

 「ああ、今から常央大病院にいかなきゃならん、故人には申し訳ないが」

 


 時折鬼頭の手が心臓に行っていることに誰もが気にしなかった。
















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