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05

「此処ですか?」

「ええ、そうです」


 やって来たのはある古びた小屋。ここまで来るのに沢山あるいたせいか、気付いたら辺りはもう真っ暗になっていた。

正直足はフラフラだし、お腹も空き始めている。でもそんな事は言っていられない。だってレーノの方がずっとお腹が空いているのだから。


「~~~~~~!!」

「おや? 目が覚めてしまわれましたか。すみませんが、もう少し眠っていただけませんか?」


 実は、今此処にいるのは私とカンゾウさんだけではない。もう一人いるのだ。レーノをさらった集団のメンバーが。その人が今、カンゾウさんのお腹への一発で再び眠りに落ちた。

 辿り着くほんの少し前。私達はこの人と遭遇する。


「サツじゃない奴らが此処に来る未来が見えたから来てみれば……てめえら誰だよ!?」

「ワタクシ達ですか? 偶然道に迷ったお嬢様とその執事ですけど何か?」


 ……え? 私、お嬢様じゃないし、カンゾウさんが仕えているのはレーノでしょ!? 何でそんな嘘さらっとニコニコと言えるの?


「んなわけあるかぁ! 俺様の未来予知は外れねえんだよ。 あの小屋に何で向かっている事なんてお見通しなんだよ!」

「そうでしたか。流石ですね。しかし……」


 私が嘘はやめてほしいって言おうとした瞬間だった。カンゾウさんは瞬く間に男の人の懐に飛び込んで、お腹に一発食らわせたのは。男の人は何も言わずにその場にくず折れた。


「貴方が気を失ってお仲間が大変になる未来は見えなかったようですね」


 カンゾウさんって、何気に強いよなぁ。流石執事さん? 呆然としていると、カンゾウさんがいつもの笑顔で私の方に振り向いた。


「トキイロさん、あの者たちにはもう逃げる術はありません。行きましょう」

「え。でも……」

「ご安心ください。この男は逃げられないようにしますので」


 そう言って出したのは布切れとロープ。……一体何処から持って来たの。カンゾウさんって本当に執事なのかと疑ってしまうけれど、それは本人に言わないでおこう。……って、


「私、お嬢様じゃないです!」

「おや? ワタクシからすればお仕えしているお嬢様ですが? ……お話している場合ではありませんでしたね。行きましょう」


 カンゾウさんにあっさりかわされたような気がするけれど、言っている事ももっともだ。カンゾウさんが布で口をふさぎ、ロープで自由を奪った男の人を何故か引きずって連れて来て、今に至る。



 正直言うと、男の人にはお気の毒な気がしてきた。二発もお腹にパンチをお見舞いされているのだから。でも騒がれてしまったら困るし……ごめんなさい。


「さぁ、その男は放って置いて。行きますよ。正面から」

「え!? 正面からですか?」

「正々堂々行こうではありませんか」

「は、はい……」


 正面突破って言うのもなんだか怖いけれど。カンゾウさんがいるなら大丈夫かな?

 男の人を放っておいて、私とカンゾウさんはこそこそすることなく勢いよく扉を開けた。そして当たり前だけど、そこにいた人達全員がこっちを睨みつけてくる。全部で五、六人だろうか?

 辺りを見回して、隅の方で私は見つける。目隠しをされて、ロープで縛られて、傷だらけで横たわる……。


「レーノ!」


 返事は聞こえない。多分体中が痛くて堪らないんだろうね。でも気付いたような素振りは見せてくれたから良かった。


「お前達、何の用だ!?」

「まさか道に迷ったとか言うんじゃないよな?」

「なあ、こいつらソヒの言っていた……」


 口々にいろいろ言われても言っ気に答えることなんて出来ない。だけどそれをカンゾウさんはやってのけた。


「ワタクシはこのお嬢様に仕える執事です。そしてあの方はソヒさんと仰るのですね? ソヒさんでしたらすぐそこでお眠りになられています。それから……迷子になったのはワタクシ達ではありません」


 また私をお嬢様扱い……そう、さらって言われると少し恥ずかしい。けれど迷子になったのは確かに私達じゃない。迷子になったのは……。


「もう一人ワタクシが仕えている坊ちゃんが迷子になってしまいましてね。探しに来たのですよ」


 そう、探しに来たのはとっても皆に迷惑をかけちゃった迷子のレーノ。此処にいないなんて言わせない。これだけ言ったらいけないかもしれないけれど、悪い顔した人達がいるんだから。


「そちらで倒れているのが坊ちゃんです。よくもまあいたぶってくれましたね。もし無傷でしたら、何もしないでそのまま連れ帰ろうと思いましたけど。そうもいかないようで」


 声の調子や表情は変わっていないのに何でだろう。カンゾウさんがまとう空気が少し怖い。


「や、やっちまえ!」


 一人の掛け声と同時に私達の方へ男の人達は一斉にやって来た。どうしよう。私、戦うことなんて出来ないよ。


「ワタクシが引きつけますので、隙を見てトキイロさんはレーノ様を……」


 小声でカンゾウさんが言うのを聞き、余計に戸惑う。だって好きなんていつ生まれるの!? そのすぐにカンゾウさんは一人目と対峙して、あっさりと倒してしまう。


「トキイロさん、何をしているんですか!? 早く!」


 そうだ! 早くレーノを……数メートルの距離なのに長く感じてしまう。走りだそうとした、のに。


「女のガキでも容赦しねえぞ!」

「こ、来ないでぇ!!」


 ナイフを振りかざしてくる大きな男の人に、私は不意に思いだしたおばあちゃんのある話が脳裏をよぎり、思わず足で男の人を蹴り飛ばそうと伸ばす。

 見事に男の人に命中はし、撃退する事に成功する。次の瞬間には男の人は転げ落ちて、蹴ったその場所を、痛みを堪えるかのように押さえていた。


『いいかい、トキイロ。もし男にまたいじめられたらね、股間を蹴るんだよ? そこは男の急所。どんな男も苦しむからね』

『そうなの? 苦しませたいって思えるようになったら使ってみる。だから今は必要ないかな?』


 まさかここでおばあちゃんの知恵が役に立つなんて……。って、レーノ!


「レーノ!」

「…………トキイロ」


 幸いにもそれ以上男の人が襲ってくる事はなくて。すぐにレーノの目隠しを外して、縛っていたロープを解いて。彼を自由にした。

 だけど体中は傷だらけだし、声も弱弱しくて。そうなってしまっても仕方のないとはいえ、いつものレーノらしくない。


「カンゾウさん! レーノ助けたよ! レーノ、歩ける?」


 レーノを担いで、立ち上がろうとしたその瞬間だった。まだ全員やっつけっていなかったのに、つい油断してしまったのがいけなかったんだ。


「きゃっ」


 突然何かに突き飛ばされるような感覚に襲われて、何が起きているのかを把握する間もなく私は壁に身体をぶつけていた。

 ぶつけた所がとても痛い。骨とか折れていないよね、これ? 折れていたら最悪だ。助けに来ておいてそれはないよ。

ふと、突き飛ばされた方を見ると、手をかざしたさっきの人とは別の男の人がこっちを向いていて。

 ああ、そうか。この人は魔法を使って私を吹き飛ばしたんだ。私ってば間抜けだなぁ……。

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