06
「トキイロさん!」
まだ全員を倒し切れていない。恐らくはまだ誰かを倒している最中であろうカンゾウさんの叫び声が聞こえる。……また自分を責めるのかな? これは私のせいだからそれはやめてほしいよなぁ。なんて事を考えていたら。
「お前ぇぇぇ!!」
レーノの怒鳴り声が聞こえてくるではないか。よくそんな体力残っていたね? でもそれは誰に怒っているの? ヘマをした私? それとも攻撃してきた人? ……どうやら後者のようだ。
「どいつもこいつも、皆消えちまえよ!」
まだ知りあって日は浅い。でも明らかにいつものレーノとは全然違うのが分かる。……止めないと。嫌な予感しかしない。あれだけ威勢の良かった男の人達だって何処か怯えているようにも見える。
それなのに痛みを堪えるのでいっぱいいっぱい。ねえ、お願い。レーノやめて。
「レーノ様! それはいけません!」
「うるせえ、黙れ!!」
これもまた初めて見た。カンゾウさんが声を荒げている姿を。同じ事を思ったのはカンゾウさんもまた同じだった様子。
大慌てで周りの人達を速攻で倒して、レーノに駆け寄ったかと思えば。
「無礼をはたらく事、お許し下さい」
怒り狂うレーノを言葉で説得する事が出来ないと分かってなのか、カンゾウさんはレーノの鳩尾に一発お見舞いし、彼を気絶させた。
それに安心しちゃって、痛みに耐えられなくなった私はそのまま目を閉じた。
太陽の眩しさで、目が覚める。真っ先に視界に入ったのは何処かで見た天井。どうやらあの宿のようだ。起き上がってみても、身体は全然痛くはない。動いても平気だ。……あっ。
「レーノ!」
恐らくカンゾウさんと同室だから、真っ先に私はカンゾウさんのいる部屋を訪れた。あまりにも勢い良すぎたせいで、静かに開けたつもりだったのに、ドアはひどく大きな音を立てた。
「おはようございます。トキイロさん。それから、お静かに」
人差し指を口元に当て、そう言うのはカンゾウさん。その傍のベッドではレーノが気持ちよさそうに眠っていた。良かった。レーノ、ちゃんといる。
カンゾウさんはその後の事を事細かに教えてくれた。カンゾウさんは気絶してしまった私達を早く連れ出す為、手っ取り早く全員をやっつけ、警察に引き渡したそう。
結局私はまた役立たずだった。でもそれを言ったら、また心配かけちゃいそうだから言わないでおこう。
私やレーノの傷を治したのはこの宿屋のおばさんの魔法。なんだか私のあばら骨、やっぱり折れていたみたい。聞いてびっくりしちゃった。
でも傷は癒せても体力までは回復する事は出来ない。だからこうしてレーノはまだ眠っている。でも。
「あの時のレーノ、凄く怖かった……まるで別人みたい」
「トキイロさん。お願いです。あのレーノ様の姿は忘れて下さい」
「え?」
「……なんでもありません」
何であれを忘れろ、なんて言うのだろう? あんなレーノの姿、忘れたくても忘れられないじゃない。でも、そう言うカンゾウさんの顔が少し辛そうに見えて。どう足掻いても“嫌だ”なんて言えなかった。
「分かりました。……それにしても、レーノが起きたら大変ですね。こんな事をしている場合じゃないぞー、って」
「それは確かに。まあ、なんとかなるでしょう」
こんなに沢山話していると思うのに、レーノは全く起きる気配を見せなかった。ずっと此処で看病したかったから、それを申し出てみたけれど、カンゾウさんがそれを許してはくれなくて。
私の事ならもう大丈夫なのに。レーノと違って捕まっていなかったから、いつも通りに起きられたのだし。
「もう身体なら平気ですって!」
「そのような理由ではなくてですね……言い方を変えましょう。トキイロさんは、ツキシロの情報を集めていただけませんか? レーノ様もその方が喜んで下さると思うのですが」
なるほど、と感心してしまったけれど……それが当たり前と言えば当たり前になるわけで。うん。また役立たずなんて言われたくないしね。
「分かりました。行ってきますね!」
「まずは朝ごはんを済ませてからにして下さいね。あと、身支度も」
……そういえば、私。レーノ誘拐事件のせいで何か大切な事を忘れている気がする。ツキシロさんに繋がるかもしれない情報。なんだっけ。
あっ! そうだ。おばさんに聞いてみないと。確かツキシロさんが宿泊していたのだから。大通りは此処以外にもいくつも宿があるから、この宿じゃなかったら失礼だけど。
「おばさん、おはようございます!」
「あら、おはよう。身体はもう大丈夫なのかい?」
「はい、この通り! 治して下さってありがとうございました! それで、なのですが……」
私は聞いてみた。ツキシロさんの事を。そしたら大正解。ツキシロさんは此処へ少し前に泊まっていたようだ。これはかなり期待しても良いんじゃないかな。
「何処に行くとか聞いていませんでしたか?」
「さぁ、そこまではねぇ……」
「そうですか……ありがとうございます……」
「お役に立てなくて悪いわねぇ」
またゼロからのやり直し。一体どうしたものか。人探しって思った以上に難しいものだ。うーん……。朝ごはんを食べてからまた聞き込みに行こう。
朝ごはんも食べて、さあ聞き込みを本格的に開始するぞ……って時だ。宿を出てすぐに私は数人の人に取り囲まれた。全員何かとても強面な顔をしているのだけど。え? 何かした?
「一連の事件の犯人グループのアジトに攻め込み、撃退したと言うのは貴女ですか?」
「えーっと……はい」
厳密に言えば攻め込んだのは事実だけど、私が撃退(?)したのは一人だけで、後は全員カンゾウさんがやった事。なのだけど……もし報復だったらカンゾウさんには迷惑かけられないし……。
「やはり! 今時間があるなら、ちょっと来ていただけませんか?」
「え!?」
やっぱり報復なのかな、これって。