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第十六話 ヘルゲートはすごい建築物でした。


「ヘルゲートに・・・来たん・・・だよね」

「うちは・・・そのつもりやったけど・・・」

「みんな・・・これは・・・すごいぞ・・・」

「きゃ・・・きゃはっ」

「まさに芸術ですね」


 芸術・・・。

 一言で言ってしまえばそうなのかもしれない。

 雫の発言は、決して間違ってはいない。

 しかし、これをピカソが見たらきっと驚愕するだろう。

 なんたってこれは・・・芸術の域を・・・超えている。


「あっ、あそこになんか書いてあるよ!」


 入口に配置された大きなモニュメントには、何か文章が書かれていた。


「どれどれ・・・」


 そこには、ヘルゲート設立の経緯が書かれていた。


「ヘルゲートは、天使結晶の生成のために設立された工場である。それと同時に、デーモン大暮閣下が黒き魂と判断した人間の収容施設でもある。現在の建物は、エンジェルハシモト様の最重要命題であった、芸術的な建築物としてのヘルゲート、を体現したもので、元賢者のゴッホが絵を描き、その絵に対して元賢者のガウディが設計し、天使代行の技術の粋を結集して造り上げた一大建築物である。なお、ゴッホとガウディは、完成後、満面の笑みを浮かべて抱き合い、笑顔のまま死を選んだ。エンジェルハシモト様は、その栄誉を讃えて、彼らを名誉賢者とし、彼らの魂から作られた天使結晶を加工して、ヘルゲートのシンボル像を造ったことを追記しておく エンジェルハシモト様」


 これは・・・。

 なんか色々とおかしい!


「ゴッホとガウディって誰だ?」

「うち、聞いたことない。エンジェルハシモトさんのお友達かな?」

「スミレにはー、難しい話かも、きゃはっ」


 こいつらは・・・まあ置いておこう。

 死んだ年齢が若すぎて教養が足りてないだけなのだから。


「雫、お前なら分かるよな?このおかしさ」

「そうですね、これは興味深いことばかり書いてあります」


 さすが雫。

 下ネタ知識が豊富なだけある。


「ヨイチくんと雫ちゃんは、これの意味が分かるの?」

「意味というか・・・すごさがね」

「雫と洋一くんすごい、きゃはっ」

「それは是非教えてもらいたいものだな!」


 みんなから褒められて思わず鼻の下が伸びそうになった。

 緩んだ顔を引き締める。


「まずすごいのは、ゴッホとガウディだよ」

「ゴッホは有名な画家、ガウディは有名な建築家です。その偉大な二人のアーティストがタッグを組んだことはもちろん衝撃的なことですが、彼らが最終的に造りたかったものがこれだということが何よりも衝撃的なのです」

「そう、そういうこと!」


 ゴッホもガウディも不運な死を遂げたアーティストだ。

 その彼らが、死後も芸術と向き合い、最終的にこの建築物を造り上げたのだ。

 二人ともが笑顔のまま死を選択したという記述を信じるならば、ゴッホがほんとに描きたかった絵はこれで、ガウディがほんとに造りたかった建築物はこれということになる。

 あの、未完の作品の最終形態はもしかしたらこれだったのではないかと思うと、死んでから造ってくれてよかったと思わざるを得ない。

 それほど、この建築物は突飛なのだ。


「それから、エンジェルハシモトさんのセンスもなかなか・・・」


 この建築物は、エンジェルハシモトさんの最重要命題に沿って造られたと書いてある。

 つまり、エンジェルハシモトさんが是としたのだから、そのセンスにも驚愕せざるを得ない。


「さらに元賢者って部分」


 賢者とは、死神代表のデーモン大暮閣下さん、天使代表のエンジェルハシモトさん、魔女代表のデヴィさんの三大代表者の元で、知識を提供する十二人の知識人のことだ。

 賢者には、現世で偉大な功績を残した人しかなることが許されず、代表者から直々にオファーを受けた後、グレゴリーユニブでの教育を受け、そこで優秀な成績を残した人が賢者に選ばれるという仕組みになっている。

 ただ、賢者の枠は十二人分しかないので、誰かが辞めるか交代しない限りは賢者になることができない。

 グレゴリーユニブには賢者もどきがたくさんいるのだろう。

 その厳しい競争環境の中で、ゴッホとガウディは賢者としての地位を確立していたのだ。

 この事実に驚かないわけがない。


「あとは・・・エンジェルハシモトさんの・・・」

「エンジェルハシモトさんの?」

「態度がでかいという話は本当だったということです」


 そう。

 最後に自身の名前を書いているのだから、この文章を書いた、もしくは書かせたのはエンジェルハシモトさんだろう。

 しかし、自分自身で書いたか書かせたかには関わらず、名前に様をつけているあたり、態度がでかいという事実を認めざるを得ない。


「この文章でそんなにいろんなことが分かるんだね。そのことをすぐに理解したヨイチくんと雫ちゃんってほんとすごい!」

「洋一くんと雫は物知りだ、きゃはっ」


 物知りというか・・・みんなが物知らずなだけなのでは・・・。


「それにしてもこの建物、外がこんなんだから中はきっともっとすごいよ!」

「真嶋さんの言う通りや!建物のすごさも分かったことやし、中入ろうや!」

「スミレも賛成、きゃはっ」


 ここまで説明はしてみたが、結局のところ、物知らず三人組にはこの建物がどれだけすごいものなのかということはどうでもいいのだ。

 見た目がすごいのだから中身もきっとすごいのだろう、と期待を持てるようなものであればいい。

 誰が造って、その人がどれだけすごくて、文章からどんなことが読み取れて・・・なんてところに興味が向くのは僕と雫だけなのだ。


「下ネタを知らないんだから、ゴッホやガウディを知ってるはずがない」

「そうですね。賢者モードの話も説明をするだけ無駄でしたね」

「賢者の話はしたけど、賢者モードの話はしてないからね」


 僕と雫は、お互い意味のないことをしてしまったと反省しつつ、走っていく彼らの後を追いかけた。


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