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第三話 僕はオネエさんに出会いました。

ガチャッ


「うっ、眩しい・・・」


 昨日、眠る前に妄想していたこと。

 計画通りの展開ではなかったが、結果として外に出ることになった。

 荷物持ちだけど。

 全くもってデートではないのだけれど。

 それでも、不満はない。

 この世界の外を初めて踏みしめるのだから。

 月面に初めて足跡を残した宇宙飛行士の気持ちが、今なら理解できる気がした。

 外の光は、思いの外眩しかった。

 いや、光が眩しいわけではない。

 道が白いのだ。


「ヨイチちゃんー、外に出るのは初めてだよねー」

「はい・・・」


 眩しさに目が慣れるまでしばらく時間がかかりそうだ。


「眩しいかなー?あたしも最初は眩しかったよー」

「なんでこんなに白いんですか?」

「それはー、ヘブンズシティ全体がー、天使結晶っていう材料でできてるからだよー」

「てんしけっしょう?」

「天使結晶はー、名前の通り天使しか生成できなくてー、その結晶を加工して土木工事などに使えるのもー、天使だけなんだよー」

「ああ、天使結晶!」

「理解したかなー?」

「なんとなく分かりました。その天使結晶が白いから道路が白かったり白い建物が多かったりするわけですね」

「その通りー、さすがヨイチちゃんー!あたしの家はー、オプションで色付けしてもらってるからちょっと高いんだよー」

「そうなんですか!」


 話をしているうちに目が慣れてきたので振り返ってみると、確かに色付けがされていた。

 綺麗な・・・オレンジ色に。

 ・・・目立つな。

 アンさんはオレンジ色が好きみたいだ。


「お隣さんは白のままだけどー、そのお隣さんは水色で塗ってるしー、緑とか金の家もあるよー」


 歩き進んでみると、家の大小と色彩のコントラストが、まるで絵本の中のような世界を作り上げていた。


「美しいって言葉が似合いますね」

「ヨイチちゃんー、あたしのこと口説いてるのー?お母さんだって言ってるでしょー!」


 でたでた、アンさんの勘違い。

 天然なところが玉に瑕だ。


「風景がですよ!」

「またー、照れちゃってー」


 ほんと違いますから。


「勘違いしないでください!」

「口説いてるんでしょー、このこのー」


 もうつっこむのもめんどくさいな。


「いやん、口説かれちゃったわん」


 いや、オネエ口調になってるし。

 さすがにふざけすぎだ。


「ほんといい加減にしてください!」


 僕もキレるときはキレますよ。


「二人同時に口説くなんてねー」

「ねー、ほんと隅に置けない子ねん」


 ・・・ん?


「この子、貰っていいかしらん?」

「ダメですー、ヨイチちゃんはあたしの息子なのー」


 なんか・・・一人増えてないか?


「あの・・・」

「あら、何かしらん?」

「ヨイチちゃんはー、あたしに話しかけたのー」

「そんなことないでしょ、ねーん」

「アンさん、隣の方は・・・」


 アンさんの隣には、いつの間にかおじさん、いや、オネエさんが増えていた。


「この人はねー、お向かいのマカオデ・モホさんだよー」

「こんにちは、ヨイチちゃん!モホさんって呼んでねん」

「よ、よろしくお願いします・・・」


 急に変なキャラ出てきたー!

 しかも絶対本名じゃないですよね!

 逆から呼んだら、「ホモでオカマ」になるなんて、これだけ堂々と公言してる人初めて見た!


「ってか、いつからいました?」

「いやーねーヨイチちゃん、冗談がお上手!最初からいたわよん!玄関から出てきたとこからん」


 いやいや、絶対いなかったですよ!

 こんなキャラの濃い人の存在に気づかないわけないじゃないですか!


