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第十七話 パート死神とすれ違いました。


「うわー、きれい」

「中は外とは全然違うぞ」


 三人に追いつき屋内を見た僕は、サニーくんの言葉に納得した。

 外見のへんてこさとは対照的に、屋内は豪華な装飾で彩られながらも整然としていて、落ち着いた空間が広がっていた。

 高級ホテルのロビーを彷彿とさせる。

 ヘルゲートのイメージは、この時点ですでに三百六十度以上回転していた。


「スミレ、地図見つけちゃった、きゃはっ」


 そう言ってスミレちゃんは、右前方を指差していた。

 確かに、その先には屋内案内図が示された大きな立て看板があった。


「ここって引渡し所なんだって」


 近くまで駆け寄り見てみると、このフロアは魂の引渡し所として使われているらしかった。


「あそこで受付でもするのかな?」


 麻衣ちゃんが見ている方向には、ヘルゲートの従業員らしき人たちが集まっている場所があった。


「あっ、今誰かがそっちに向かっていったぞ」


 入口から入ってきたその人は、僕たちには目もくれず、受付らしき場所へと歩みを進めていた。


「パート死神、ガイル・グエンです。ヘルゲート行きの魂、五十三人分を持ってきました」

「ご苦労様です。お預かりします」


 彼はパート死神だった。

 そして、僕たちは今まさにヘルゲート送りと判断された魂が引き渡される瞬間を目撃しているのだ。


「ああやって渡すんだね、初めて見たよ」

「うちも初めて。ってかみんな初めて見たよね?」

「うん、きゃはっ」

「はい」

「その通りや」


 パート死神は、ヘルゲート従業員に袋のようなものを渡していた。

 そういえばアンさんが、「ヘルゲートにはー、一度に何人分も持っていくからー、人間を魂の形に変えて持っていくんだよー」と言っていた気がする。

 つまり、あの袋は人間を魂の形に変えることができる道具。

 パート死神の必須アイテムということになる。


「あそこから出したら、また元の姿に戻るんだろうか」

「え?ヨイチくん、どういうこと?」

「多分、あの袋に人間を入れると魂の形が変わるんだよ」

「それって、今のうちらみたいな姿とは違う形ってこと?」

「そう。今僕たちは、現世で生きてた頃と同じ姿で、年をとるごとに成長してるけど、僕たちは死んだ人間なんだから、結局のところ、この姿は本来の姿じゃないってことだよ」

「スミレ、難しい話はよく分かんないよ、きゃはっ」

「つまり、わたくしたちはこの世界で生活するためにこの姿をしているだけで、通常死んだ人間は全員、あの袋の中に入っている魂と同じ形だということです」


 雫が付け加える。


「つまりおれたちは、もっとコンパクトやってことか?」

「まあ、そんなところかな」


 そうだ。

 この世界に慣れきってしまって忘れかけていたが、僕たちは死んでいるのだ。

 その事実を改めて思い知らされた瞬間だった。


「よしっ!じゃあ、うちらも受付のところに行きますか!」


 死んでいるという事実をみんなが改めて認識することになってしまったので、空気が少し重たくなっていた。

 そんな空気を変えてくれたのは、麻衣ちゃんだった。


「そだね」

「そうや!今日はあの受付を越えて、中まで見学できるんや」

「早く行こ、きゃはっ」

「行きましょうか」


 僕たちは、受付に向かって歩いていった。

 途中で、さっきまで受付にいたパート死神の人とすれ違ったが、彼は不思議がる様子もなく帰っていった。

 僕と目が合った気もしたが、まあ気のせいだろう。


「ウィッチアカデミアの生徒さんですね。どうぞ」

「ありがとうございます!」


 受付はとてもスムーズで、僕たちはすぐに中に入ることができた。

 今日はウィッチアカデミアがヘルゲートを貸し切っているみたいなものなので、生徒証を見せるだけで中に入ることができるようになっていた。


「そちらの扉が二重扉になってますので、二枚目の扉を抜けた先が天使結晶の生成場になっています。生成場への出入り口はこちらだけになってますので、出られる際もこちらからお願いいたします」

「分かりました」


 セキュリティの問題なのか、出入り口は一つだけらしい。

 僕たちは一枚目の扉を抜け、二枚目の扉までの長めの廊下を歩いていく。


「出入り口が一つってことは、ここまで戻ってくる時間を考えなきゃいけないってことだよね」


 集合時間に遅れるようなことがあれば命はない。

 レイ先生の逆鱗には触れないようにしなければ。


「そうだね。実際どれだけの広さがあるのかは分からないけど」

「おれが時間を見ておくから、みんなは時間を気にせず見学してくれていいぞ」

「サニーくん、ありがとう」

「サニーはお兄ちゃんって感じがするー、きゃはっ」


 スミレちゃんの「お兄ちゃん」、には愛くるしさが凝縮されていた。

 僕もスミレちゃんから「お兄ちゃん」、と言われたい。

 三十分は聞いていられそうだ。


「ヨイチさん、また顔が歪んでおられますよ」

「い、いや、そんなことは・・・」


 いかんいかん。

 早く緩んだ顔を戻さなければ。


「あっ、戻った」

「戻った」

「戻った、きゃはっ」

「戻りましたね」


 ・・・このやりとり、さっきもやったよね。

 ほんと息ピッタリ。


「いよいよ、工場見学だよ」


 話をしているうちに二枚目の扉に到着していた。


「ここからは、アンさんも知らない世界・・・」


 厳重な装備をした従業員二人の間にある扉を越え、僕たちの工場見学は始まった。

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