プロローグ
中三の夏休み、僕は死んだ。
それは突然の出来事だった。
塾に通っていた僕は、金曜日の授業を終え、夜八時からのミュージックSSに出演するダンプオブキッチンを楽しみにしながらウキウキ気分で帰る途中であった。
受験前最後の夏休みは、まさに地獄だった。
塾での授業は休みがなく追い込み体制で、生徒たちは常に殺気を漂わせていた。
また、誰かが始めたせいで塾内に一斉に広まってしまった「ハチマキを巻いて授業に臨むブーム」のせいで、先生たちのやる気も尋常ではなかった。
地球温暖化の原因はこの塾にあるのではないかと思えるぐらいの熱がこもっていた。
なので、楽しみの一つや二つ無いと息が詰まりそうだったのだ。
しかしその日は、ミュージックSSにダンプオブキッチンが出演するというだけでウキウキしていたわけではなかった。
塾でラッキースケベにたくさん遭遇したのだ。
窓から入ってきた風に揺れたスカートがひらりとめくれ上がり、エロさ十分の白いパンツを見ることができたラッキースケベから始まり、突然の夕立でコンビニに昼ご飯を買いに行った女子たちがずぶ濡れになり、そのおかげで白いブラウスからエロいブラジャーを見ることができたラッキースケベ、最後は振り返った際にたまたま開いていた女子トイレから見えた女子たちのおふざけによるラッキースケベまで、エロの神様のご加護を受けていることを実感した一日だった。
さらに言えば、この前告白した女の子から手紙を貰っていた。
トイレに行くために席を離れた僅かな時間に机の中に入れるという漫画のシナリオのようなシチュエーション。
僕は、乙女心ならぬ乙メン心をくすぐられたのだ。
手紙には、「明日、買い物に付き合ってもらえませんか?十一時に三角公園で待ってます」なんて書いてあった。
直接言葉で伝えるのがよっぽど恥ずかしかったのだろう。
行くよ、双葉ちゃん、十一時に三角公園!
そして付き合おう!
ああ、神様仏様、本当にありがとうございます。
僕は今日死んでも構いません。
あ、ついでに今日の夜中の金曜セクシーナイトがエロい回だともっと嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
なんて考えていたほど僕は浮かれていた。
完全にウキウキだった。
そんな時だった。
後ろからキキキィーとかガガガァーとかものすごい音がしたのは。
次の瞬間、歩道に乗り上げてきたトラックにジャストミート。
いわゆる即死だった。
痛みは全くと言っていいほど無かった。
ただただ血を流し続ける僕。
僕の人生はここで終わった・・・はずだった。
そして現在僕は高一。
高校の入学式を無事に迎えていた。
温かい日差しを浴びながら新緑の中を歩いている途中だ。
何で中三で死んだはずの人間が高校に通ってるかって?
それじゃあ、順を追って説明しよう。
これまでのことについて。