「美しいって言ってくれて嬉しかったわん」

「もー、モホさん、あれはあたしに言ってくれたのー」

「アンジェリーは黙ってなさいん」


 なんだ、この会話は。

 オネエが一人入るだけでこんなにも盛り上がるのか。


「それにー、先生だからってプライベートで魔法を使っちゃだめでしょー」

「バレなきゃいいのよ、バレなきゃん」

「魔法?」

「この前ヨイチちゃんに説明したでしょー、魔女見習いの仕事があるってー。その魔女見習いを養成するウィッチアカデミアっていう学院でー、先生をしてるのがモホさんなんだよー」

「先生なんですか!」

「そうなのよん。ヨイチちゃん、まだ若いんでしょん?ぜひうちの学院に入ってねん!歓迎するわよん」

「ヨイチちゃんの進路を決めるのはあたしですー」

「何よ、お母さんヅラしちゃってん!」

「だってー、お母さんですもんー」

「まあまあ、お二人とも・・・」

「透明魔法を使ってたことデヴィさんに言いつけちゃうからー」

「それだけはやめなさい、アンジェリーのばかん!」

「ヨイチちゃんとの楽しい時間を邪魔した罰ですー」

「キイー!わたしは今からそのデヴィさんのところに行かなきゃならないんだからん!絶対言っちゃダメよん!分かったわねん!」


 そう言い残してモホさんは行ってしまった。

 箒に跨って飛んでいく姿は、まさに魔女そのものだった。

 なるほど、魔女になれば空を飛べるのか。

 でも魔女って、魔の女って書くぐらいだから女性しかなれないのか?

 モホさんは・・・例外・・・的な。


「行っちゃいましたね」


 嵐の後の静けさとはまさにこのことだ。


「ほんと落ち着きのない人だよー」

「ところでアンさん、なんで透明魔法を見抜けたんですか?」

「そんなのー、足音が聞こえたからに決まってるじゃんー」

「足音ですか?」

「姿が見えないのにー、ヨイチちゃんとあたし以外の足音がするなんてー、いたずら好きのモホさん以外考えられないってことー」

「なるほど」


 魔法といっても万能ではないということか。


「あっ、それからデヴィさんって誰なんですか?」

「デヴィさんっていうのはー、魔女見習いを統括している魔女でー、魔女の中で一番偉いんだよー」

「そうなんですね」

「ちなみにー、あたしの上司っていうかー、死神で一番偉いのはー、デーモン大暮閣下さんねー」

「はあ・・・」


 それはどこからどこまでが名前なのでしょうか。

 デーモン大暮さん?

 それともデーモン大暮閣下さん?

 どちらにせよ、人から閣下と呼ばせるなんていかにも大物って感じだ。


「ちなみにー、天使で一番偉いのは誰なんですか?」


 うっかりアンさんの言葉遣いがうつってしまった。


「天使はねー、ハシモトさんだよー」

「ハシモトさん?」


 日本人ですか?


「ハシモトさんはねー、千年に一人の逸材とかー、天使すぎるアイドルとか言われててー、写真とか撮るといつも奇跡の一枚になっちゃうんだよねー」


 どこかで聞いたことのあるフレーズが並んでいる気がした。

 まあ、気のせいということにしておこう。


「まさにー、天使の中の天使ってところだよー」

「さすが天使ですね。聞くところ悪い部分が見当たらないです」

「そんなことないよー。態度がちょっとでかいのとー、あとは・・・まああんまり関わらない方がいいかもねー」

「そうですかね」


 そんなことないでしょ、アンさん!

 態度が少々でかいぐらいのマイナスは、プラスで全て打ち消せますよ!

 これからは天使代行の仕事に就けるように頑張ろうかな。

 エンジェルハシモトさんの下で働くという目標ができちゃいました。

 ってかどうでもいいが、なんだか騒がしくなってきてないか。


「着いたよー、ヨイチちゃんー」

「え、あ、はい」


 どうやら話しながら歩いているうちに目的地に着いたみたいだ。

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