第六話 麻衣ちゃんは考えていました。
うちは、真嶋麻衣。
ウィッチアカデミアの一年生。
ヒカリエにある、うちの自慢のセレクトショップで、自慢のお母さんの手伝いをしてる。
いつかお母さんと一緒に洋服を作りたいって思って、うちはこの学校に来た。
お母さんはほんまに良い人で、かけがえのない存在。
幼い頃に自動車事故に遭ってこの世界にやってきたうちを引き取ってくれたこと、今でも感謝しとる。
感謝してもし足りひんくらいに。
その事故ではうちだけが死んだ。
だからこの世界に来た時、まだ子どもやのに身内がいないっていう理由で教会に預けられた。
教会には、うちと同じような境遇でこの世界に来た子どもたちがたくさんいて、生活を共にしてた。
教会のシステムはめっちゃ単純で、幼い頃に教会で育てられた子どもたちがやがて大きくなった時、その大人になった子どもたちが新たに預けられた子どもの面倒を見る。
その繰り返し。
そうやって教会は機能してきた。
この世界では、魔女見習いたちが食料だけは無限に生成してるから、食べるのに困ることはない。
けれど、教会に預けられた者は、教会の外には出られへん。
この世界に来た時点での年齢が十五歳未満で、家族や身内と一緒に来なかったという理由だけで、教会という檻の中からは、鎖に繋がれた犬のように逃げられなくなる。
その鎖を断ち切り、檻から逃げ出す唯一の方法。
それが、親を持つことやった。
この世界に、家族と一緒のタイミングで死ねなかった子どもがやってくるのと同様に、現世に子どもを残してきた人や子どもを授かることができないまま死ぬことになってしまった人が当然やってくる。
その両者を結びつけるのが教会。
教会は、お互いの心の穴を埋めるための解決策でもあるんや。
なんて言ってしまえば聞こえがいいかもしれん。
でも、実態はそんなに甘くない。
まず、この世界に来てもなお子育てをしたいと思う人は、想像以上に少ない。
子育てはそれだけ煩わしいもんなんかもしれん。
うちにはまだ分からんけど。
そして、子育てがしたいから引き取りたいと思って教会に行っても、条件が一つ突きつけられる。
それがお金。
二十万ヘイブンを教会に収めることができない人は、問答無用で帰される。
それだけに、引き取ってもらえる機会は貴重で、うちはたまたまその機会を手に入れた。
死んだのが五歳の時で、引き取ってもらった時が八歳。
ほんまラッキーやった。
だから、お母さんはほんまに大事な人。
大事な人から与えられた恩を百倍にして返すために、必死に勉強してやっとスタートラインに立てた。
うちがこの学校に来た目的は、勉強して立派な魔女見習いになること。
そのはず、そのはずやのに!
気になる、気になる!
ヨイチくんが他の女の子と喋ってるのが気になるー!
なんなん、あの子、桜田雫!
席が近いからって、なんであんな楽しそうに話しとんの!
この学校には、ヨイチくんと二人で頑張って勉強して、オープンキャンパスも二人で行って、んで入学したのに。
うちの方が付き合い長いのに、なんであんなに仲良いのさ!
なんでこんなこと考えてしまうんやろ。
ってかヨイチくんのこと考えるようになったんやろ。
初めてお店でヨイチくんにあった時、うちは羨ましいなって思った。
教会を経験せずに親を見つけるなんて、運良すぎやって思った。
でも、うちの夢を応援するって言ってくれて、僕もその学校に入学したいから一緒に勉強しようって言ってくれて、一緒に勉強して。
知らないうちにどんどん仲良くなってた。
うちにとってヨイチくんは、この世界でできた初めての友達やった。
この話をお母さんにしたら、「勉強も大事やけど、恋愛も大事よ。いろんな意味で学校を楽しみなさい!」っていつも言う。
ってか、恋愛って何!
どんな感情が恋愛なのか、経験のないうちには分からん!
現世でもうちょっと生きとったなら分かったんやろか。
もう死んでるから今更遅いですけどね!
それより何よりとにかく、この状況はなんとかせなあかん。
ヨイチくんがあまりに桜田雫と仲良くするから、なんかプンプン丸になっちゃって口利いてないけど。
ヨイチくん、そのせいでだいぶヘコんでるみたいやし。
やっぱり、何か言いたそうにしてるの聞いてあげなあかんかな。
でも、うちのしょっぱなの自己紹介妨害したり、うちの目の前で仲良くするのが原因なんやで!
もう、ヨイチくんのあほー!




