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第十一話 アンさんは自慢のお母さんです。

 僕は初めて、現世でのアンさんのこと、そして僕を息子にした経緯を聞いた。

 現世でのアンさんは、ほんとに幸せな生活を送っていたのだ。

 それを壊した人がいる、そしてそれによって壊れたアンさんがいる、それを思うと涙が止まらなかった。


「なんで泣いてるのかなー?」


 涙を浮かべながらアンさんは尋ねた。


「な、なんでもないよ」

「同情とかー、そういう感じー?」

「それは違う。アンさんの悲しみは、僕の心では計り知れないよ」


 そうだ。

 アンさんの悲しみは、底なしの沼だ。

 決して救われることはない。

 僕みたいに、この世界で青春をやり直してやるなんて切り替えられるような生易しい経験ではない。

 現世でもこの世界でも、アンさんは悲しみの中だ。


「今更だけどー、勝手に息子にしてごめんねー」

「ううん、僕は嬉しいよ。だって、アンさんが息子さんに注いであげられなかった分の愛情を、たっぷり僕に注いでもらえるんだから」

「ヨイチちゃん・・・」


 アンさんは泣きながら笑った。


「僕は・・・アンさんの息子だよ!これからもずっと一緒だから!」

「ヨイチちゃんー!」


 アンさんは、僕に抱きついてきた。

 豊満なおっぱいを僕はしっかりと受け止める。


「ヨイチちゃんー、ありがとうー」

「いいえ、こちらこそ」

「学校頑張るんだよー」

「うん、モホさんを超える魔女見習いになるよ」


 その夜僕らは、現世でのことについて語り合った。

 アンさんの現世での幸せだった生活について、そして僕が現世でいじめられていたことについて。

 ありのままを話し合った二人の絆は、より強くなった気がした。

 分かったことは、僕のお母さんは二人とも、自慢のお母さんだということだ。


「アンさん、行ってきます!」

「ヨイチちゃんー、いってらっしゃいー」


 いつもと変わらぬ朝。

 いともと変わらぬ風景。

 いつもと変わらぬ会話の中に、確かな変化を感じた。

 アンさんは過去を語り、僕も過去を話した。

 過去を共有した僕たちに、もはや血の繋がりなど関係ない。

 お母さんに見送られて、僕は学校へと向かう。


「あっ、ヨイチくん、おはよー」

「おはよー」


 しばらく歩いていると、麻衣ちゃんに会った。

 昨日別れたあの場所で待っていてくれたみたいだ。


「せっかく同じ西洋倶楽部のメンバーなんだし、これからは一緒に学校行こうね」

「うん、そうしよう!」


 なんてありがたいお言葉。

 麻衣ちゃんとは完全に仲直りができていた。

 アンさんとのことも相まって、僕は朝から最高の気分になった。


「あ、スミレちゃんだ、おーい」


 学校が近づくと、スミレちゃんが見えた。

 シックな日傘をさしている。

 あれが十一歳とは・・・。

 日傘なんかさしてないで真っ黒に日焼けするぐらい外で遊びなさい、なんて考えを十一歳に押し付けてしまう僕は古いのだろうか。


「あれ、麻衣と洋一くんだ、おはよー、きゃはっ」


 語尾には・・・もうすっかり慣れてしまった。

 確立されたキャラ設定には文句を言えない、というのはまさしくこのことだ。


「おはよー」

「スミレちゃん、昨日の生成術の授業すごかったね。うちなんてぐちゃぐちゃだよ、ぐちゃぐちゃ。スミレちゃんは何を生成したの?」


 そういえば、手を挙げていたのは見えたが、何を作ったのかは僕たちの席からでは見えなかった。


「スミレはー、飼ってる犬を想像してたから、それが出来ちゃった、きゃはっ」


 スミレちゃんは犬を買ってるのか。

 いや、でも動物の魂はすぐに天使結晶の材料にされるんじゃなかったっけ?


「犬ってこの世界にいるの?うち、初耳だよ」


 僕だって初耳だ。


「うん、なんかねー、スミレが死んだ時に、一緒にいたペルシャンスも死んだんだけど、この子と一緒にいたいですって願ったら一緒にヘブンズシティに来れたよ、きゃはっ」

「へー、そうなんだ」


 僕と麻衣ちゃんは、声を合わせる。

 それは知らなかった。

 そんなこともあるなんてやっぱりここは不思議だ。

 まだまだ知らないことがたくさんある。

 それにしても、ペルシャンスなんて犬の名前にしては上品すぎやしないか?


「スミレが学校に行ってる時はー、お母さんが面倒見てくれてるよ、お父さんはお仕事だから、きゃはっ」


 ってことは、スミレちゃんは事故か何かで家族全員一緒にこの世界に来たのか。

 死んでしまったのは気の毒な話だけど、家族全員一緒のタイミングで死ねたことは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 スミレちゃんだけが死んでいれば、麻衣ちゃんと同じで教会暮らしになっていたのだから。


「今日も学校楽しみだね、きゃはっ」

「そうだね、うちも楽しみ!」

「僕も楽しみかな」

「洋一くんはなんか楽しみそうじゃない、きゃはっ」

「そ、そんなことは・・・」

「そうだよ、うちみたいに楽しそうにしなよ」

「難しいなあ・・・」


 会話が弾むうちに教室に着いていた。

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